第29話 アリシア、真っすぐいってぶっとばす

「いますぐ魔力量を計ってほしいです!」


 パパッと冒険者登録を終わらせて、ソフィーさんたちのところに向かわないと!


「かしこまりました。ギルドマスターを呼んでまいりますので、この場でしばらくお待ちください」


 エブリンさんが頭を下げてから部屋を出て行った。


「その……本気で冒険者になるつもりなのか?」


 エリオットが心配そうな目でわたしのことを見ている。


「そりゃ本気よー。エブリンさんは強い。彼女がいれば雪山での活動も大丈夫そうだから、他のパーティーを探すよりもこのままお願いできるならお願いしたいもん」


「だからといって暴君が一緒についていくというのは……」


「わたしなら大丈夫よ。何も剣を持って前線で戦おうってわけじゃないわ。サポート役ならお店での働きとそう変わらないと思うのね。それに女神様の加護もあるし」


 いざとなったら力いっぱいぶん殴ればなんとかなるっしょ♪


「そんな簡単なものではないかと……」


「危険っすよ。ケガをするかもしれないっす。二次遭難だって……」


 セイヤーまでそんな及び腰なの?


「暴君が留守にしている間のお店の経営は……」


「いや、それはネーブルががんばりなさいよ! まったくどいつもこいつも、ソフィーさんや一緒に行った仲間たちが心配じゃないわけ⁉」


 危険、危ない、お店……そんな場合じゃないでしょ!

 ソフィーさんたちは遭難していて、もしかしたら今まさに命がけの状況になっているかもしれないのよ⁉


「心配っすけど……」


「それはもちろん心配だが……」


「心配ですが……」


 歯切れが悪い3人。

 ソフィーさんにはあんなにお世話になっているのに、まったく薄情者だよ……。


「何もあなたたちについてこいって言ってるわけじゃないのよ? わたしがエブリンさんたちと一緒に行く。ただそれだけなんだから、あなたたちはお店を守って、いつも通り営業しててよね!」


 3人とも冒険向きのスキル持ちってわけでもないから、それは期待していないし。なーんでそんなにうじうじしてるのかな。


「ただ、アリシアちゃんが心配なだけっすよ」


「セイヤーの言う通りだよ。まだ小さいのに冒険なんて……」


 あ、そういうこと?


「まーた、わたしのことを子ども扱いしてるな? これでも仮成人だぞ? 仮成人から冒険者登録はできるの! つまり魔物と戦うことが認められてるってことなのよ。もう子どもじゃないんだからねっ!」


 失礼しちゃうわ。

 そりゃね、体格のいい大人と同じように剣を振るって魔物を討伐しろって言われたら、剣技系のスキルもないわたしが何とかするのは難しいと思うよ? でも、真っ向勝負なんて必要ないでしょ。剣で倒せないなら殴ればいいし、殴ってダメなら爆破すればいいし、それでも固いならレーザーで撃ち抜けばいい。なんだってやり方はあるのよね。


「そこまでの覚悟があったんだな……すまなかった」


 エリオットが膝を折って頭を下げてくる。

 なーんか、釈然としないなー。

 あ、そうだ!


「ちょっとさ、筋肉自慢のエリオットくんさ」


「はい、私は別に筋肉自慢というわけではないが……なんだ?」


「わたしが冒険者にふさわしいってところを見せたいと思うのね」


「冒険者にふさわしい?」


「そう。だからちょっと本気でわたしに殴り掛かってみてくれない?」


「ちょ、アリシアちゃん何を言ってるっすか⁉」


 セイヤーが慌てだす。


「何も? 普通に言葉通りだけど? エリオットが筋肉パンチでわたしに殴り掛かっても、わたしには当たることはないし、逆にわたしのパンチでエリオットが死ぬ。それをみんなに見てもらえば納得するかなーって?」


 さすがに手加減はするから死なないようにはするよ? 半殺しまでね?


「しかし幼女を殴るのは……」


「じゃあ無抵抗で死ぬ?」


「それも困るが……」


「手加減してあげるから大丈夫だと思うけど、念のためネーブルに回復ポーション系をいくつか渡すね。万が一わたしがやられた時にはこの治癒ポーションを飲ませて。それで大丈夫なはずだからー」


 固まっているネーブルにポーションの小瓶をいくつか押しつける。


「自分は……ジャッジマンすね」


「そういうことー。3本勝負にしましょう。相手の体に触れたら1本。2本先取したほうが勝ち」


「触れるだけなら……」


 エリオットが渋々といった具合に同意する。

 まあ、わたしはもちろんぶん殴るけどね?


「どっちも準備が良いなら始めるっすよ」


 セイヤーがわたしとエリオットの顔を交互に見る。


「いつでもー」


「私も大丈夫だ」


「それなら1本目、始めっす!」


 セイヤーの掛け声とともに、わたしとエリオットは正対する。距離にして3mほど。


「そっちからこないの? 様子見してるとあっという間に終わるよ?」


 挑発してみる。

 でも、エリオットは構えも取らずに黙ったままだ。


「ふーん。じゃあ、30%くらいの力で殴るけどいいかな?」


 腕をグルグル回して威嚇。

 わたしの細腕で何ができるって思ってるのかな? 力は筋肉だけじゃないんだよ? わたしとエリオットのステータスどれだけ差があるかわかってる? まあわかってないと思うけどさ。

 

 エリオット:STR≪筋力≫:55

 アリシア :STR≪筋力≫:277


 筋力ステータスだけでも、ざっと5倍以上の差があるってことよ。肉体の筋肉量を考えても、その差が埋まることはない数値よねー。AGI≪敏捷≫の差も似たようなものだから、エリオットの攻撃がわたしを捉えることはできないし。


 真っすぐいって ぶっとばす。

 右ストレートで ぶっとばす。


「はい、ドーン」


 わたしはローラーシューズを使うこともなく右足のステップだけで3mの距離を詰める。その勢いを殺すことなく左足を踏み込みながら、腰の回転だけでエリオットの股間に右手で正拳突きを放った。

 エリオットは防御態勢を取ることもなくわたしの右ストレートをまともに食らう。その巨体は吹き飛び、部屋の壁に叩きつけられて痙攣していた。


 ここまで0.5秒くらいの出来事。


「ちょ、ちょちょエリオット~⁉」


 この場にいたメンバーだと、何が起きたかはわたし以外誰も見えていないでしょう。

 セイヤーとネーブルが気づいた時には、エリオットは壁に叩きつけられていたはず。今も真っ青な顔で口から泡を吐いて瀕死の状態になっているわけで、おそらくエリオット本人も意識はないと思う。あー、ギルドの壁壊れたりしてないよね? ちょっと力強すぎたかな……。


「ほら、ネーブル。ポーション飲ませてあげて。あ、先に治癒のほう。そのあとこっちの気つけポーションも」


 治癒ポーション実践投入初めてだけど、ちゃんと治るよね?

 エリオット……死なない……よね?

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