第14話 アリシア、頭キーンにならないかき氷を作る

「というわけなので、一部販売方式を変えていきます。今日から見習いの天使ちゃんJrのみなさんは、それぞれベテランのお兄さんたちのアシスタントとして一緒に回ってください。割り振りはこちらの紙に」


 わたしとソフィーさんは急いで『龍神の館』に戻り、天使ちゃんたちを集めて説明をした。

 路上販売の許可がでたこと。

 100個の連動型アイテム収納ボックスを借り受けたこと。


 つまり、これまで年が若かったり、お店に来たばっかりだったりでまだちゃんと稼働していなかった天使ちゃんたちを一気に教育する必要が出てきたわけですよ。

 実践方式でね。OJTってやつですよ!


「ローラーシューズの扱いにも慣れてもらわないといけないので、天使ちゃんJrのみなさんはくれぐれも無理はしないように。でも少しずつ周りの方に声掛けをして販売の経験をしてみましょう。基本的には呼び込みをして待つスタイルで。けっしてしつこくしてはいけませんよ」


 キャッチセールスみたいになってしまったら、一気にお店の評判が下がるからね。


「またガーランド伯爵が号外の新聞で路上販売のことをお知らせしてくれるそうなので、安心して売っていきましょう!」


 気合の入った叫び声があちこちから聞こえてくる。


 おおー。

 天使ちゃんJrのみんながけっこうやる気だ!

 忙しいお店の中で役割が与えられなくて悶々としていたんだね。ごめんね。お店のことを優先していてキミたちのことをほったらかしにしてしまっていたよー。


「まかないも連動型アイテム収納ボックスから取り出せるので、休憩時間には自由にどうぞー。外は暑いからホントに無理しちゃダメよ。水分補給はこまめにね」


 ニコイチペアの天使ちゃんたちが次々とお店を飛び出していく。

 おー、新人ちゃんたちもがんばってー。


 と、ロイスがアイテム収納ボックスを片手にお店から出て行こうしている。


「ちょっとロイス? どこいくの?」


 その背中がびくんと反応した。


「えっと……私も路上販売してみたいなって……」


 ロイスはこちらを振り向かない。それどころか、ゆっくりと足を前に動かして店から出ようと……。


「さすがにロイスは店頭販売までにしておいてくれる? 何かあったらお父様に申し開きができないよ……」


 領主の娘に路上販売はちょっと……。

 人だかりができてもし何かトラブルになったりしたら取り返しがつかないもの。


「私だって転生人なんだから、そんなに弱くはないのよ?」


「それはわかってるけどー。でも万が一ってこともあるからね」


 ロイスは「ぶぅ」と口を尖らせて抗議の声を漏らした。

 わかるけどさー。こんな美少女が街中で料理売ってたらさらわれてもおかしくないじゃない? わたしだったら、たぶんとりあえずさらっておくし。


「ロイスー。機嫌なおしてよー。あ、そういえば昨日試作したすっごいものを食べさせてあげるー♪」


「すっごいもの? ホントにすっごいのね?」


 ロイスが興味半分、疑い半分といった表情でこちらを見てくる。でもまあ、すっかり機嫌を直ったみたい。ふふふ、かわいい♡


「すっごいよー。ほら、テレレテッテレー、全自動かき氷器!」


 全自動だよ! ふわふわのかき氷が食べられるよー!


「かき氷? たしかに売れそうかも……?」


 あれ? そんなに反応が良くない。かき氷苦手? こんなに暑いのに。


「ロイスはかき氷何味が好き?」


「頭キーンってなるから、あんまり得意じゃないのよね……」


 あーやっぱりそれね。ふふ♡


「わたしの創った全自動かき氷器ならたぶん大丈夫ー。氷は純水からできているからね!」


「純水だと何か違うの?」


「不純物が入っていない氷は溶けにくいからね。薄く削ってもちゃんとかき氷になるのよー。つまりふわふわのかき氷を作れる! ふわふわの氷は口の中ですぐ溶けるから頭がキーンってなりにくいんだよー」


 天然氷よりもさらに不純物を減らせるからね! 人工氷だけど、かき氷器の中で完結できちゃうから。あ、もしかしてこれってマーちゃんの水の加護?


「そういう効果があるんだ。私知らなかったわ。アリシアって物知りね」


 あれ? うっとりした目で見つめられてる……。物知りなわたしのこと好きになった? 今ならチューしてもいい⁉ チュー……空振り!


「ま、これでも元大学生だからね。ロイスよりは知識はある、かな」


 そっと抱きしめるくらいなら……あ、跳ねのけられた。かなしい……。

 

「かき氷食べたいくらい暑いんだからくっつかないで。頭キーンってしないか確かめたいから、さっそく作ってくれない?」


 クールね。今どきの若い子ってこんな感じなの?


「う、うん……。シロップは何味にするか決めておいてね……」


 かなしみのスイッチオン。

 静音の全自動かき氷器は、あっという間に器一杯分の氷を吐き出した。


「はい、おまちどうさまー。シロップは決まった?」


「定番のイチゴかしら」


「その赤いのはイチゴじゃなくてチェリーなんだ。この世界にはイチゴがない……」


「あ、たしかに……」


 イチゴってどうやって栽培するんだろう。蛇イチゴみたいなのはその辺にも生えてるけど、あれは違うよね……。


「さあどうぞ。ふわふわのかき氷チェリー味の完成だよ♪」


「ありがとう。ホントふわふわね。口に入れたら一瞬で溶ける~。頭痛くならないわ。これならいくらでも食べられちゃいそう……」


 ロイスの氷を口に運ぶスプーンが止まらない。

 

 これはなかなか期待できそうね。

 でも機械を量産するのはなかなか厳しいからなあ。どうやって販売しようかな。

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