第10話 アリシア、水の女神の加護を受ける

「アリシアよ、我のものになるが良いぞ」


 マーチャン様、もとい、マーナヒリン様が手を差し伸べてこられた。

 めっちゃ笑顔……。

 いざ女神様ですって言われて見ると、そこはかとなく気品を感じて……でもとにかくやっぱり超絶美少女だね! ロイスとは違った美しさよねー。これが人ならざる者の美しさなのかな。


 だけど――。


「我のものって言われてましても……」


 さすがに躊躇しちゃうよね。ミィちゃんはあんなふうに言っていたけれど、本心はどうかなー。独占欲強そうだし。


「我ら女神にそのような感情はないぞよ」


 ぞよ……。

 ああ、マーナヒリン様も心が読めるのね。

 女神様はみんなそうなのかな。


「汝を気に入った。だから我も加護を与えたい。ただそれだけなのじゃよ」


 じゃよ……。

 美少女でその語尾はずるい! なんかかわいくて抱きしめたくなっちゃう!


「抱きしめてもよいぞ。我なら写真を撮っても、販売してもミィシェリアと違って怒ったりせぬぞ」


『私も怒ったりはしていません! ですが派手に目立ちすぎるのを避けるために……』


 あ、結局ミィちゃんも会話に参加するのね。

 まあそのほうが早いかな。

 でもさっきからソフィーさんがなんかオロオロしてるんですけど……。


「おおそうか。ソフィー。今アリシアと大切な話をしておるから、部下を連れて下に行っていてくれるか?」


「はい。かしこまりました……」


 うぉ? ソフィーさんと天使ちゃんたちの目が急に虚ろに。

 ゾンビみたいに歩いてVIPルームから出ていっちゃった……。


「人払いは済んだぞよ」


 うわー。やっぱり何かしらの力で人を操ったんだ! こわっ!


「我はアリシアのすべてを受け入れるぞよ。我の裸の写真が撮りたいのか? 良いぞ。遠慮するな」


 え、マジ? いいの? 何も言っていないし、今そんなことはちょっとも思ってもいないんですけど……。でも撮っていいなら……。


『マーナヒリン! それはさすがにダメです』


「冗談じゃよ。あいかわらずミィシェリアは固いの」


「おっぱいは柔らかいのにね」


「けしからんの」


「けしからんの♡」


 マーナヒリン様ってばノリがいい!

 ちょっと好きかも♡


『2人して……。アリシア、女神が加護を与えると言っているのです。それは断るものではありませんよ。喜んで受け入れればそれで良いのです』


 ふーん。そういうものかあ。

 まあ、複数の女神を崇拝しても罰則がないなら深く考えなくても別にいいのかな?


「女神の加護は、いくらあっても困りはせぬぞ」


 そんな安売りの文句みたいでいいのかな。……だけど、それぞれ神性が違うから、いいのかな?


『そういうことです。女神によって与える加護が異なりますから』


「ところで……女神の加護って何? ステータスアップのボーナスみたいなもの?」


『それはある意味副次的な効果です。本来女神が与える加護とは、自身の象徴を分け与えるようなものです』


 自身の象徴……。難しくて言っている意味がよくわかりません!


「我であれば水の加護。ミィシェリアであれば愛の加護じゃな」


 ああ、水の女神様と愛の女神様だからなのね! なんとなく意味がわかってきました。


「うーん。でも具体的にはどんな利点があるんでしょーか? ミィちゃんからはステータスアップの加護しかもらっていないような?」


『アリシアは私の羽根を持っていますから、常に私の加護が与えられている状態です。ずっと私の愛で包んでいます』


 愛で包まれて!

 わたし、ミィちゃんに愛されていたのね!

 キャー。結婚して!


