第8話 アリシア、ひさしぶりにリアル礼拝する

「ミィちゃん、きちゃった♡」


 ひさしぶりの神殿訪問。

 リアル礼拝はいつ振りだろうね。でもちゃんと自宅の祭壇には毎日お祈りしているよ。抱き枕礼拝は毎夜だよ♡


「アリシア。おひさしぶりですね。抱き枕に抱きつくのは礼拝ではありませんよ」


 にこやかに訂正してくるミィちゃんは、今日もとっても美しい。やっぱり生ミィちゃんは格別だね!


「しばらく北の沿岸地域にある『ダーマス伯領』に向けて遠征に行かなきゃいけないのー! もしかしたら数カ月会えないかもしれない。さみしいよー」


 ミィちゃんの胸に向かってダイブ!

 はわわわわわわわ。この世のものとは思えないほどの柔らかさ。沈み込むぅ。もうこのまま死んでも……は言い過ぎだけど、しばらく意識を失ってもいい!


「アリシアは甘えん坊さんですね……。よこしまな考えが見え隠れしているのも含めて、まだまだ子どもですね」


 ぶぅ。

 みんなしてわたしのことを子ども扱いしてー! ちょっとは恋愛対象としてみてくれたっていいのにー!


「そういうところが子どもらしくてまたかわいいところですね」


 ミィちゃんがわたしを胸に抱きかかえたままゆっくりと頭を撫でてくる。

 女神様の祝福だー。心がポカポカするね……。


「わたしね、けっこうがんばってると思うんだよね。冒険者にもなったし、レベルもけっこうあがったし。スキルレベルもなかなか。そうそう、『構造把握』がLv3になったら、弱点部位ってのが見えるようになったんだー」


 ミィちゃんの弱点部位は、と。

 えー、唇! 唇だってー⁉ ってことはチューしたらわたしのもの⁉


「ちがいます。乾燥すると唇が荒れやすくて困っているのです」


「地味! っていうか、女神様も唇乾燥したりするの⁉ リップクリームでも作ろうか?」


 いつみてもうるうるつやつやなのに乾燥するんだ……。


「大丈夫です。女神クリームがありますから、乾燥対策もばっちりです」


「女神クリームって何⁉ わたしにもその女神クリームを『構造把握』させて!」


「把握できるといいですね。どうぞ」


 ミィちゃんが小さな貝殻を手渡してくる。

 二枚貝を開くと……おお、七色に輝くクリームがちょこんと入ってる! これが女神クリーム!


 いざ、『構造把握』だ!


 女神クリーム:女神の肌を美しく保つための保湿クリーム。女神以外が使用するとクリームになる。成分は参照不可。


「いや、ちょっと待って?……女神以外が使用するとクリームになる……成分は参照不可……」


「危険ですね。アリシアは絶対つけないようにしてくださいね」


 ミィちゃんがにこやかに笑う。

 ちょっと笑顔が怖い……。


「つけたらクリームに……成分は参照不可……。ホラー?」


「つけなければいいだけですよ。それに、クリーム以外にもいろいろと」


 そう言ってミィちゃんが見せてきたのは、女神ルージュ。女神パウダー。女神アイシャドウ。女神……女神……。

 どれもこれも女神以外が使用すると化粧品になっちゃう……。


「ていうか、女神様ってお化粧するの? ミィちゃんぜんぜんしている感じしないのに。お肌も粉っぽくない」


「アリシア……これを見てください」


 ん? ミィちゃんが背中に何か隠し持ってる。


「テッテレー! ドッキリ大成功!」


 ミィちゃんがうれしそうに笑いながら、達筆な文字で『ドッキリ大成功!』と書かれた女神ボードを出してきた。


「えっ、えっ⁉ ドッキリ⁉ ドッキリって何⁉」


 わたし、ミィちゃんにだまされたの⁉


「アリシアが遊びに来た時やってみましょうという話になっていまして」


 という話になっていまして? とは?


「これはリンレーのアイディアです」


「リンちゃん! 正義の女神様が信徒にドッキリをするなんて!」


「最近根を詰めてがんばっているようでしたから、少しはリラックスして和む機会を、と。マーナヒリンも一緒に、皆で考えてみました」


「えー、なんか方向性が間違っている気がしないでもないけど、わたしのためにそんなことを考えてくれたの? うれしいうれしいうれしい♡」


 女神様たちってやさしいんだ!

 好き好き好き♡


「喜んでもらえて何よりです。アリシアも大人になるためにはお化粧道具も必要でしょう。こちらの女神ルージュを差し上げましょう」


「え、つけたら女神ルージュになっちゃうんじゃ……」


「もしかしたらLUK≪幸運≫値が高いので、回避できるかもしれませんよ」


「いやよ! なんでそんな危険な賭けを⁉」


 これも冗談、だよね?

 だって『構造把握』してもやっぱり、女神以外が使用するとルージュになるって……。


「それではこちらを差し上げましょう」


 そう言ってミィちゃんが差し出してきたのは、小さな人形をしたぺらぺらの紙だった。


「これはなに?」


 ミィちゃんの工作物かな?


「それは身代わり護符です。身に着けていると、何か不測の事態に陥った時、一度だけアリシアの身代わりとなってくれることでしょう」


 身代わり護符!

 登録者の身に起きた問題を一度だけ肩代わりする。使用後消滅する。使用者登録後の譲渡は不可。再使用は不可。


「すごい。レアアイテムっぽい……いいの?」


「小さな体で遠出することを心配しているのです。沿岸部は魔物の動きも活発です。もし万が一のことがあったとしても、それがアリシアのことを守ってくれるでしょう」


 ミィちゃんが心配そうにわたしの手を取って、身代わり護符を持たせてくれた。


「ありがとう……。無茶はしないように気をつけるね。ミィちゃんに心配かけたくないもん」


「私だけでなく、マーナヒリンもリンレーもあなたの身を案じていますよ」


 うん。マーちゃんもリンちゃんもありがとうね。

 わたし、がんばってくるね。


 今後どうしたらいいのか相談しようと思ったけど、元気出てきたからもうちょっと1人で悩んでみようかな!

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