第30話 アリシア、プロポーズされる?

 エブリンさんが勢いよく応接室の扉を開け、中に飛び込んでくる。


「こ、これはいったい……」


 部屋の惨劇を確認。腰の刀に掛けていた手を下ろしながら、唖然とした表情でつぶやいた。


「あー、お騒がせしてすみません。ちょっと模擬戦、みたいな?」


 エリオットが壁に激突する音を聞かれてしまったかー。複数人の敵がいる時にはこの戦い方はダメね。敵に気づかれずに1人ずつ仕留めるには……首をトンッてやるやつかな。あれはなんだろ。頸椎を破壊してるのかな? まあ哺乳類や脊椎動物ならそこは等しく弱点になるだろうし、人間はとくに首が細いからねー。次は背後に回って首をトンッてしよう♪


「トラブルではないのですね? すみません、もう少し手続きの準備に時間を要するので……その、お静かにお待ちいただければと」


「はーい。次は静かにやりまーす」


 エブリンさんは床に寝かされているエリオットを一瞥した後、複雑な表情を見せつつもそのまま部屋を出て行った。



* * *


「あ、あれ……私はいったい何を」


 お、エリオットが気がついたね。あー、良かった。回復するまでに10分くらいかー。なるほどなるほど。まあそれでも治癒ポーションの実験成功だね!


「じゃあ、2本目やる?」


 わたしはニコニコ顔でエリオットに近づいていく。次は首ね♪


「ちょちょちょっ! アリシアちゃん! もうエリオットは無理っす! レフリーストップっす!」


 セイヤーが慌てて間に入って止めてくる。

 えー、まだ2本先取してないのにー?


「エリオットさん……その、股間は無事ですか?」


 ネーブルが青い顔をしながらエリオットの下腹部を注視していた。


「股間? なんともないが……?」


 ネーブルの問いに不思議そうな表情を浮かべるエリオット。何を言われているのか見当がつかないといった様子だ。


「治癒ポーションの効果は完璧ねー。今回は欠損部位もなかったから、時間経過だけで完全修復できて良かったわ♪」


「『良かったわ♪』じゃないっすよ……。さっきはひどいもんだったっす……。あとほんのちょびっと下にずれてたら、エリオットのあそこが完全に爆散してたっすよ。マジ玉ヒュンっす。ほら、エリオットのズボンを見てくださいよ……」


 えーもう、乙女に男性の股間をガン見しろだなんて! セイヤー、セクハラだぞ♡

 

 ジーっと。ふむふむ? 黒いスラックスなのでわかりづらいけれど、エリオット股間辺りの布が血で変色しているね。あー、ちょっとだけ力入れすぎちゃったかな? ごめんねごめんね♡ でも弱点部位を狙わないと、一瞬で勝負がつかないからしかたないよね?


「なんかドラゴンの翼みたいでかっこいいから平気じゃない?」


「股間にドラゴンの翼って……悪趣味っすよ……」


「股間? 私はいったい何をされたんだ……」


 1人状況を把握できていないエリオットがしげしげと自分の股間を見つめている。


「そんなに気になるなら、新しいズボン作ってあげるわよー」


「エリオットさんは、その……暴君に負けたんですよ……」


 ネーブルが首を振りながらエリオットの肩に手をかける。


「負けた? まだ始まってすらいないが?」


「ワンパンっすよ。おもいっきり股間に一撃を食らって負けたっすよ。そりゃもう完璧にね。さっきまで意識を失ってそこの床で寝てたっすよ……」


「そんな……。たしか私はあそこで立っていたはずなのに、こんな壁際に座って……負けたのか……」


 エリオットはようやく自分の状態を把握したみたいね。


「アリシアちゃんのパンチを食らって一瞬で壁まで吹き飛んだっす。たぶん。自分には見えなかったすけど……」


「これでわたしの強さ、わかってもらえたかしら? 素人のグルグルパンチでもエリオットを一瞬で無力化できるくらいには強いのよ♪」


 攻撃系のスキルを持たないわたしでも、専守防衛に徹すれば、パーティーのお荷物になるってことはないでしょう。いろいろ開発した便利グッズもあるしー。


「自分からはもう何も言うことはないっす……。アリシアちゃんが規格外だってことを改めて認識したっす……」


「そう? でもその規格外って言い方、ほめてる?」


「もちろんっすよ! ほめまくってるっす! 一生ついていくっす!」


 一生? えー、どうしよー。セイヤーにいきなりプロポーズされちゃったよー。困っちゃうなー♡ 顔は良いけどチャラくて細くて頼りないしなー。どうしよっかなー♡


『アーちゃん、冒険に出るのかの?』


 あ、マーちゃん! こんにちはー。

 そうだよー。ソフィーさんたちが行方不明になっちゃって困ってるの! たぶん無事だとは思うけど、助けに行こうかなって。


『我も一緒に行くか?』


 マーちゃんが一緒ならだいぶ心強いけどー。でも今回はエブリンさんっていう強いエルフの冒険者の人も一緒だし、たぶん危ないことはないかな?


『エブリンか。我の信徒じゃの』


 そうなんだ?


『エルフには水の加護を与えるものじゃからの』


 エルフは水が好きなのね。なんとなく森のイメージだったけど。


『水が木を育てるからの。エルフは水に感謝し、森に感謝し、自然の中で生きるのじゃよ』


 なんかステキねー。エルフって美人だし、いいなー。

 ちなみにエブリンさんって良いエルフ?


『良いぞ。エブリンには特別に風の加護も与えておるからの。我の趣味ではないが、おっぱいも柔らかいぞよ。あやつがおれば安心じゃな』


 やっぱり柔らかいんだ!

 うーん、あのぴっちりした執事服は脱がせたいね!

 ん、風の加護? マーちゃんって水以外の加護も与えられるんだ?


『水・風・土は我の管轄じゃ』


 へぇー、すごいのね!

 わたしも属性魔法が使えれば良かったのになー。マーちゃんの水の加護も、水の不純物を取り除いたり、硬水・軟水の調整をしたり、pHの調整をするくらいにしか使えてないもん……。


『酒造りにはもってこいじゃの』


 まあそうなんだけどねー。やっぱり魔法使いみたいな攻撃スキルがあったら、って思ったりはするよ。


『魔導書の類から取得するか、どこかでスキル玉を手に入れるしかないの』


 もしかして、冒険していたらそういう可能性もあるのかな?


『かなり希少なレアアイテムじゃからの。ダンジョンの奥深くに住む魔物を倒したりしないと無理かもしれんの』


 勇者パーティーにでも入らないと無理そー。

 あれ? でも魔王がいないから勇者パーティーなんてないのかな。


『高難易度のダンジョンを攻略することを生業とした冒険者パーティーのことを勇者パーティーと呼んだりすることはあるみたいじゃの』


 あ、一応いるんだ、勇者。

 いつか会うことがあったら話を聞いてみたいな。


『我も気にしておくことにするぞよ』


 ありがとー。いっつもやさしいマーちゃん大好き♡


『我もアーちゃんを愛しているぞよ』


 やだー、相思相愛♡



「おまたせいたしました。別室でギルドマスターがお待ちです」


 と、ちょうどエブリンさんが戻ってきた。

 よーし、サクッと冒険者登録してしまいましょうかねー。


 そっかそっか。やっぱり柔らかいのかー。 

 気になる……。

 隙を見て確かめてみよ♡

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