第18話 アリシア、新しいおもちゃを見つける
「ステファン! ステファン、しっかりして!」
ステファンが急に意識を失って、倒れてしまった!
何がいったいどうした……もしかして貧血⁉
赤い物を見ると気絶するって言ってたけれど、今は誰も赤い物を持っていないし、服も別にそんな感じじゃないよね……。
なんだろ?
とりあえず気付け薬を嗅がせてみようか……。
起きて!
「あ、あっ。すみませんすみません! 私!」
すぐにステファンが気がついてコメツキバッタみたいに謝りだす。
「大丈夫? いきなり倒れたけど……ケガしてたりしない?」
見た感じは大丈夫そう。
一応、構造把握……すっごく悪いところはなさそう。ひとまず安心だよ。
「はい! 大丈夫です! ご心配をおかけしてすみませんでした」
「ステファンは倒れたりするのはよくあることなの? 軍の上官さんにも怒られてたって言ってたけど」
わたしが質問すると、ステファンはばつが悪そうに視線を外してくる。
これは何かあるな……。
「私……興奮すると気を失ってしまう質なんです……」
ステファンが遠慮がちに口を開く。
「血を見たり、赤み物を見たりすると興奮するのね? まるでミノタウロスみたいね」
あいつらは興奮させた状態で倒すと、質のいいソファになるんだわー。本革ソファの滑らかな手触り。いいよねー。ステファンも……ふわふわだから、ラグにすると良さそう。
「でも今は赤い物なんてなかったと思うけどなんで?」
「え、っとその、はい……」
ステファンは言葉に詰まり、ちらりとエリオットに視線を送る。
んー、もしかして……?
「エリオット、ちょっとこっちに」
実験をしたいからちょっと付き合って。
「なんでしょう。我が暴君」
我が暴君って何だよ。我が君みたいに使うんじゃないよ……。もはや何でもありなのか⁉
いいからわたしの言うとおりにして!
「え、はい……そんなことするんですか⁉」
「やれ」
暴君の言うことは絶対だぞ! って誰が暴君じゃっ!
「それでは失礼して……」
戸惑いを見せたエリオットだったけれど、わたしの命令に従ってシャツを脱いで上半身裸になる。そして筋肉をアピールするポージング!
「おー、切れてる切れてるー! 上腕二頭筋がチョモランマー!」
わたしの開発したプロテインでだいぶ筋肉盛れてきてるねー♪
「きゅぅ」
至近距離でエリオットの筋肉を直視したステファン。情けない声を上げながら再び気絶した。
なるほど。やはりそういうことだったのね!
「はっ⁉ やだ……私ったらはずかしい……」
二度目の気付け薬で意識を取り戻したステファン。真っ赤な顔を長い耳で隠していた。便利だね、その耳。
「あなた……筋肉が好きなのね!」
ズバリ! 言い逃れができない証拠をつかんだわよ!
「はい……」
あっさりと犯行を認めたわね。
「何、もしかして、筋肉に興奮して気絶するの?」
「はい……おはずかしながら……」
マジですかい。
そんなに筋肉が好きなんだ?
「エリオット。ちょっとこっちに」
エリオットのマッスルパワーでステファンをベアハッグさせてみる。
「きゅぅ」
ふむ。
これはとてもおもしろいおもちゃを手に入れましたね。
「暴君……さすがにかわいそうでは?」
いや、気絶させたのはエリオットだし……。わたしじゃないし。
「そんな状態で軍所属とか無理じゃないの? 周りの人みんなマッチョじゃない?」
一緒に龍神の館にやってきた新人さんたちだって、みんな鍛えてそれなりにマッスルさんたちばかり。
どっちを向いても気絶してしまうリスクがありそう……。
「さすがに顔見知りの方には興奮しないようになってきたので……」
「なるほど。エリオットとは出会ったばかりだからか」
「はい。それに……本当に理想的な筋肉で」
特別エリオットの筋肉に惚れてしまったと。
まあこの筋肉はわたしが育てたからねっ!
「だってさ、エリオット♡」
「それを聞いて私はどんな反応をすればいいんだ……」
エリオットが困惑したような表情を浮かべている。
そりゃそうか。
エリオットは別にボディービルダーってわけでもないし、他人に筋肉を魅せて喜ぶ人ではなかったね。
「ステファンの訓練のために、たまに筋肉触らせてあげれば?」
「それは別にかまわないが……」
エリオットの表情が硬い。
それもそのはず。ステファンがまるで恋する乙女のように目を輝かせて、エリオットのことを見つめている……。何かの危機を感じているのかもしれない。
「ねえ、一応確認なんだけど……ステファンって男の子、よね……」
「あら。恋に性別も種族も関係ないわよ♪」
はい。
ソフィーさんが言うと説得力がありますね!
まあ、わたしも別にこだわりはないですけど……エリオットはそうでもないみたい、だからさ。
ソフィーさん、ほら見てよ、エリオットの顔。
こういう時どうするか知ってる?
そう、「白飯が進むー♪」って言いながら白米を食べるのよ! でも白米ない! 仕方がないからパンを食べましょう! ご飯がないならパンを食べればいいじゃない!
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