第5話 アリシア、旅支度を始める
「おっと、孤児院との提携、本格的に話がまとまったんですね?」
マーちゃんとリンちゃんが揃ってお店にお越しいただいた翌日の朝。ソフィーさんから孤児院との提携に合意したという話を聞かされた。
「昨日言えば良かったのだけれど、ちょっとそういう雰囲気でもなくなってしまったから……」
そうでしたね。
ソフィーさんがVIPルームに乱入してきた後、わたしの進退の話でシリアスなムードになりかけましたけど、結局どんちゃん騒ぎになって、みんなで刀を振るってコカトリスの解体ショーになだれ込みましたもんね。
「そうそう、エリオットはどうです? 解体ショーで使えそうですか?」
とっても乗り気だから、ぜひやらせてあげたいんですよー。
「型は頭に入っているみたいだし、筋は悪くないんじゃないかしら? 筋って言っても――」
「おお、じゃあ! ソフィーさんが留守の時に代わりにメインを務めさせるのもいけそうですか?」
ソフィーさんのいつもの下ネタにかぶせるように話を続けていくー。言わせねーよ⁉
「あくまで演舞だから……たぶん大丈夫かしらね……」
ソフィーさんがあごに手をやりながら考え込んでしまう。手放しでOKって感じでもなさそう。
「演舞だから、とは? 刀を振るうのに何か関係あるんですか?」
「あの踊りには、2つの意味があるのよ。コカトリスと対峙して命を奪うことに対する感謝。そして調理して食べ、その命を頂くことに対する感謝」
ふむふむ。
そういうストーリーがあったわけですね。適当に刀を振り回しているわけじゃなかったんだ。
「だから型通りに踊れればいいというわけではなくてね……」
「ソフィーさんの冒険者として経験、実際に魔物の命を奪ってきたことに思いを馳せながら感謝をささげる演舞だから、若造には簡単にはマネできないぞ。まずは10年横で見ていろよ。と、そういうことですね?」
「そこまで自分を上げて言うつもりはないけれど……そうね。命を奪ったことのないエリオットの演舞はどうしても軽くなってしまうわね。そこが心配で……」
なるほどね。
何事も経験、かあ。
「じゃあ、今度どこかでエリオットを冒険に連れていきましょう。それで魔物と戦わせて経験を積ませましょうよ」
「そうね……。たしかにそういうアイディアもあるわね」
ソフィーさんが小さく頷いて賛成する。
コカトリスと戦わせるのは実力的に無理だろうけど、小さめの魔物でも命を奪うことでも少しは経験を積めるでしょう。
たしかに、魔物、というか生き物を倒して命を奪った時の感覚は……何とも言えない心のざわつきがありますからね。わたしも数多く経験したわけじゃないですけど、前回≪銀の風≫の人たちと一緒に戦って少なからず命は奪いましたから。
「まさに『最後の一撃は、せつない』ですね」
「なによそれ? 最後の一撃には感謝しかないわよ」
「えっと、そうですかー。わたしはまだその領域には達してないなー」
暫定Aランクだし、わたしじゃ経験が足りないわーね。
今回孤児院に向かう向かう途中で、少しは魔物討伐もして経験積もうかな。そうだ、ギルドになんか手ごろな依頼があればついでにこなしておきたいかも。
「出発はいつですか? 向かう先は王都ですよね?」
「出発は2日後よ。今回の目的地は王都ではないの」
「あ、そうなんですね。じゃあどこですか?」
王都じゃないならミィちゃんの神殿にはいけないね。ちょっと残念。
「少し遠いのだけれど、北の沿岸地域にある『ダーマス伯領』の孤児院よ」
「えっと、地図が頭に入っていないからわからないんですけど、片道どれくらいの道のりなんですか?」
沿岸っていうくらいだから、島のはじっこってことよね。つまり国境沿いかあ。
「軽く3週間はかかると思うわ。王都から離れると街道も整備が行き届いていないところも増えるから」
けっこう遠い!
「わたしのジェットスキーで行きます?」
全速力ならたぶん数日くらいでつけるはず?
「いいえ、今回は普通に馬で行くわ」
「へーい」
残念。
まあ、わたしの馬車はしっかりとアイテム収納ボックスに仕舞って持っていきますけどね。いざとなったら緊急車両の出番もあるかもだし!
「しばらく滞在することも考えると、そろそろ気候が変わってくるかもしれないわね」
気候? そうかー。もう夏も終わりね。
沿岸部だと肌寒い季節に突入してくるのかな。
野営してると夜は案外冷えたりするのかも。
「念のため、防寒具の用意もしておきますね」
「お願いするわ。旅支度はエデンと一緒にやってちょうだい」
「わっかりましたー」
普段から旅をしているエデンなら、どんなアイテムが必要かわかっているはずね。
2日あるなら何か新しい発明でもしようかな。
「じゃあ早速エデンと打ち合わせしてきまーす」
遠征かあ。
楽しみだなー。
今後のことも考えないといけないし……。この先どうしたらいいのか、何かのヒントになるようなものが見つかるといいな。
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