第33話 アリシア、中指を立ててドヤ顔をする

「はい、たしかに。これで契約完了です」


 エブリンさんがわたしのサインを確認して何度もうなずく。書類をギルドマスターの熊さんに手渡して手続きは完了したみたい。


 わたしも冒険者になったのねー。

 実感ないけど、まあ、こんなものかな。


「暫定Aランクの証として、こちらの等級証をどうぞ」


 鷹のシンボルが彫られた金細工の指輪を渡された。


「ほぇー、これがランクの証なんですか?」


「そうだ。我々も身に着けている」


 熊マスターとエブリンさんが、それぞれ自身の左手の中指に装着された指輪を見せてくる。熊さん、その強さでAランクなんですか? となると、Sランクってどんな化け物なんだろ……。


「Aランク冒険者の証があれば、基本的には入れないところはほとんどない。例外は王宮管理の施設や軍事機密を扱う施設くらいだろうか」


 やっぱりランクの高い冒険者ってかなり信用度が高いみたいね。登録しておいて良かったかなー。


「この指輪ってだいぶ大切なものなんですね。盗まれたりしたら危ないですけど、ずっと指にはめてないとダメですか?」


 使わない時は大切に仕舞っておいたほうがいいような気もする。


「問題ない。一度装着したら冒険者のランク変更か契約終了の手続きを取るまで外すことはできないからな。試しに引っ張ってみろ」


 熊さんの毛むくじゃらの指から、力いっぱい指輪を引っ張ってみる。

 ええ⁉……ホントだ! 抜けない! これ、一種の呪いのアイテム……。


「契約手続きの時に本人認証の術式が有効になっているのでな、他者が偽って使用することもできない安心設計なのだよ」


 この世界って進んでるのか遅れてるのか時々わからなくなるね。まあそれならとりあえずはめておいても損はないのかな……。指がかゆい時どうするんだろ。


 うだうだ考えていても仕方がないので、2人に倣ってわたしも指輪を左手の中指に装着した。


 おっと、一瞬魔力を吸い取られるような感覚が?


「指輪側にもアリシアの魔力を登録することで完全に契約が完了となった」


 なんと! 指輪をはめないと冒険者登録って終わってなかったのね。これで正式契約かあ。まだ暫定ランクだけど。


「それではさっそく救援依頼について話を進めましょう」


 エブリンさんが再び大陸の地図を広げだした。


「あ、冒険者登録が終わったので、お店のみんなにも報告をしたいんですけど」


「そうですね。ではさきほどの応接室に戻ってから話を進めましょうか」


「はーい。熊……ギルドマスター、いろいろありがとうございました。これからよろしくお願いします」


「期待している。救援依頼、健闘を祈る」


 わたしは頭を下げてから、エブリンさんと一緒に部屋を後にした。



* * *


「アリシアちゃん帰ってきたっす!」


「お疲れ、我が暴君」


「暴君、お疲れ様でございます」


 なにごともなくわたしが部屋に戻ってきたからなのか、3人が安堵したような表情を見せた。


「アリシアちゃん帰還したお! ババーン! ドヤさっさー♪」


 左手の中指をおっ立ってて、3人に見せつけてやる。おらおらー! Aランク様やぞー!


「暴君? これはいったい……?」


 ダメだ。3人ともポカンとしている……。二重の意味で何も分かっていない……。おらー、ケンカ買えよー!


「この指輪はー、冒険者の証だよ! ほら、エブリンさんとおそろい♡」


 左手の薬指だったら結婚だったね♡


「アリシアちゃん、無事冒険者になれたっすね。おめでとうっす!」


「それで、ランクはどうだったんだ?」


 エリオットが尋ねてくる。


「この金ピカに輝く指輪でわからないかな? Aランクだよ、Aランク!」


 Bランクは銀。Cランクは銅。Dランクは鉄。だそうです。ちなみにSランクはミスリルらしい。


「A……ランク? それってかなりすごいことなんじゃないのか?」


「Aランク冒険者は、パストルラン王国全体で200名ほどしか認定されておりません」


 エブリンさんが補足説明を入れてくれる。


「エブリンさんは正式なAランク冒険者だけど、わたしは暫定Aランクだよ。このあと依頼をいくつかこなして正式に認められないとダメなんだけどねー」


「それでもすごいっす。さすがアリシアちゃんっす!」


「まあ、それほどでもあるけどね♪ ヌハハハハハハハ!」


 もっと褒めよ! 我を誉めよ!


『アーちゃんすごいの。おめでとうなのじゃ』


 マーちゃんもありがと♡

 これでミレンテ山脈にも正式に入山できるよー。


『ソフィーたちは無事じゃが、救援を頼むぞよ』


 はーい。

 無事じゃよね。まあでも何かしらのトラブルに巻き込まれているわけだし、早めに向かいますけどね。


『あさってまでに合流しないとソフィーと……エデン、だったかの。それ以外のメンバーは死んでしまうの』


 えっ……死ぬ⁉

 ちょちょちょ、ちょっとどういうこと⁉


『生贄として捧げられるらしいの』


 生贄⁉ ソフィーさんたちぜんぜん無事じゃなくないですか⁉ なんかとんでもなくやばくないですか⁉


『救援するつもりなら急いだほうがいいの』


 ええー! 急ぎます!


「なんか、あさってまでにみんなを見つけないと大変なことになるみたい……」


「それはどういうことですか?」


 不思議そうな顔をするエブリンさん。


「実は今、ご神託があって――」


 マーちゃんの会話の内容をみんなに説明していく。

 


「生贄ってなんすか……」


「その話が本当であればすぐに救援に向かわないといけないんじゃないか⁉」


「みなさん死なないでください……」


 ええーい、お前たちうるさいから全員静かにしなさい! 話が進まない!


「エブリンさん、どうやら思っていたよりも急を要するらしいです。今からパーティーメンバーを集めて直ちに出立できますか?」


「はい。状況が状況だけに最善を尽くします。しかし……」


 エブリンさんの表情が暗い。


「どれだけ急いで移動しても、ミレンテ山脈までは1週間はかかるのです……」


 マジぃ。絶望的な状況ですね……。


「めっちゃ速い馬なら?」


「私が単独で先行しても半日縮められるかどうか……」


 6日半かあ。どうがんばっても2日後というのは無理ですな……。


 ソフィーさん、エデン……ごめん無理かも。

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