第8話 アリシア、ピクシーの根城を発見する
「いざ、決戦の場へ!」
次の日の早朝。魔道具技師の鳥人族・ウィンドーさんと別れ、わたしたちは山頂を目指して歩き出した。一応ここからは馬車での進行はやめて、ピクシーたちを極端に刺激しないように徒歩を選択したのだった。ウィンドーさんの話によると、もう少し上のほうまで登ると、途中で雪が降ってくるって話だしね。
「馬車で進まないと、やっぱり周囲の魔物はけっこう襲ってきますねー」
エブリンさんが難なく斬り伏せていくので、とくに進みが遅くなるということはないのだけれど、こうもひっきりなしに魔物が襲い掛かってくると気が休まらないね。一応倒した魔物はすべて回収しておいているけれど、素材として使えるものがあるのかなどはよくわかってない!
「そうですね。少しペースを上げて進みましょう。ウィンドーさんの示した地点はもう少しのはずですが」
「わたくし、一足先に進んで周囲の様子を確認してきますわ」
エミリーさんはそう宣言すると、すぐに『ハイディング』を使用して姿を消す。『ハイディング』は使用者の存在がわかっていて探知をしないと見破るのは難しい有用なスキルだ。ただの広範囲魔力探知ではまず見つからない。魔物との戦闘も避けられるし、隠密行動にはもってこいだね。
「お願いしまーす」
「任せてほしいですわ~」
遠くのほうからエミリーさんの声だけが聞こえてくる。
あ、もうそんなところに。でも『ハイディング』中は声を出さないほうがいいんじゃ。
「ところでその『荷物』……大丈夫ですか?」
少し遅れて歩いてくるズッキーさんに声をかけてみる。
「おう。心配するな。筋トレだと思えば楽しいもんさ!」
グロッキーなハインライトさんを背負って歩くのが筋トレねぇ。
「ハインライトさん、冒険中に飲み過ぎは良くないですよ?」
「これは違うだろ……。どう考えても昨日の呪詛の影響……」
ズッキーさんの背中から、か細い声が聞こえてくる。
あ、ハインライトさん起きてたんですね。
「それはタダで解呪してあげたじゃないですかー。わたしの解呪ポーションは完璧なはずですけど?」
「呪いは解けているが……体が回復しない……。HPが自然回復しないんだ……」
それは困りましたね。なんだろ。HP回復ポーションを飲んでもHPが増えてこないって。
「んー、やっぱりお酒のせいですかねー。二日酔いが抜けたら戻るんじゃないですか?」
今はじっくりと検証している時間がないからね。とりあえずあとで余裕ができたら確認しましょう。
「この先、3キロほど。拠点らしき洞窟を発見しましたわ」
突然背後から声がして、みんな一斉に振り返った。
「失礼しましたわ」
エミリーさんが『ハイディング』を解除して姿を現した。
近寄られてもまったく気づかなかったよー。
「それで、規模は?」
エブリンさんが尋ねる。
「50程度。上位種のハイピクシーを確認しましたわ」
「ピクシー以外は?」
「6。ケガ人はなしですわ」
ケガ人なし。
その報告を聞いてわたしは大きく息を吐いた。
間に合った。
あれ、でも――。
「捕らわれているのが6人、ということですか? 遠征のメンバーは全部で5人のはずです」
ほかにも別経由で捕まって生贄にされそうになっている人がいるのかな?
「わたくしにはどの方がお仲間なのかまではわかりませんでしたわ。ですが全部で6人。今のところ全員無事ですわ」
「とりあえず行くしかないんじゃないか?」
と、ズッキーさん。
「そうですね。全員救い出せば良いだけの話でした!」
考えすぎ考えすぎ。
「ではここからは正面から堂々とまいりましょう。ズッキー!」
「おう!『挑発』」
エブリンさんの指示に応えて、ズッキーさんが『挑発』のスキルを使用した。
周囲の様子が一変。魔物たちが殺気立ち、一斉に襲い掛かってくる。
「いくぞ! 全員走れ!」
わたしたちはあえて魔物を倒さず、そのまま引き連れる形でピクシーが根城にしている洞窟に向かって走り出した。
殿はエブリンさん。
足の速い敵を払いのけ、ハインライトさんを背負ったズッキーさんの足が止まらないようにフォローする。
わたしはローラーシューズでスイスイなので、エブリンさんに並んでライトサーベルの試し斬りでもしてみようかな?
「ブオン、ブオン」
空気を切り裂く鈍い音を演出しながら、襲い掛かってくる狼の群れを斬り伏せていく。遠い敵は短くレーザーを飛ばして迎撃してみる。
「うんうん。これくらいの敵なら楽勝ですねー。でも敵を自動でロックオンできると楽かなー。まだ改良の余地がありそう」
フレンドリーファイア怖いし、何らかの方法で敵味方識別はしたいな。
それと、出力の調整も……なんかレーザーに触れた瞬間、狼の体が蒸発するし、これだと素材が取れない……。
「馬車の装備といい、その特殊な形状の刀といい……アリシアさんはいったい……」
隣で狼を斬り伏せながら、恐る恐るといった具合にエブリンさんが尋ねてくる。
「わたしは……お店の仲間を救いたいと思っている、ただのプロデューサーさんですよ♪」
上目遣いにっこり首傾げ♡
「……わかりました。いつか詳しいお話を聞かせてくださいね」
エブリンさんがフッと笑い、わたしから視線を外す。
わたしはその言葉に何も答えず、深緑のライトサーベルを構え直した。
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