『そうではなく……。周りの人々がアリシアに対して好意的に接しているのを感じませんか?』


 あー。それは『交渉』のパッシブスキルが発動していたり、わたしのLUK≪幸運≫値によるものかと思っていたわー。


『もちろんそれもあります。私の愛の加護とアリシアの持つスキルの相性が良いということです』


 そういうことかー。そりゃそうだよね。愛の女神様からギフトされたスキルだもん。愛の加護と相性がいい。よく考えればその通りだわ。


『LUK≪幸運≫のステータスを上昇させたのも非常に大きいです。愛と運は相性が良いのです』


 へー。そういうものなんだね。偶然だけど……あー、それすらも偶然じゃないのかな。アンラッキーな人生を送って死んだ前世を持つわたしが、幸運と相性の良いミィちゃんのところにやってきて洗礼を受ける。

 なんかそれもすべて愛のお導きなのかなって♡


「それでは我の立場がないではないか……。転生する前から目をつけておったのに」


「それはなんかすみません……」


 マーナヒリン様、ちょっと涙目。

 エメラルドグリーンの瞳から宝石のような涙が零れ落ちそう。もしかして、女神様の涙って、小瓶に溜めると何かご利益があったりするかな?


「あるぞよ」


 え、あるの⁉


「我は水の女神じゃからな。我の涙一滴で寿命が10年延びるぞよ」


 え、マジ⁉ 水の女神すごい! それじゃあいただきまーす♡

 

 涙を一滴いただいてぺろりん☆


「ふわー! お砂糖よりも甘い……。なにこれ……。しあわせ以外の言葉が浮かばないよ……」


 ああ、もっとほしい……。ほしい! もっとほしいよー! マーナヒリン様、マーナヒリンさまあああああ! うあああああああぁぁぁほわほわあああああああああああぁぁぁぁっぁぁっっ!


『マーナヒリン。そうやって信徒を操ろうとするのはやめなさい。あなたの悪い癖ですよ』


「何を言うか。我はこの時のために生きているのじゃ」


『女神に生死の概念はありませんよ』


「もののたとえじゃ。ミィシェリアはおっぱいのわりに頭が固いの~」


 はっ⁉ あれ? わたし、操られてたの?


「正気に戻ったか。操ったのはちょっとしたジョークじゃ。だが寿命が延びるのはホントじゃ。そして我の涙を受け入れた汝は、晴れてこの水の女神・マーナヒリンの信徒となったのじゃ」


 おおー。寿命が延びて……これで水の女神様の加護も手に入れたのね! やったね!


「これからは親しみを込めて、マーちゃんと呼ぶが良いぞ」


 そう言ってわたしの頭をなでなでしてきた。

 ミィちゃんといい、女神様って頭撫でるの好きよね。


「えっと、マーチャン?」


「マーちゃんじゃ。ミィちゃん、みたいなものじゃの」


 え、じゃあ、マーチャン様って、マーちゃんって意味だったの⁉


「そうじゃ。ソフィーは我の信徒じゃからの」


 あー、そういうこと。ようやく納得。

 信徒のお店に足繁く通われていたのですね。


「我のために天使ちゃんとやらも集めておるしな」


 あれは……たぶんソフィーさんの趣味だと思うの。


「おお、そうじゃ。ついでにこれをやろう」


 マーちゃんが懐から何かを取り出してわたしの手に握らせてくる。


「え、女神の羽根⁉ いいの⁉」


「ミィシェリアが与えているのに我が与えぬのはおかしいじゃろ。我のことを一推しにするのじゃぞ」


 一推しって……。

 女神の羽根はありがたく頂戴しますし、家に帰ったら祭壇を作ってマーちゃんを敬い奉りますけども。


「我の涙を集めて、新しいポーションを開発するのも良いぞ」


 お、それは気になる!

 どんな効果のポーションができるかな⁉


『アリシア、ほどほどに。けっして販売してはなりませんよ』


 ミィちゃんそればっかりだー。

 大丈夫。転生者はひっそりと生きるのでしょ? わかってます、わかってまーす。

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