第7話 アリシア、呪詛をかける(パッシブ)
「えっと、突然ですけど、わたし……明日ピクシーとリンレー様と話し合いの場を持ちたいと思います」
ミィちゃんのご神託をいただいた後、わたしはみんなの前でそう宣言した。
「アリシアさん、何度か声をかけたのですが反応がなく……しばらく黙ったまま食事にも手をつけられていなかったようですが、どうされたのですか……?」
エブリンさんが心配そうに尋ねてくる。ほかのみんなも怪訝そうな顔でわたしのことを見つめていた。
まあ、無理もないよね。会話の途中にミィちゃんとお話し始めちゃったし。その辺りのことも説明しておこうかなー。
「えっと実は――」
ミィシェリア様にご神託をいただく機会があること、今回の生贄の件はマーナヒリン様によるご神託であることなどかいつまんで説明をしてみた。
「つまり、闇妖精・ピクシーに対して奇襲を仕掛けず話し合いの場を持ちたい、ということでしょうか?」
「そうです。わたしは仲間を助けたいけれど、相手の正義が何かは確認しておきたいのです」
「わたくしは奇襲攻撃のほうが得意ですのよ……」
エミリーさんが少しがっかりしたようにうつむくと、レモンスカッシュを一気に飲み干す。とたん、強すぎる炭酸の刺激を受けたのか、目をギュッとつぶり頭を小刻みに震わせた。
「オレはどっちでもかわまんぞ! 平和的に解決できるならそれが良いと思うし、できないなら戦うまでだ」
ズッキーさんが自分の胸を拳で軽く叩いた。金属同士のぶつかり合う鈍い音が響く。
「相手の奇襲に備えて、障壁は張っておく。な~に、俺に任せておけば相手の攻撃なんてそよ風みたいなもんさ」
と、ハインライトさん。
お酒を与えたからか、若干饒舌になっている気がする。でも深酒はダメですよ?
「みなさん、ありがとうございます。ピクシーという種族によるいたずらが理由だったとしても、それを止めない限りこういった事件は繰り返されてしまいます」
今回の事件を解決するのはもちろんだけど、生贄という行為自体を根本的に止めさせる方法があるかどうかも探りたい。
「必要であれば女神・リンレー様も引っ張り出す」
「そう都合良く話が進むでしょうか?」
「ミィちゃ……ミィシェリア様やマーナヒリン様に間を取り持っていただけばおそらくは……」
だよね?
信徒が間違った行いをしているなら、それを正すのが女神の役目のはず。まずは間違っているということを認めさせたい。
「ひとまず明日早朝出発ですわね」
「そう、ですね! 難しい話はここまで! せっかくの料理が冷めてしまいましたから、温め直しましょうか」
冷めた料理をアイテム収納ボックスにしまってから、新しい料理を取り出していく。熱々の料理たち。張り詰めた空気が緩み、宴会ムードが辺りを支配し始めた。
大見得を切ってみたはいいけれど、わたしはピクシーという種族を止められるのかな。見たことも存在すらも知らなかった希少種族。会話が成り立つのかどうかもわからないというのに。
「いえ~い。アリちゃん飲んでる~? いてっ!」
突然ハインライトさんに肩を組まれて思考が中断される。
わたしの肩に触れた手のひらが真っ赤に爛れて、ハインライトさんがその場にうずくまった。
あーあ、不用意に素手でわたしの肩に触れてしまいましたね……。
「大丈夫ですか⁉ 言い忘れてましたけど、わたしに触るとヤケドしますよ?」
ま、あれです。『俺に触るとヤケドするぜ』ってやつです。リアルなほうの。部屋につけてる防犯システムの個人版ってやつですね。ほら、わたしってかわいいじゃないですかー。暴漢対策はしておかないと非力な女子は怖くて街も歩けませんからね。
「あ、それ冷やしただけだとダメですよ。ただのヤケドじゃなくて呪詛なんで、解呪しないと、半日で体全体に回ってそれはそれは苦しみながら死にます」
「俺……ここで死ぬのか」
「ハイン。死ぬ前に貸したお金を貸してほしいですわ」
「俺にも金は返せよ。いつでもいいとは言ったが死ぬなら返してもらわないと困る」
「2人の後で良いので私にも返してください」
みんなひどい。
お金の話の前に、助ける努力はしてあげて? とくにズッキーさんはホントにそれで良いの?
「ここに専用の解呪ポーションがありますが……買います?」
アイテム収納ボックスから小瓶を取り出して見せる。中身の液体は濁った緑色。補足しておくと味は苔と土を混ぜたような味がするので吐き出さないように注意が必要。
「い、いくら⁉」
おうおう、ハインライトさん必死だね。ウケるー。
「材料費的に……銀貨100枚ってところですかねー」
「た、高い……」
「あらー。自分の命を救ってくれるポーションが高いですかー。それは困ったなー」
ハインライトさんの命の価値。銀貨100枚以下。
「じゃあ、初回なのでタダであげちゃいましょう!」
「いいのか⁉ 助かる!」
ハインライトさんが解呪ポーションの小瓶に手を伸ばす。が、まだ渡さない。
「ただし! 条件があります」
「条件⁉ なんでもきく! 手が熱くて死にそうだ……頼む」
見ればすでに肩口まで焼けただれていた。思ったよりも呪詛の回りが早いね。お酒を飲んでるせい? これは興味深い。
「今後わたしの実験にできる限り協力することー。良いですね?」
「わかった! 絶対協力する!」
ホントですね?
約束しましたからね?
「契約成立っと。はい、じゃあ解呪ポーションどうぞー」
すでに利き手の右手は使い物にならず、左手でポーションを受け取るも、うまく飲めずにいる様子。
「しょうがないにゃあ。わたしが飲ませてあげますよ」
「さ、触らないでくれ!」
わたしの申し出に、ハインライトさんが後ずさりする。
「呪詛はわたしに勝手に触れたから発動したんですよー。わたしが認識していて拒絶していなければ、ほら、何も起きないでしょ?」
呪いって発動条件が細かく設定できるんですよー。そうじゃないとわたし、誰ともスキンシップできなくなっちゃうじゃないですかー。
すでに動けなくなっているハインライトさんの口に小瓶を押し付け、中身を飲ませていく。
「たすかった……」
それだけ言うとハインライトさんはその場に横になり、寝息を叩始めた。
「あらら、寝ちゃった。酔っぱらったのかな?」
と、周りを見渡してもみんなお酒やら料理やらに夢中でハインライトさんに関心を示す人は誰もいなかった。つくづく不憫な人……。
「アリちゃんアリちゃん。その呪詛、わたくしも興味ありますわ」
エミリーさんが声をかけてくる。
「やっぱり興味あります? 女性はみんなつけるべき呪詛ですよねー。鎖帷子に付いているその仕込み針よりはよっぽど効果がありますからね。んー、国中に広めようかな」
そんなわけでエミリーさんにも呪詛の効果を付与。ついでにエブリンさんにも。念のため解呪ポーションも持たせておけば万が一の誤作動にも備えられるね♪
ふっ、オレたちに触るとヤケドするぜ?
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