第15話 アリシア、増員計画を提出する
「ソフィーさん……驚かずに聞いてほしいんですけど、1つ提案してもいいですか?」
さすがにソフィーさんでもこの提案を聞いたら、腰を抜かしてしまうかもしれないね。言おうか言うまいかすっごい悩んで……2分も考えてしまったよ……。
「改まって何かしら……。アリシアからこれまで驚かない提案なんてなかった気がするわよ」
まあそう言われるとそうかも?
ソフィーさんてば、毎回イスから転がり落ちる勢いで驚いていたもんね。お笑い芸人ってこの世界でも流行るかな?
「じゃあ言いますよ……」
気絶しないでよね。
「覚悟は良いですか?」
「大丈夫よ。きなさい」
「では言いますね。誰にも聞かれたくないのでちょっとこっちへ来てください」
ソフィーさんを手招きして距離を詰める。
念には念を。とにかくやばい。
「慎重ね……。そんなにやばい話なの?」
「ええ、とても……」
ふぅ。
「早く言いなさいよ」
「わたしにだってタイミングがあるんですよ!」
「こうして聴く態勢で待っているんだから今がタイミングでしょ!」
「た、たしかに!」
でも改まって言うのははずかしいというか……。
ふぅ。
「早く!」
めっちゃ急かしてくるなあ。
こんなこと言ったらソフィーさんが怒るかもしれないし……でも言うしかないか!
「はいー。えっとね。移動販売めちゃくちゃ好調じゃないですか」
「え、ええ。そうね。売れに売れてるわね。おかげさまで!」
「それでー、なんかもう……調理も販売も天使ちゃん、ぜんぜん足りなくないですか……?」
天使ちゃんJrもソロ活動始めているんですよね。もうみんないっぱいいっぱいなんですよ。
「そうよね……。スカウトしまくって天使ちゃんたちは100人もいるのに、まさかこんな日が来るなんて……」
ソフィーさんが遠い目をして何かに想いを馳せている。
いやね、だったらどういうつもりで100人もイケメンたちを集めたんですか……。ホントは働かせる気、なかったんでしょ。
「普通に倍くらいの人数がいてもいいくらいの販売規模になっちゃってますよ。夜営業と2シフト交代制にしても、みんな疲労の色が顔に出てきてますもん」
とりあえずHP回復ポーションを休憩時間に飲ませてるけど、それだけでは心の回復がね。やっぱりちゃんと週3日くらいは完全オフの日がないともたないよ。
「なんか次の天使ちゃんたちの候補のあてとかないんですか?」
そもそも今までどうやって連れてきていたのかも謎。孤児を受け入れているとかいないとか、それくらいのことしか知らないのよね。でも天使ちゃんたちが全員孤児ってわけでもなさそうだし。
「なくはないけれど、さらに100人規模となると……」
まー、普通に考えてやっぱり難しいですよね……。
さすがのソフィーさんでもそんな顔になっちゃうかー。
まあ、なんとなくわかってましたよ……。
「じゃあ、しかたないですね。こうなったら、わたしたちのド〇えもんに頼りましょう」
「ド〇えもん?」
「いいえ、こちらの話ですのでお気になさらずに」
さっそくいきましょう。
たすけてー、ド〇えもーん!
* * *
「お前たち、また来たのか。もしかして暇なのか?」
「いいえ、おかげさまでとっても忙しいわよ。忙しすぎて、アリシアがまた相談があるって……」
わたしがソフィーさんを無理やり連れてきました。
「オッスー♪ セドリックちゃん元気ー? 夏バテしてなーい?」
「セドリックちゃんって……。ああ、そうだな。最近はとくに暑さが厳しい。公務の効率も落ちて困っているよ。あのシュワシュワしたハイボールとやらを1杯頼む」
「キンキンに冷えたハイボールもいいですけどー。今日はもっと良いものを持ってきましたよ♪」
そうこれ、全自動かき氷器!
