第7話 アリシア、パーティー内恋愛について考察する

 エデンに連れられて街の市場ぶらぶらしていると、わたしは見知った顔を発見した。


「エブリンさーん、エミリーさーん!」


 冒険者パーティー≪銀の風≫のリーダー、エルフ剣士のエブリンさんと、シーフのエミリーさんだ。どっちもAランク冒険者!


「アリシアさん、おひさしぶりです」


「アリシアさん、こんにちはですわ~」


 2人がわたしに気づき、にこやかに挨拶を返してくれた。


「あ、こっちはエデンです。『龍神の館』の従業員で、ってあの時会ってますね」


 エデンは2人とは……初対面じゃなかったわ。あまり話している様子はなかったけれどね。ついこの間、エデンはロチェリスマイン率いるピクシー族に捕らえられて、≪銀の風≫のみんなに救出されたのでした。なんだかずいぶん昔の話みたいに感じるね。


「はい、エデンさんもおひさしぶりです」


「どうも。この間はお世話になりました」


 ほぼ初対面のエブリンさんとエデンの間で、よそよそしい会話が展開される。どっちとも親しいのはわたしだけだし、そりゃそうか。


「アリシアさん、今日はこんなところで……デートですの?」


 エミリーさんがにやりと笑ってから口元を抑えた。


「ちちちち違いますぅ! 遠征の旅支度の買い出しだから、ただのお仕事ですぅ!」


「ふ~~~~~ん。そうなんですのね~。それにしてはずいぶん楽しそうでしたわね~」


 エミリーさんがニヤニヤした表情のまま近寄ってきて、わたしの顔をじろじろ見てくる。今日はいつもの忍者ルックではなくて、ラフなパンツルック。黒いマスクも外しているし、美少女の顔が惜しげもなくわたしの目の前に……チュー?


「ええ、本当に。とても仲良さそうでしたので、そっと見守っていたんですよ」


 と、エブリンさん。

 まさかずっと見られてた⁉ はずかしっ!


「ああもう、エブリン! それは内緒ですわよ!」


「ごめんなさい。つい、楽しくなってしまって」


 仲良さそうな2人ねー。

 今日はプライベートの買い物なのかな?


「2人はここで何を? 備品の補充とかですか?」


 まだヒーラーちゃんはお休み中だろうし、すぐに冒険に出るってことはないでしょうからね。


「わたくしたちは、もちろんデートですわ♡」


 エミリーさんがこれ見よがしにエブリンさんに腕を絡めて肩に頭を預けてみせる。


「ちょっと、エミリー⁉」


 エブリンさんは驚いた様子でエミリーさんのほうに視線を送るも、その手を振り払ったりはしなかった。


「えー、いいなー。わたしもエブリンさんとデートしたいー!」


 わたしもすかさず空いているほうの腕に絡みつく。

 ああっ、身長差があって、肩に頭を乗せられない!


「ダ~メ~。エブリンはわたくしのものですわ~」


「ちょっとだけわたしにも分けて~!」


「2人とも! しょうがない子たちね。2人まとめて面倒を見てあげます」


 そう言うと、エブリンさんは両腕を直角に持ち上げて力こぶを作ると、わたしとエミリーさんを腕にぶら下げたまま走り出す。


「キャー! エブリンさん力持ちー♡」


「リーダーステキですわ~♡」


 市場の通りを歩いていた人たちが「なんだなんだ?」と好奇な目で見てくるけれど気にしない! 今はエブリンさんが走る度に揺れて顔に当たるやわらかな感触を全力で楽しむ!

 

 良い巨乳は大正義なの♡


「はい、おしま~い!」


 市場の端っこまで走ってくれたところで、わたしとエミリーさんは地面に下ろされた。


「キャッキャッ♡」


「キャッキャッ♡」


 わたしとエミリーさんのテンションは戻らない!

 

「エブリンさんやさしくて好きー♡」


「わ、わたくしもエブリンのことを……」


 エミリーさんの言葉は尻すぼみに消え、ちらちらとエブリンさんに視線を送っていた。

 おや? これは……?


「好き好きー♡ チュー♡」


 エブリンさんのほっぺたに軽く唇が触れる程度のキス。


「ちょっと、アリシアさん⁉」


「ああっ!」


 驚いてわたしのほうを見るエブリンさんと、目を見開いたまま固まっているエミリーさん。


 なるほど。

 これはこれは。

 でも前回『構造把握』で覗いた時には気づかなかったなー。


「エミリーさんも好きー♡」


 固まっているエミリーさんのほっぺたにもキス。


 その耳元で「ほら、エミリーさんも今ですよ」とそっとささやく。

 ハッとした表情でわたしのことをちらりと見てきたので、小さく頷いて返した。


「エブリンさん好きー♡」


「エブリン好きですわ!」


 2人で回り込み、エブリンさんの両方の頬にキス。


「もう、2人ともいったい何ですか⁉」


 困惑した様子で立ち尽くすエブリンさんだったけれど、耳はちょっと赤くなっている。


 わたしはエミリーさんに向かって小さくウィンクする。エブリンさんの比じゃないくらい顔が赤くなっているエミリーさんもかわいいね♡


 しっかしあれだ。

 ≪銀の風≫はパーティー内恋愛……というか片思いが大変な構図になっているね……。

 エブリンさんはフリーで、エミリーさんがエブリンさんに片思い中、と。12歳のエミリーさんの恋心が1016歳のエブリンさんに届くのか⁉

 タンクのマッチョメン・ズッキーさん(28歳)は、アル中マジシャン・ハインライトさんの妹さん(療養中のヒーラー12歳)と恋人関係、と。ここもなかなかの年の差よね。

 で、そのハインライトさん(16歳)は、なんとズッキーさんに片思い中、と。


 ここがきつい……。ハインライトさんって、このままいったら、ズッキーさんに「お兄さん」って呼ばれる未来がくるわけでしょ……。切なすぎて泣ける……。もっとお酒飲ませてつらい記憶を忘れさせてあげましょう……。


 そしてそのカオスな人間関係の中に、わたしが颯爽と登場!

 丸く収まるには……エブリンさんとエミリーさんをまとめていただけば良いってことね♡

 ハインライトさんは顔だけは良いけど……アル中はちょっとな。



「お~い、みんな……。荷物忘れて……」


 エデンが両手いっぱいに荷物を抱えながらよろよろ走ってくるのが見えた。


「あ、ごめん。忘れてた!」


 忘れてたのは荷物。そしてエデンの存在の両方なのでしたー。

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