第13話 アリシア、最前列センターを用意する

 わたしのお願いは1つだけです。


「路上での食品販売許可をいただきたいのです」


「路上販売だと?」


 ガーランド伯爵のお酒を口に運ぶ手が止まる。


「ええ、路上販売です。『龍神の館』の従業員が、街中の路上で料理の販売をする許可をいただきたいのです」


「その狙いは?」


「はい。現在店頭にお並びいただいているお客様の人数が多すぎて、『龍神の館』の敷地内では捌ききれないという問題が起きております。そのお客様の対応ですが、販売場所を分散して行いたいという狙いがあります」


「売上が好調なのであれば、2店舗目を検討すればよいのではないか?」


「はい。行く行くはその検討もしていく必要があります。が、それには時間がかかりますし、今長時間お並びいただいているお客様たちの不満解消にはつながりません」


 まさに今、現場で起きている問題を解消したいのです!

 ここから畳みかけていく。


「そして、ここが大きなポイントなのですが、金銭の授受から料理のお渡しまで、店舗を介さなくても料理が提供できる仕組みを作り上げましたので、今起きている問題を解消するだけなら2号店は不要なのです」


 わたしはタッチパネル式魔力認証注文システムについて説明をする。

 ガーランド伯爵は途中からだんだん考えるのを放棄し始めたようで、ハイボールを口に運ぶ頻度が増えていく。逆に、秘書の方のほうがかなり興味を持ってくれたみたいで、前のめりでメモを取っている。

 まあ後で、この酔っ払いにも補足説明なんかしておいてくださいね。


「つまり、そのなんちゃら注文システムとアイテム収納ボックスを持って街をうろつくだけで、店頭販売と同じことができる、と?」


 おー、酔っ払いのクセにちゃんと理解できてんだー。さっすが領主様ー、すごいすごい♪


「さようでございます。ご理解いただけたようで何よりです」


「それで、路上販売許可を出すと、私に何のメリットがあるのかな?」


 はい、きましたね。

 タダでは許可できない。そりゃそうでしょう。わかってますわかってます。


「今回提案している路上販売は、おそらくほかの領地では実現できていない画期的な販売方法です。それを閣下の指示のもとで行っている。閣下のお力を内外にアピールできるかと」


 ガーランド伯爵は目を閉じて深く頷く。

 反応はまあまあ? だけどこれだけでは飛びついてくれないか……。


「もう1つございます。閣下の主催される晩餐会などで必要な料理の手配は、無償で『龍神の館』がお引き受けいたします」


「ちょっとアリシア⁉」


 あ、ごめんね。ソフィーさんにはこれ言ってなかったー。てへ♡


「ほう、それから?」


「軍用食など、閣下が必要と判断された場合にも料理の手配を行わせていただきます」


「ふむ……」


 ガーランド伯爵が何やら考え込む。

 秘書の方が近づき、メモによる筆談で相談をし始めた。


 まあ、十分そうだけど、最後ダメ押ししておくかな?


「それと最後に……ロイス嬢のローラーシューズショーのデビュー日が決まりまして。最前列センターのお席を確保しておきました」


「よし、路上販売の許可を出そう」


「ありがとうございまーす♡ それではさっそく店に戻り準備を」


 恭しく礼をしてから立ち上がる。

 完全に蚊帳の外状態のソフィーさんも、わたしに倣って慌てて立ち上がった。


「待て」


 ガーランド伯爵から声がかかる。


「なんでしょう?」


「タッチパネル式魔力認証注文システムとやらの在庫は?」


「現在50が稼働しております」


 なんだろ。販売規模が知りたいのかな?


「アイテム収納ボックスの数は?」


 ああ、そうか、そういうことなの……。


「……おはずかしながら、2個でございます」


「それで、どうする気だ?」


 あー、痛いところを突かれちゃった。

 売上は好調だし、資金はだいぶ増えたけれど、アイテム収納ボックスの購入は時間がかかるので後回しにしてしまっていたのでした……。


「ただちに購入の手続きを――」


「それで間に合うのか?」


 うーん。それはこのまま商業ギルドに行って在庫の確認と所持者への交渉などを急ぎ行う……予定、としか。


「私の部隊で管理している連動型アイテム収納ボックスを持って行け。とりあえず100を貸し出す」


「100個も、ですか⁉ それはありがとうございます! えっと、連動型……?」


 とっても助かります!

 でも連動型って何? 初めて聞く単語。


「連動型というのは、1つのアイテム収納ボックスに対して取り出し口を複数開けてある特殊な構造のものを指す。保管部分は1つだが、取り出し口が複数あるから、収納されているものを共有できるというメリットがあるのだ。軍では物資補給の観点からよく利用されている型になる」


 ほえー。

 共有ストレージの考え方かあ。

 それってめっちゃ便利なのでは⁉


 調理場にも出入口を用意しておいて、料理が足りなくなったら追加するればいい! 無限供給・無限販売が実現できちゃうね!

 もちろん、労働環境は大切だから、販売の天使ちゃんたちには適正な休憩時間を取ってもらいますけど!


「その仕組み、初めて知りました。連動型すばらしいですね。ぜひ貸してください!」


 軍にも通じているとそういう便利グッズも提供してもらえるのかあ。なんかほかにもあるかもしれないね。ちょっと軍人さんたちの生態も気になってきた。


「ロイスも世話になっているし、ずいぶんと良い条件も提示された。これは期待の表われだよ。裏切ってくれるなよ?」


 ガーランド伯爵がにやりと笑う。


「はい。お任せください。少し先の未来で、閣下が『この判断は無駄ではなかった』と泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶようです」


 わたしもにやりと笑って返す。


 このアリシアさんにどーんと任せなさいってばー。


「最前列センター、絶対頼むぞ」


 もちろんですよー♡

 ロイス法被と光るうちわも用意しておきますよー♡

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