「ロイスも絶賛の氷菓子ですよー」
「ほう、ロイスが。1ついただこう」
ガーランド伯爵が姿勢を正してイスに座り直す。
セドリックちゃんってば、ロイスに甘いんだから。まあ、ここまで純粋に親バカなのは逆に好感度高いけどね。
「はいはいまいどー。この全自動かき氷器のスイッチを入れるとですねー。中で氷が生成されて、薄く薄く削り取ってこの器に出てきます! それにこの特製ビールソースをかけるとー、アダルティーなかき氷の完成です!」
シャキシャキのビールかき氷をおあがりよ!
「おお? これを掬って食べればいいのか? なんだこれは⁉ 氷だ。氷のビールが、ビールの氷が溶ける……」
はい、セドリックちゃん昇天しましたー。また来世ー!
「うまい、なんだこれは。ふわふわで舌に乗せた瞬間氷が消える。舌に残る苦み……。うまい……」
大絶賛じゃないですか。
気に入っていただいてうれしいですよー。
「氷の上に掛けるシロップは、ビール以外にも、まあノンアルコールならこんなシロップがありますから、サンプルにいくつか置いていきますね」
「待て。まだそっちの話を何も聞いていないぞ」
よろしい。
交渉と行きましょう。
「路上販売の節は格別のご高配を賜り大変感謝しております。ありがたいことに路上販売でもお客様から大変ご好評をいただいておりまして、生産も販売も人が足りない状態なのです」
「なるほどな。それはうれしい悲鳴だな」
「というわけでー。このあとソフィーさんが天使ちゃんスカウトの旅に出る予定なんですよ」
「えっ⁉」
ソフィーさんが目をまん丸にひん剥いてイスから立ち上がる。
ごめんごめん。また言ってなかったね。がんばってきてね♡ てへぺろりんこ☆
「ソフィーが驚いているが?」
「ええ、もうこの周辺では大規模なスカウト活動は難しいですし、遠方にも出向いていただく必要がある、という話はうっすらと」
まったくしておりません!
「ですが、ソフィーさんがスカウトの旅を終えて、その方たちが天使ちゃんとして働くことができるようになるのはだいぶ先の話です」
「それはそうだろうな。それで私にどうしろと?」
「平和で暇している軍人さんをかーしーて♡」
ダメ?
小首傾げー上目遣いに投げキッス♡
「訓練などがあり、彼らも暇ではないのだが……」
はい無視ー。
「でもうちのほうがもっと暇じゃないんですよ! 閣下のお名前で販売しちゃってるから、うちのお店のサービスの質が下がると、閣下の責任にもなるんですよ⁉」
もちろんそんなことはないんだけど、お名前を借りているのは事実!
たすけてー、ド〇えもんー!
「うむ……。そうなってしまっては困るな……」
ガーランド伯爵が手招きで秘書を呼び寄せる。
また何やら2人で密談。
何とか頼みますよー。
「わかった。今年入ったばかりで、正式な所属が決まっていない新人たちを臨時で貸し与えよう」
「やったー! パパ大好きー♡」
「パパ……」
「パパ大好きよ♡」
ロイス風モノマネ!
「うむ……」
目をつぶって想像してんじゃねー。わたしを見ろ!
「それでパパー。新人さんは何人くらいいるんです?」
「今生き残っているのは178人だな」
「おお、わりと多いですね。って、生き残っているって何です? ちょっと怖いんですけど。戦争とかないですよね?」
「ああ、半年もすると、毎年何割かの新人は音を上げて退役してしまうのだよ。まあある意味、夏の風物詩だな」
「なるほど。訓練って厳しいんですね……」
「それに耐えた者が今残っている新人たち、ということだ」
「つまり根性あるやつらー! やったね!」
わたしの言葉に、ガーランド伯爵が大きく頷いた。
「軍も料理も根性があればなんとでもなる! いや、まあ労働環境は軍よりもよっぽど良いとは思いますけどね。もし新人さんたちの中で、お店に残りたいって人がいたら、退役させて雇っちゃいますからねー」
「それもまあ彼らの人生だろう」
ダメって言わないんだ。懐が深い……のかな。
何はともあれ、これでしばらくの間の人手を確保したぞー!
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