第10話 アリシア、ハイピクシーを拘束する

「『ファイヤーボール』!」


「『ウィンドカッター』!」


 あとから放たれたエブリンさんの『ウィンドカッター』が、ハインライトさんの『ファイヤーボール』の炎を取り込む。さながら合成魔法のように炎の刃が周囲の空間を切り裂いていく。


 それでも止まない『アースバレット』による攻撃。


 短期決戦は無理みたいね……。


 ハインライトさんとエブリンさんの頭の上にも防護フィールドを展開。簡易的だけど、しばらくは凌げるはずよね。


 そうだ。周囲の空気に干渉して、酸素濃度のチェックもしておこう。いくら広い空間とはいっても、ここは洞窟。酸素濃度が減れば炎の威力が落ちるだけじゃなくて、わたしたちの呼吸にも影響が出かねないし。


 黄色くてちっちゃい鳥型の魔道具を設計。

 酸素濃度のチェックだけじゃなくて、空気中に有害な成分が含まれているのを発見したら「ピッピッ」って鳴くかわいい鳥さんだよ!


 わたしの肩に乗せてー、と。

 どう? 魔法少女のマスコットみたいじゃない⁉


 しかしあれだね。

 いわゆる膠着状態ってやつ?

 敵の『アースバレット』を耐えるだけならいくらでも平気だけど、2人の攻撃は有効打になっているのかな……。


「エミリーさん、これってどこからの攻撃なんですか⁉」


 索敵担当のエミリーさんに呼び掛けてみる。どうにか敵の場所を特定しないとじり貧になっちゃう。


「おそらくこの攻撃自体も偽装だと思いますわ。上じゃないなら……そこ! 9時方向、魔力の乱れがありますわ!」


 9時方向! あそこかー!


「いっけー! ライトサーベル最大出力!」


 ありったけの魔力をライトサーベルに込めて特大のレーザーを飛ばす。

 エミリーさんの指定した方向に、真っすぐ飛んでいく灼熱のレーザー攻撃。それは、洞窟の壁に到達する直前、何もないように見える空間で大爆発を起こした。


「やったか⁉」


 ああっ、ズッキーさん! それは言っちゃらめえええええ!


「効果あり、ですわ! 偽装がはがれて……中から敵性反応確認! ハイピクシーですわ!」


 ピクシーの上位種!

 この場にいるのがハイピクシーだけということは、配下のピクシーを逃がして1人でわたしたちに挑んできたってこと?


「出たな! ファイヤ――」


「待ってください!」


 わたしの叫びを聞いて、ハインライトさんは攻撃魔法を発動する直前でなんとか止める。


「どうした⁉ 敵のボスは目の前だ!」


「まずは拘束しましょう! わたしたちは戦いに来たわけじゃないです」


「だが攻撃は向こうから――」


「ハイン。アリシアさんの言う通りよ。まずは拘束を」


 エブリンさんがわたしの言葉に同意し、鼻息荒いハインライトさんを止めてくれた。そして警戒態勢を崩さないまま、ハイピクシーに近づいていく。慌ててズッキーさんが盾を構えながらエブリンさんの前へ出た。


「言葉は通じるかしら? 悪いけれど拘束させてもらいます」


 ハイピクシーに接近。剣の柄に手をかけたまま宣言した。

 目の前のハイピクシーが抵抗しないことを確認しつつ、エブリンさんがロープを用意し始める。


 うーん、魔法攻撃主体のピクシーに物理拘束は意味あるかな?

 居場所がバレたからか、今のところおとなしくはしているみたいだけど……。


「エブリンさん。わたしが拘束してもいいですか? ちょっと試してみたいことがあるので」


 セーブポイントの魔道具を参考にちょっとやってみたいことがあるんですよー。

 魔物除けの魔力波を応用して魔力無効化の檻を作れるかなって。四方から断続的に一定の周波数の魔力波を浴びせることで、体外への魔力放出を実質無効化できる、はず?


「それではアリシアさんにお願いするわ」


 わたしはハイピクシーの前に立った。

 フェアリーとは違い、ピクシーは羽根のない妖精だ。身長はわたしと同じか少し低いくらい。

 ハイピクシーが頭からかぶっていた煤けた土色のマントを脱ぐ。すると中から現れたのは浅黒い肌の美少女だった。エルフのエブリンさんより少し耳は小さいけれど、先が尖って人族よりは大きい。


 その表情は余裕そのもの。今まさに拘束されそうになっているとは思えないほどに。

 ハイピクシーは口角を上げてニヤニヤしながら、少しギョロついた大きな目でわたしのことを見ていた。


 いつまでその余裕が続くかな?


「魔力封印!」


 いくら美少女だからって容赦はしないよ。


 ニヤニヤしたまま声を発さないハイピクシーの四方に魔力無効化の檻を形成する。どうだろ、うまくいったかな? 少しは抵抗してくれないと実験にならないけど……まあいいか。


「ねえ、わたしの仲間はどこにいるの? それに、ほかのピクシーはどこ?」


 魔力放出を封印されて、おそらく無力化したであろうハイピクシーに質問をぶつけてみる。

 が、ハイピクシーはニヤニヤしたまま何も答えない。


「なぜわたしの仲間たちを捕らえたの? 生贄にしようとしているのはホント?」


 何も答えない。


 イラッ。


 ううん、ダメ。ここでイライラしてはダメよ、わたし。


「ねぇ、何が目的なのか教えて。わたしたちは仲間を救いに来ただけなの。過度にあなたたちに干渉したいわけじゃないのよ」


 何も答えない。


 くっそ……。


「アリシアさん! そのハイピクシーの後ろ、通路らしきものがありますわ!」


 エミリーさんがハイピクシーの立つ空間の後ろを指さす。


「もしかしてその先が隠し部屋に⁉」


「おそらく……」


「ハイピクシーを連れて奥に進みましょう」


 きっと全員で固まって移動したほうがいい。親分のハイピクシーを連れていればさすがに敵襲はないでしょう。


「私も賛成です。みんなで移動します」


 この先に待ち受けるものは、罠か。それとも……。

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