第31話 アリシア、ギルドマスターと対峙する

「ようこそ。アリシア=グリーン。『王立ギルド・ガーランド伯支部』ギルドマスターのウェイン=トーラーだ」


 別室、おそらくギルドマスターの執務室に通されたわたしは、熊のような毛むくじゃらの大男と対峙していた。

 といっても、ギルドマスターと名乗っていらっしゃるので、魔物というわけではなさそう。でもこの熊さん、威圧感がすごい……。横並ぶエブリンさんとの対比もすごい……。


「アリシア=グリーンでございます。ギルドマスター。わたしをギルドに入れてください」


 スカートの端を摘まみ、お辞儀をする。


「冒険者になりたいのなら、そういった挨拶はやめよ。それは貴族の流儀だ」


「かしこまりました」


 郷にいては郷に従え、か。冒険者はどんな挨拶をするんだろう?


「さっそくだがこの書類に目を通してサインを。エブリン、細かい説明を頼む」


 ギルドマスターのウェインさんはわたしの前に1枚の羊皮紙を置く。エブリンさんに声をかけると、自席に戻ってどっかりと腰を下ろした。


「かしこまりました。アリシア様。まずはこちらの書類について説明をいたします」


 エブリンさんが近寄ってきて、テーブルの上に置かれた羊皮紙の一番下を指さした。

 ほうほう、なるほど。こんなにぴっちりした服でも前かがみになると胸がたわむ……勉強になるなー。良い巨乳をめでると心が癒されるね♡


「重要なのはここです。最後にこちらに血液を1滴垂らしていただき、その横に名前を書いていただくことになります」


「それっていきなり契約って感じですか? 約款とか、免責事項とかの説明はなく?」


 不利益な契約はしたくないなー。

 ギルドに所属するとはいっても、公平な取引を所望する!


「もちろんまだサインはしないでくださいね。一通り説明をしてからです」


「はーい。説明お願いしまーす」


 大丈夫だった。

 騙そうとしているわけじゃなさそうね。


「冒険者ランクは魔力量と依頼実績をもとに決定される。特例として複数ギルドの幹部、または王宮の推薦により、冒険者ランクは昇級することがある。なお依頼には難易度が設定されており、冒険者ランクに応じて受注できる依頼が制限される」


 まあまあ一般的な感じよね。

 冒険者ランクはSランクからDランクまであって……その辺りはスキルのレア度と同じ感じかな? とすると、Aランクの冒険者ってけっこう人数少なそうかも?


「あのー質問いいですか?」


「どうぞ」


 エブリンさんが説明を止めてこちらを見てくる。


「Sランクの冒険者、Aランクの冒険者って、この国にどれくらいいるんですか?」


「Sランク冒険者は現在4名です。ですがそのうちの3名の方はすでに引退を表明されております。そのうち1名の方はご高齢のため引退。もう1名の方は家業を継がれるとのことで引退。最後の1名の方は王宮近衛騎士団の団長をされております。ですので実質的には現役のSランク冒険者は1名というのが回答になります。Aランク冒険者は各ギルドに10~20名程度は所属していますから、国全体となりますと、200名程度になるでしょうか。正確な人数を把握しておらず申し訳ございません」


 ていねい!


「いいえいいえ。だいたいで大丈夫です。Sランク冒険者はぜんぜんいないんですねー」


 スキルよりは、まあ、レア度は低そうだけど、Aランクは200人かー。いきなりわたしが認定されるのは難しいかな? 魔力量を盛ればいけるかな?


「説明を続けてもよろしいですか?」


「あ、もう1つだけ質問が。冒険者ランクは魔力量と依頼実績で決まるんですよね? それって、仮に魔力量が少なくて剣技が優れている冒険者、なんて人は軽視されるシステムってことですか?」


 たとえば、エブリンさんとかね。

 エブリンさんの持っている『剣聖Lv10』って、たぶん剣技スキルの最高峰だと思うけど、エブリンさん自体の魔力量はたいしたことないよね。MP1000ちょっとって。どうやってAランク冒険者になったのかな?


「えっと、その……」


 言葉に詰まるエブリンさん。

 その様子を見て、ギルドマスターのウェインさんが立ち上がった。


「その質問には私から答えよう」


「お願いします」


「一般的に強さとは、魔力量に比例すると考えられている。剣技もスキルであり、強力かつレベルの高いスキルを使用するのには相応の魔力を必要とするからだ」


「そうですね。わたしもその理解です」


「しかし、例外は存在する。効率よく魔力を使用することができるスキルの存在が確認されている。少ない魔力量でも大きな力を得ることができるものだな。魔力の絶対量が少なくても、例外的に高ランクとして認められるケースがあるということだよ」


 ふーん。なるほどね。

 画一的なルールで縛るわけじゃなくて、ちゃんとその人の本質を見極めて判断する。わりと柔軟で理にかなっているのね。


「追加であともう1つだけいいですか?」


「良かろう」


「冒険者ランクというのは、魔力量が多くて強ければ……悪い人でも高いものなんですか? たとえば犯罪を犯したりしたらランクが下がったり、冒険者資格がはく奪されたりしますか?」


 冒険者というものがどれくらい信用できる存在なのか。社会的地位は高いのか、低いのか。ランクとは絶対的な強さを表すための指標に過ぎないのか。それとも国への貢献度などを加味したその人物の有用性を表す類のものになっているのか。


「無論だ。各都市のギルドは独立自治を許されているが、すべてにおいて野放しになっているわけではない。定期的に王宮の指示により幹部の配置換えが行われるし、抜き打ちの調査も入る。ランクが高い冒険者には責任と品位が求められているのだよ。腐った者はすぐに排除される。我々は清く正しくあろうと努力し続ける必要がある。そこは安心しなさい」


「なるほど。わかりました。少し冒険者というものが好きになったかもしれません」


 それで下のギルドホールの状況かー。

 あらくれ者が酒を飲んでくだ巻いてる、なんてファンタジー作品にありがちな状態はないわけね。若者にも人気の職業、か。意外とストイックな集団なのかもしれないね。


「疑問が解決したならけっこう。エブリン、続きの説明を」


 それからエブリンさんに細かいルールをいろいろ聞かされたけれど、あんまり興味がないので適当に聞き流しておいた。必要になったらまたエブリンさんの胸を見にくればいいだけだし。


「それでは最後に魔力量を計測し、暫定ランクを決定します。不服申し立て等なければサインをして契約完了です」


「はーい」


 水晶玉にありったけの魔力を込めてー、パリーンってするんだ!

 ワクワクするなー♪

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