第12話 アリシア、賄賂を持って城へ赴く

「お店が人気過ぎて困った!」


 いやいや、これは嫌味でも誇張表現ではなくてですね?

 うわさがうわさを呼び、テイクアウト料理はもう明らかに捌ききれないほどのお客様が殺到して、連日長蛇の列を作られているわけですよ。

 

 ちなみにローラーシューズショーのチケット付きの座席は、3カ月先まで埋まっています。2階席、3階席のVIPルームも半年先まで埋まっていて、あとはお断りしている状況でして……。


「売れすぎて困った!」


 わたしの商売の才能が憎いっ! ううん、お金は大好き♡


「ガーランド領以外からお越しくださるお客様も増えているから、もうコントロールが難しい状況ね……」


 ソフィーさんもうれしいやら困ったやら、複雑な表情で自身の頬を撫でている。


「このままだとカジノオープンなんてできそうもないですねー。ゆったりとした大人の社交場が……」


 早くも2号店を考える?

 いや、さすがにそれは早すぎるよね……。まだ天使ちゃんたちの教育も満足にできていないし、わたし自身のキャパもオーバーする気がする。2号店なんて構えたら、そこまで目が届くとは思えないし。


「せっかく気に入ってリピートしてくださるお客様を長時間並ばせたり、半年先の予約を案内したくはないですよね……」


 うちの料理がおいしすぎるから、リピートのお客様はそれでも通ってくれるとは思うけれど、でもそんなストレスはかけたくないなあ。


「難しいところよね……。テイクアウト料理は出来合いの料理をお出しするだけなのだから、料理のお渡し口を増やせれば解決しそうだけど……」


 ソフィーさんがつぶやいた。


 うん、なんか今の言葉にヒントがあった気がする。


 料理のお渡し口を増やす。

 1つか2つなら、まあ今の敷地内でも増やせるとは思う。

 でも、根本的な解決にはならないよね。


 もっと大掛かりに料理の受け渡し口を増やす必要があるんだと思うの。


「よし、ガーランド伯爵に会いに行きましょう!」


 これはガーランド伯爵に協力をしてもらわないといけない案件だ!


「急に何事? セドリックと会って何をする気なの?」


「交渉ですよ。お客様に満足していただくための、ね」


 小首傾げー、ウィンクからのレイバックスピン☆



* * *


「遠慮するなとは言ったが、急に城に来たりしてどうした? 私も忙しい身なのだが……」


 ガーランド伯爵ってば、ご機嫌斜めねー。もしかして、アポなしで突撃したからちょっと怒ってるの?

 かわいいアリシアさんが顔を見せに来たっていうのに?


「ごめんなさい、セドリック。アリシアがお店のことでどうしてもあなたと話したいと……」


「お店のこと、というのは正確ではないですね。お店と、この街の未来のためにきました!」


 もはや『龍神の館』だけの話ではないのですよ。すでに外交問題にまで発展する可能性がある大事になっている!


「それで、まずはお土産です! 新作のコーベハイボールと鳥のササミ揚げ!」


 はいドーン!

 これが嫌いな酒飲みはいないでしょ!


「ほう? コーベハイボール? いただこう」


 ガーランド伯爵の目が光る。

 グラスをキンキンに凍らせておいて、ウィスキーと炭酸水を入れてーと♪ 氷を入れないから最後の一口までウィスキーが薄まらないのよねー。あ、でも、ちょっと濃いめで作ってるから昼間から酔っ払わないでね♡


「ウィスキーか。なるほど、グラスが凍っているな。ふむ……シュワ……これは……シュワ……すっきり……シュワ……ササミ……シュワ……」


 いや、あっさり虜に。

 ハイボールとササミ揚げのループに入るの早過ぎですから。


「お気に召されたようで? そろそろわたしの話を始めてもいいですか?」


「待て、秘書にも同席させる」


 そう言うと、お付きの人を呼び寄せて何か言葉を交わす。するとお付きの人はすぐに扉から出ていった。


「ハイボールか……。炭酸水というのは不思議なものだな。ビールとはのどごしが違う……」


「炭酸水はお酒だけではなく、ジュースに入れてもおいしいですからね。子どもにも大人気です」


「ロイスも炭酸水を飲んだりするのか?」


「ええ、ロイスはレモンスカッシュが好きですね。レモン汁を絞って炭酸水と砂糖を混ぜた飲み物です」


「ほう、レモンか。この辺りではよく栽培されているから、主要な輸出品の1つではあるな」


「レモンスカッシュも『ガーランドレモンスカッシュ』という名前でこの街の特産品として販売したら、良い感じなんじゃないですかねー」


 ガーランドレモンっていうブランディングがうまくいけば、卸値も上がって農家の人もウハウハ~♪


「なるほど。前向きに検討しよう。その際は商品の管理を任せたい」


「ガッテンだー! アリシアさんにお任せあれー♪」


 口約束とはいえ、地域特産品の独占販売ができるなんてラッキー♪


「秘書が来た。よし、本題に入れ」


 そう言ってガーランド伯爵は、コーベハイボールとササミ揚げのピッチを上げていく。

 おや、まさか……秘書に丸投げして自分だけお酒を楽しむつもりではないですよね⁉

 許しませんよ⁉


 あ、秘書さんって前に『龍神の館』に来た時に一緒にいた人だ。ちょっと渋い声のお酒好きの人!


 ん、コーベハイボールのおかわりですか?

 仕方ないですね……。

 凍らせたグラスはたくさん用意していますけど……ベロベロに酔っぱらわないでくださいよ?


「じゃあ、まあ、閣下が酔っぱらわないうちに手短に……」


 まずはお店の状況からかな。


「『龍神の館』をリニューアルオープンしてから1週間と少しですが、おかげさまで大盛況となっておりまして、昼間、店の前には連日長蛇の列ができております」


「それは良かったな。新聞を刷らせた甲斐があった」


「その節は誠にありがとうございました。新聞のおかげでガーランド領内の平民層への認知が一気に広がり、その後少し置いて貴族層への認知も広がりました。今やガーランド領外からのお客様もかなり増えておりまして……」


「それはこちらでも把握している。城門の管理台帳を見れば一目瞭然だ」


「それなら話が早いです。火急の要件としてこちらを訪れた理由は――」


 たった1つ。


「路上での食品販売許可をいただきたい!」

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