第35話 アリシア、≪銀の風≫に合流する

 街の外で、完成したばかりの馬車『魔力・波乗り式ジェットスキー☆ゴールデンスペシャル』の試運転をしてみる。


 おおー、よしよし、性能は悪くないね。


 だけど……。


「よく考えたら馬車に偽装する必要なかったんじゃないかなー」


 前回はほら、あの貴族の方とセルフィおねえさんと、ケガしたお馬さんを同時に運ばないといけなかったから馬車を流用しただけであって。


「つまりこの馬型の模型は不要だったのではと……」


 それっぽい馬の模型を作るのに費やした時間を、エンジンを改良するほうに割けばよかったのでは……。この馬動かないし。あと1週間も時間があれば自走する馬に改造もできるけど、さすがにちょっとMPも時間もなさすぎる。


「一応ジェットエンジン系の偽装はがんばってみたけど、これでちょっと豪華な普通の馬車に見えるかな?」


 客車部分の車高を高くして、床を二重底に。エンジンは床下に収納して全部見えないようにしてみたよ。蒸気を逃がせるようにサイドに穴をいくつか開けてね。

 客車は最大時速500kmに耐えられるように常時魔力障壁を展開。ついでに外からの攻撃に対する備えとしても有効だね。


 まあ、こう考えると馬車の部分は完全に蛇足だったね。

 いやでも、客車部分だけ走っていたらめっちゃ目立つか……。やっぱり馬はいたほうがいいのかも!


「アリシアさん、こちら準備終わりました」


 西日を背に、エブリンさんご一行が現れる。

 絹糸のようなブロンドの髪が光に照らされてきれい……。わたしも銀じゃなくて金髪だったら良かったのになー。やっぱり暖色系のほうがやさしく見えるよね。シルバーだと冷たい印象があるから『暴君幼女』なんて呼ばれるんじゃないのかなー?


「あ、エブリンさん! こっちもだいたい準備は終わりました。どうです、馬車ですよ!」


「はい。ずいぶん豪華な馬車ですね。我々は冒険に向かうのですが……」


 エブリンさんが困り顔で馬車を眺めている。

 あれー? できるだけ地味にしたつもりだったんだけどおかしいなー。客車全体をピンクに塗ったのがダメだった? それとも回転するライトが派手? あ、でもホロに龍のマークが描いてあるのは外せないのよ? ソフィーさんたち救出の証だからね!


「お任せすると言ったのは私ですから……」


 めっちゃ乗りたくなさそう。

 おかしいなー。エブリンさんとは好みが違うのかも。エルフだからもっと青とか緑系の色が好きなのかな……。


「そうだ。後ろの方々。パーティーメンバーを紹介してくださいな」


 馬車を見て口をパクパクさせているその人たちをね。


「失礼しました。紹介いたします。こちらがタンクのズッキーです」


「ズッキーです。よろしく! タンクやってます。28歳です。冒険者レベルはBです」


 ごつい金属鎧に、体をすっぽり覆うような盾。一応声からは男性だというのはわかるけれど、ヘルムをかぶっていてイケメンなのかはわからない!

 とりあえず『構造把握』をしてみるとー、Lv105でVIT≪体力≫にほぼ全振り。ちょっとだけINT≪知力≫? ああ、そっか。なるほど、タンクと言いつつパラディン≪聖騎士≫なのね。スキルは『挑発Lv5』(敵のヘイトを集める)と『バッシュLv4』(攻撃した相手に確率でスタンさせる)か。まあまあ頼もしいね。


「続いてこちらがシーフのエミリーです」


「エミリーと申します。Aランク冒険者ですわ。トラップを見つけたり解除したりするのが得意ですの。よろしくどうぞ~」


 黒髪のショートカットに黒いマスク! 切れ長の目がクールな美女。おっぱいは……わたしと同じくらい! シーフって言ってるけど、見た目は完全に忍者ね。柔らかな物腰とのギャップがナイス!

 Lv150かー。パーティーで一番高い。AGI≪敏捷≫アゲアゲで、あとはDEX≪器用≫とINT≪知力≫ね。

 スキルは『ハイディングLv2』(姿を消して隠密行動)『罠解除Lv6』『探知Lv7』ね。『探知』はモンスターの発見や罠、隠し部屋も見つけられるのね。汎用性があって強そう。


「最後にマジシャンのハインライトです」


「ハインライト。マジシャン。Bランク。炎系の魔法を使う。以上」


 寡黙な人ね。

 紺色のローブをすっぽりかぶっていて……イケメンなのかわからない!

 Lv97でINT≪知力≫とDEX≪器用≫を強化ね。スキルは『ファイヤーボールLv5』『ファイヤーウォールLv6』『メテオストライクLv10』ってホントにランクB? MPも5000あるし、けっこう強いんじゃないの?


「わたしはアリシア=グリーンです。冒険者になりたてなので右も左もわかりませんが、ソフィーさんたちを助けに行きたいので、無理を言ってパーティーに入れてもらいました。足を引っ張らないようにがんばりますのでよろしくお願いします!」


 4人が笑顔で拍手をしてくれた。

 良い人たちみたいでちょっと安心ね。


 攻撃スキルや魔法スキルはないけれど、唯一無二の『創作』スキルで作ったアイテムを使ってバンバンサポートしますからね! いざ危なくなったら山ごと更地にすることもできます!


「アリシアさん。よろしくお願いします。最後に私も改めてご挨拶を」


 そう言ってエブリンさんが腰から剣を抜いた。

 細剣、レイピアだ。かなりの名刀。魔法強化は付与されていないけれど、レイピア単体でかなりの業物だとわかる。


「エブリン=ソルスティアムです。この耳でおわかりかと存じますが、エルフ族です。マーナヒリン様による風の加護を持っております。このパーティー≪銀の風≫のリーダーも務めております。よろしくお願いいたします」


 ほー。≪銀の風≫っていうパーティー名なのね。かっこいい……でも金じゃなくて銀?

 エブリンさんはLv120。スキルは『ウィンドウォークLv8』(自分とパーティーメンバーの移動速度と回避率をアップ)『ウィンドカッターLv6』『剣聖Lv10』ね。

 風の加護とレイピアは相性が良さそう。DEX≪器用≫とAGI≪敏捷≫を上げているし、速度を上げて手数で勝負をするタイプね。


 このパーティー構成だと、タンクのズッキーさんがヘイト管理をして、エブリンさんがメインアタッカーね。ハインライトさんが単体魔法か範囲魔法か、敵の種類に合わせて切り替えつつ、って感じかな。エミリーさんはたぶん戦闘向きではないもんね。


「さっそく出発、といきたいところですけど、もう日が暮れますね……。明日の早朝に移動開始のほうが良いですか?」


 馬じゃないから夜通し走ることもできるけど、冒険者的にはどうなんだろう。

 それにエブリンさんまだ執事服にレイピア下げてきただけっぽいし、準備もとりあえずって感じだよね。


「夜の移動は危険です。魔物も凶暴性を増しますから、移動は日が出ているうちにしたいと思います」


「はーい。では明日の日の出とともに出発で?」


「そういたしましょう。またこの場所で」


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第四章 アリシアと料理店~リニューアルオープン 編 ~完~



第五章 アリシアと銀の風~ソフィースカウト団救出 編 へ続く


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ここまでお読みいただきありがとうございました。


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それでは引き続き、第五章も読んでいただければうれしいです。


いよいよアリシアが冒険者としての第一歩を踏み出します。

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