第4話 アリシア、ミレンテ山脈を登る

「さすがに街道を逸れると道がちょっと狭くなるねー」


 オートクルーズコントロールでもなんとかなるとは思うけど、一応ちゃんと御者席に座っておこうかな。

 まあ、それでも『アリシアカッター』という名のレーザー攻撃が自動で仕事していて、木々や魔物を焼き払っているから、わたしは手綱を握ってるだけなんだけどね。


 それにしても狼っぽい群れとか、埴輪の集団とか、なんか弱っちい魔物ばっかりね。うーん、でも『アリシアカッター』で焼き払う度に、わたしのレベルがガンガン上がっていく……。あれ、もしかして? あ、やっぱりだわ。一番弱そうなネズミでもLv50あったわ。もしかしてここって、わたしみたいなLv20くらいの人がきちゃいけないところ?



「暇ねー」


 客車のほうを覗いても、あいかわらずみんな眠ったままだし。

 もうお昼過ぎてるけど、ぜんぜん起きる気配がない。朝早かったとはいっても、さすがにだらけ過ぎじゃないの?


 暇すぎるし、ちょっといたずらでもしようかしら……。


 再び御者席を離れて、客車のほうへと移る。


 うーん、何しようかな。

 そうだ、全員の装備を水着に創り直しておこうかな?


 はっ! ビキニアーマー!


 わたしってば天才⁉

 ライトサーベルに続いて自分のひらめきが怖い!


 さっそく……あ、これダメだ……。

 エルフのマントの下がビキニアーマーとか……エロ過ぎてなんかの倫理規定にひっかかっちゃう。

 よし、写真だけ撮ってそっと戻しておきましょう……。

 お詫びに装備の性能を上げて再構築、と。ついでにわたしが唯一できるエンチャントの魔法障壁とか付与しとこ。


 わたしも物理無効みたいな高度なエンチャントが付与できるようになりたいな。

 ちょっと錬金術師に弟子入りしたいかも。錬金術できる人、王都にいたりするのかなー。


 さてと、ほかのメンバーの装備もいじっておきますかね。

 繕い程度しかできないけど、それだけでも防御力の強化にはなるからいいよね。エミリーさんの鎖帷子には金も織り交ぜとこ。ちょっとおしゃれだし。あ、そうだ。胸当ての裏側にパットを盛っておいてあげようかな。


 ズッキーさんの鎧は……あんまり思いつかないから、とりあえず軽量化でもしておきましょう。不純物を取り除くだけでも鉄って軽くなって硬くなるからいいよね。これでよし、と。

 あーそうだ。ついでに鎧脱がしたところを写真を撮って……ハインライトさんの懐に入れておいてあげましょ。勝手に秘密を知っちゃったせめてものお詫びに……。


 ハインライトさんのローブは……裏を龍柄にしておくだけでいいかな。もともとめっちゃ魔法耐性あるし。もしかしてハインライトさんってお金持ち?


* * *


「みなさん、さすがにそろそろ起きてくださいよー。もう少しでミレンテ山脈の麓についちゃいますよ!」


 昼を大きく回って、15時。

 でも生贄の儀式とやらは明日のはずだし、今夜のうちに山に入るかは微妙な状況だよね。でも生贄の儀式が早朝だったらやばいかな……。


「おはようございます……」


 エブリンさんが目をこすりながらわたしの隣――御者席に座ってきた。


「おはようございます。今のところ順調に進んできています。もうすぐ夕方ですが、このまま行けるところまで山登ってみますか?」


「そうですね……。その生贄の儀式が何の目的で何に捧げられるのかわかっていない以上、到着は早いほうが良さそうです」


 同じ意見です。

 手遅れになったら困りますし。


「魔力探知でソフィーさんたちがどこにいるのかを探りたいんですけど、この山、魔物が多すぎてちょっと探しにくいんですよね」


 あっちもこっちも探知に引っ掛かりまくってて、正直本命がわからない。


「最低でも山脈の中腹。おそらくそれよりも上だと予想します。できるだけ戦闘を避けて、中腹あたりにあるセーフポイントに向かいましょう」


「セーフポイント? そんなものがあるんですか?」


 まるでゲームみたいだね。

 魔物が寄り付かない仕組みがあるってことかな?


「大きな山はたいてい国によって管理されていて、守り人が配置されています。ミレンテ山脈は少し特殊でして、一部のみを国が管理している状態ですが、地図上のここにセーフポイントが用意できています」


 なるほど。

 裏を返せば、このミレンテ山脈のすべては管理できていない。

 つまり、管理できていないエリアにソフィーさんたちはいる可能性が高い!

 

 地図を見たらわかりやすかったのね。なるほどー、たしかに上のほうが真っ赤だわ。あ、赤いエリアが未開拓地ってことね。


「じゃあ一気にセーフポイントまで駆け上がります。小物なら『アリシアカッター』で薙ぎ払えますからご安心をー」


「よくわからないけれど、お任せしても大丈夫なのかしら?」


「ばっちりですよー。エブリンさんたちは救出作戦の時まで体力を温存しておいてください」


 さて、支道を外れて一直線に山の上に向かって進みましょう。ここからは若干速度を落として警戒モードを上げていきますよ。

 ついでにライトサーベルの試し斬りもしておきたいなー。『アリシアカッター』をオフってみる? んー、でも遠距離攻撃も試したいから、試し撃ちでもいいかな。

 

 それにしても木々が多くて気温も高い……。あっついなー。

 雪が降ってるのって山頂だけなのかな?

 いくらオートレーザーで薙ぎ払っているとはいっても、山の麓だと普通に木が多くて走行するのに邪魔だなー。



* * *


 というわけで、これでもかってくらい自然破壊を繰り返したものの、垂直に山を登ってきたので、さしたる障害もなかったね。


 わたしたちは無事、山の中腹にあるセーフポイントに到着したのだった。ちなみに中腹部でもまだ雪は降っていない。

 あ、わたしのレベルも28になりましたよ、と。雑魚狩りうまうま♡


 夜7時。

 セーフポイントの守り人さんと情報交換してから夕食でも取りましょうかね。


「エミリー。一緒に守り人を呼びに行きましょう」


「はい。お任せですわ」


 エブリンさんとエミリーさんが馬車から降り、地図を片手に歩き出す。


「お2人で大丈夫ですか? みんなで行ったほうが安全なのでは?」


 周りは魔物がいっぱい徘徊しているよ。

 魔力探知にビンビンにひっかかってるもん。


「大丈夫です。ここはセーフポイントですので、魔物は近づけません」


 セーフポイントってすごいのね。

 どういう仕組みなんだろ。呪術的な何かなのかな? それとも物理的な障壁が展開されてるとか? 興味あるー。何かの参考になりそう。


「それならわたしたちはここに残って野営の準備をしておきます」


 一応ね。

 守り人さんの話次第ではすぐに出発しないといけないかもしれないけど、食事の準備はしておきましょう。


 ハインライトさん、そんな目で見ないで。お酒はまだダメです。状況がわからないので。写真上げたでしょ。その懐に入っている写真でも眺めてガマンしておいて。

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