第五章 アリシアと銀の風~ソフィースカウト団救出 編

第1話 アリシア、サングラスで街デートに誘う

 翌日の早朝、夜明け前。

 まだ辺りは真っ暗で、昼間のうだる暑さに比べればやや少し涼しく感じるかもしれない。


 わたしがアイテム収納ボックスから特製の馬車を取り出して最終チェックをしていると、地平線がうっすらとオレンジに染まりだす。


 いよいよ日の出が近いねー。

 地面と空の境目から漏れ出す光が強くなっていき、夜の青が侵食され始めていた。


 やがて地面の下から日が顔を出し始め、辺りの雰囲気がゆっくりと夜から朝へと変わっていく。

 早起きすると気持ちいいね。



 しばらくぼんやりと日の出を見ていると、徐々に≪銀の風≫のメンバーが集まってくる。

 今日はみんな装備も整えて準備万端ですね!


「よし、全員集まりましたね!」


 さあ、いよいよ出発だ!


「えっと、その……あの……リーダーがまだですの」


 エミリーさんが申し訳なさそうにモジモジしていた。

 1、2、3……マジか。さすがにエブリンさんはその辺にいるのかと思ってた。


「うっそ。エルフって寝坊するの⁉」


 森とともに生きるエルフ。

 夜明けとともに目覚め、日の入りともに床に就く。

 自然を愛し、自然に愛された種族ー。その名はー⁉


「エブリンは極端に朝が弱いんだ」


 ローブ陰キャ男――ハインライトさんがぼそりとつぶやく。

 あなたのほうが夜な夜な黒魔術の実験とかしてて朝起きられないタイプに見えるのに、朝から饒舌ですね。人は見かけによりませんね?……うわっ、酒臭い! まさか徹夜で飲んでたんですか⁉


「あれ? ところでズッキーさんもいなくないですか? さっきまでいたような……」


「ズッキーならあそこですわ」


 エミリーさんが城門のほうを指さす。


 あれはなんだ……? 何かを持ち上げて?


「筋トレ」


 ああ、筋トレね。って納得するかーい! どこの世界に閉まった落とし格子を開け閉めする筋トレがあるのさ⁉

 

「最近、近接職の間で話題の筋トレ方法ですわ」


 ええ……とんでもない脳筋チャレンジだよ。

 だってさ、あの城門の落とし格子って、戦争の時、ぶつかられても壊れたりしないように相当重たくて分厚い……落とす時は一瞬でも、開ける時は何人がかりかでチェーンを巻いて開けるはず……。

 ていうか、1人の力で開いちゃう城門って何⁉ 有事の際に役に立つの⁉


「あ、あれ、エブリンさんじゃない?」


 ズッキーさんが開けた落とし格子の下を通って、こちらに向かってゆらゆら歩いてくる人が。

 昨日までの姿とは打って変わって、深緑のマントをすっぽりかぶってものすごくエルフ! そうそう、エルフはこれでなくっちゃね♪


「すみません。寝坊してしまいました……」


 フードを脱いで、頭を下げるエブリンさん。

 おほー! 三つ編み! 戦闘スタイルは三つ編みお団子ですよー! キュートオブキュート♡ よし、無事に冒険から帰ったら結婚しよう!


「これは貸し1つ、ですよ? あとで返してもらいますからね!」


 さて、どんなエッチなお願いをしようかな♡


「申し訳ございません……。昨日魔術の研究をしていて夜更かしをしてしまって」


 夜な夜な魔術の研究するタイプはこっちだったー!

 エルフが魔術研究するって何⁉ 精霊魔法しか使わないんじゃないの⁉


『エブリンは魔力量を増やす研究をしておるのじゃ……むにゃむにゃ』


 あ、マーちゃんおはよう!

 魔力量をねー。レベルアップ以外で増えることあるんだ?


『限界まで魔力を使い切って回復を繰り返すと微々たるものだが魔力量は増えていくのじゃ……むにゃむにゃ』


 ふーん、そういうものなんだ。意識しとこうかな。

 って、マーちゃん寝不足? また昨日お酒飲んで夜更かししてたんでしょ。


『我は女神じゃから、夜更かししても良いのじゃ』


 女神様でも深酒と夜更かしは、たぶんお肌に悪いよ?


『水の女神はみずみずしいお肌だから大丈夫なのじゃ……すや~』


 なんかそれずるい。

 ミィちゃんのお肌もうるうるつやつやにしてあげてね。おやすみなさい。


『私のお肌はいつでもうるうるつやつやです』


 あ、今度はミィちゃんだ。ミィちゃんおはよう。ミィちゃんはいつも早起きだね。


『女神に睡眠という概念はありませんよ』


 え、じゃあマーちゃんは何で寝てるの⁉


『人と同じ生活をするのが、マーナヒリンの趣味なのです』


 趣味で睡眠を……。女神様っておもしろい。

 お酒飲んだり、人の生活に干渉したりするのもその趣味の一環なのかなー。


『女神の中には俗世に深くかかわろうとする者とそうでない者に大きく分かれています』


 ちなみにミィちゃんはどっちなの?


『私は中間ですね。程よくかかわり、深くは入り込まないようにしています』


 わたしには、もっとかかわってもいいんだよ?

 一緒に街デートしたりしようよ♡


『私が街を歩いたりしてしまうと、この美貌で人目を惹きすぎてパニックになってしまいますから……』


 あまり俗世にかかわらない理由は、めちゃめちゃ高い自意識のせいだった⁉

 ミィちゃん、大丈夫だよー。人はそんなに他人のことを気に掛けたりしないってバー。わたしね、前世の記憶で知ってるんだ。すっごい人気の芸能人でも、サングラスっていう黒い眼鏡をかければ誰にも気づかれずに街デートできるんだよ。サングラス作ってあげるから今度デートしよ♡


『そんな都合の良いアイテムが……隠遁スキルの類なのでしょうか』


 たぶんそんな感じだと思うよ?

 でも前世はスキルとかない世界だからどうしてるんだろうね?


『そんなことより、皆を待たせておりませんか? そろそろ出発の時刻なのでは?』


 あー、そうだった!

 これから冒険者としてソフィーさんたちを救出してきますね!

 つよつよパーティー≪銀の風≫に入れてもらえたから、きっと大丈夫だよ! 

 でもミィちゃんの加護があるともっと心強いんだけどなー。


『わかりました。アリシアの初冒険とソフィーたちの安全を祈って。ブレッシング』


 ありがとう!

 これで勇気100倍! 元気1000倍! ラッキーも2億倍だね!


『そこまで高まるかは……肩の力を抜いて、いってらっしゃい』


 いってきまーす!


 さあ、『魔力・波乗り式ジェットスキー改☆馬車客車一体型ver』のお披露目だー!

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