第12話 アリシア、救援要請の詳細を聞く
「その時の依頼は、王都の南部に位置する『デロン村』というところからの救援要請だったわ」
ソフィーさんの昔話。新人冒険者だった頃、ゴブリン討伐をした時の話が始まる。
「『デロン村』は人口100人に満たない小さな村だったんだけど、重要な役割があったのよね」
「重要な役割ですか?」
国境に面しているわけでもない小さな村が何を担っていたんだろう。
「あの辺りは水場が少なくてね。南部地域の街道は今ほど整備されていない時代だったから、『デロン村』の井戸がわりと重要な水源だったのよ」
「あー、そういうことですか」
移動するにも水は必要。
人も馬も、生き物なら水の補給は不可欠だもんね。
街道が整備されていないとはいっても、その地域周辺に人の移動がないわけではない。行商をするのにも、もしかしたら軍事訓練をするのにも水の補給ポイントの確保は必須になってくるわけで。
「『デロン村』はどうやって水源を確保していたんですか?」
井戸と一口に言っても、地下水があるなら汲み出せばいいじゃないと思わないでもない。
「私も詳しくはないからなんとなく聞きかじった情報になってしまうけれど、あの辺りを掘ると、すぐに硬い岩に当たって、地下水まで到達できないらしいのよね」
「なるほど。岩盤掘削問題ですかー。岩を砕いて掘り進めるようなスキルがないとつらそう」
そんな土地にどうして村を作ったの、って聞きたいところだけど。
「それがいたらしいのよ」
「いた? 岩を砕ける人がその村に?」
「そうなの。そのスキルを持った人のおかげで、水源を確保できて、村を作ることができたという話らしいわ」
水源があったから人が集まって村ができたわけじゃなくて、水源を作ってそこに人を集めた、ということなのね。
「ということはわりと戦略的に作られた村だった、と」
「さすがに村ができた背景までは知らないわよ」
商業のためか、軍事のためか。
まあ今となってはどちらでも関係ないかー。
「その貴重な水源を維持管理している『デロン村』のそばにゴブリンたちが住み着いたって話よ」
「つまりゴブリンたちも水がほしかったんですね」
「それがそんな単純な話でもなくてね。よっと」
ソフィーさんが手綱を左に開いて、対抗の馬車とすれ違った。
「初めに異変に気づいたのは救援要請が出される1カ月ほど前のことね。いくつかあるうちの水源の1つが汚染されていたらしいのよ」
「水源汚染!」
それは死活問題になりかねない。
「なぜか1か所の井戸水だけね。水質が変わったのなら、同じ深さから汲み上げている井戸水は、一斉に影響が出るらしいのにそうではなくて1か所だけ」
汚染といってもいろいろあるはず。
いわゆる上水・中水の考え方。
飲用に使える上水。
飲用には使えないけれど、家畜に与えたり農作物には使用できる中水。
それもできない下水。
「同じ深さの、と言いましたけど、もしかして『デロン村』には水源が複数あるんですか?」
「ええそうよ。3種類の深さから水を汲み上げていると聞いてるわ」
わざわざ岩盤を掘削して3種類も?
何かの実験?
「汚染されたのは幸いにも一番浅い水源で、飲み水には使っていない水源だったのね」
中水の汚染かー。
まあ普通にありそうなことだけど?
浅い井戸だとちょっとしたきっかけで飲めなくなったりするものだし。
「その被害が少しずつ広がっていったのよ。半月もしないうちに浅い水源は全滅したらしいわ」
「それは地味に困るやつ」
「深い水源は飲用に限って使っていたらしいけれど、それがそうもいかなくなって」
汲み出す技術にも寄りそうだけど、無制限に使っていたら枯渇の心配もあるわけだし……。
「そんな時にゴブリンの目撃情報が相次いで寄せられてきた」
「ああ、ゴブリンが近くに住み始めたことで地下水が汚染された、と?」
「そういうことになるわね。救援要請の資料にもそう書かれていたわ」
思っていた話とちょっと違った……。
「ゴブリンが攻めてきたぞー!」「うおー! 人族vs蛮族の戦争じゃー!」って感じじゃないね。
普通に縄張り争い的な。でも先に住んでいたのは人のほうだから、この場合は人のほうが正義なのかな……。
「おそらく汚染の原因はゴブリンたちが地中に流している何かだという推論の元で、討伐の依頼がきたわけよ」
「原因を詳しく調査するよりも、まずゴブリンの排除をしてから考えよう、って感じですかねー」
違ったら違ったで致し方なし。
若干かわいそうではあるけれど、村の近くに住み着いたゴブリンたちは間違いなく敵対行動を取ってくるし、見つけたら即討伐って決まっているもんね。
「先遣隊の調査によって、すぐにゴブリンの集落の位置、規模が明らかになったわ」
「おお、いよいよ始まる!」
「『デロン村』のそばにある『チェンク山』に新しい洞窟が発見されたのよ」
あー、山。
いかにも水質汚染の原因っぽいね。
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