第9話 アリシア、罠にはめられる

「たのもー! たのもー! わたしはアリシア=グリーン! ここにわたしの仲間たちが捕らわれていると聞いてやってまいったー! 推して参る!」


 大声で名乗りを上げてから、件の洞窟へと足を踏み入れる。


「うーん、とても静か、ですね……」


「前方、動きはありません」


「洞窟の中にピクシーの反応なし。6人の魔力反応のみ。この辺りに罠の類はなしですわ」


 不気味だけど、いきなり攻撃を浴びせられるということもなさそうだし、このまま進みますか。


「ピクシーはいったいどこへ?」


 ズッキーさんが何度も周囲を見回し、困惑したように独り言をつぶやく。

 それはみんな同じ思いだった。


 ピクシーたちは生贄を残していったいどこへ消えた?


「エミリーさんがさっき斥候で来た時は50人ほどのピクシーがいたんですよね?」


「いましたわ。洞窟の中にも外にも。目視でも確認しましたわ」


「それが忽然と姿を消しちゃった、と……。少し広範囲の索敵をするなら、馬車を出さないとなー」


 エミリーさんの『探知』スキルに引っ掛かってこないという……。わたし個人の魔力感知だとエミリーさんの『探知』スキルには範囲も精度も遠く及ばないけど、馬車に取り付けた魔力増幅機能があれば……。


「まずは先を急ぎましょう。捕らわれた方の無事を確認するのが最優先です」


 そうだね。エブリンさんの言う通り!

 今は消えたピクシーたちのことよりもソフィーさんたちの安全確保が大事!



* * *


「この奥の部屋ですわ!」


 エミリーさんが叫ぶ。

 この先は洞窟の最深部。広めの部屋になっているらしい。

 ちなみにここまで罠らしき罠などは何もなかったよ。


「ソフィーさん! ソフィーさんはそこですか⁉」


 わたしは奥の部屋に向かって大声で呼びかける。


「私はここよ~!」


 おお、ソフィーさんの声だ!


「ソフィーさん! アリシアですよー! 助けに来ました!」


「アリシア~。私はここよ~!」


 おお、無事っぽい! 良かったー!


 わたしは洞窟最深部の巨大な空間に足を踏み入れる。


「アリシア~。助けてちょうだい!」


「どこですかー? 暗くてよく見えないです」


 ランタンをつけよう。

 お、幾分か部屋が明るく……ん?


「あれ? 誰もいない⁉」


「アリシア~。助けてちょうだい!」


 誰もいない空間から声だけが聞こえてくる。


「これはいったい……?」


「偽装工作よ! 全員密集隊形! 周囲最大警戒!」


 エブリンさんが叫ぶ。

 

 まさか、人族の魔力反応を誤認させられた?

 わたしたち、罠にはめられたってこと⁉


「ぼ、防護フィールド展開します!」


 守りはわたしの役目だ。

 アイテム収納ボックスから発明品の数々を取り出し、幾重にも物理防御や魔法防御の壁を展開していく。


「真上ですわ!」


 エミリーさんが敵の存在にいち早く気づく。

 全員の目がドーム状になった天井にむけて視線を送る。

 

 と、その瞬間。

 一斉に土の弾丸<アースバレット>が降り注いでくる。


「全員、盾の下に入れ!」


 ズッキーさん大盾を頭上に掲げ、大声で叫ぶ。


「防護フィールド、上部に追加展開します!」


 大丈夫。威力はたいしたことない。わたしの防護フィールドでちゃんと耐えられてる!


「エミリー。敵の位置特定できる⁉」


「まだわかりませんわ」


 エミリーさんは索敵に集中しているけれど、いまだ発見できていない様子。相手はピクシーだもんね……。透明化を得意とするってことは、『ハイディング』にもかなり習熟しているはず。隠れられたら手ごわいぞ……。


「防護フィールドの維持はどれくらい可能?」


 と、エブリンさん。


「この程度の攻撃なら1時間でも2時間でも!」


 わたしの魔力が続く限り展開可能です! 守りは任せて! MP回復ポーションごくごく。


「すばらしいです。防御はすべてアリシアさんに任せます。ズッキー、『挑発』して敵を引き付けて。私は防護フィールドの外に出て全体攻撃を試みます!」


「待て。……それは俺がやる」


 床に転がっていたハインライトさんがよろよろと立ち上がる。


「ハイン、あなたまだ回復していないのではなくて?」


「全体攻撃は俺の仕事だ……」


 ハインライトさん、プロフェッショナルな発言大いにけっこう。だけど、動けそうもない人が言うと足手まといになってしまいますよ?


 とはいえ、ハインライトさんの範囲魔法は強力だ。どうにか一時的にでも動けるようにしてあげたい。


 あ、そうだ、試してないことが1個あった!


「ハインライトさん、この治癒ポーションを試してみてください!」


 もしかしたら何かしらの副作用も含めてHP回復不能状態を治癒できるかも?

 雑な考えだけど今は試せることは何でもしなきゃ!


 ハインライトさんが治癒ポーションの小瓶を受け取り、躊躇なく一気に飲み干す。


 やったか⁉ ステータスはどう⁉


「戻ってる! 戻ってきてるぞ! HPの回復が始まってる!」


 ハインライトさんが叫ぶ。


「やった! 効果出ましたね! じゃあこっちのHP回復ポーションも!」


 HP回復ポーションも一気飲みし、ハインライトさんが完全復活した!


「待たせたな。お前たち」


 ハインライトさんが不敵に笑う。

 

 何この遅れてきたヒーロー感……。

 二日酔いと呪いの後遺症っぽいので寝てただけのお荷物のくせに……。


 くっ、一瞬ときめいた自分が憎いっ! 顔だけ男にはだまされんぞ!


「ハイン、連携行くわよ!」


「おう、任せろ!『ファイヤーボール』!」


「『ウィンドカッター』!」


 ハイライトさんとエブリンさんによる無差別全体攻撃。


 ねえ、今さらだけど……ソフィーさんたちってこの空間にはいない……んだよね? まさかこの攻撃で死んだりしない、よね?

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