第2話 アリシア、リニューアルオープン初日を迎える

「え、どうしました⁉ お客様同士のトラブルですか⁉ 列に割り込みが?」


 おぅ……並んで物を買うという習慣は、まあない人もいるよね。

 いきなり長蛇の列を前にしてガマンできるかって言われると……。


「でも、ちゃんと後ろに並んでいただけるように説得を……試食も忘れずにお願いします」


 そんなこんなで、ホールの天使ちゃん、改め、オーダーの天使ちゃんたちはてんてこ舞いだ。


「お店が盛況すぎる! まだ開店して1時間も経ってないのにどうしたんだろ、これは⁉」


 うれしい方向に予想外だよ。

 最初は冷ややかな視線を浴びつつ、「あれ、試食うまいぞ?」的な感じで少しずつ客足が伸びていくイメージでいたのに、いきなり長蛇の列、だと? なんなら開店前からお店の前にけっこう人がいたのはなんでだ……。


「暴君、たぶんこれっすよ」


 おい、セイヤー口の利き方に気をつけろよ! 列の最後尾まで吹っ飛ばされたいのか?


「何? えーと≪龍神の館が今日から新装開店リニューアルオープン。料理のラインナップも一新! プレパーティーにご出席された城主ガーランド伯爵も『こんな料理、王宮でもお目にかかれないだろう。まるで舌が蕩けるようだ≫と大絶賛。その料理の数々が、なんと庶民にも手が届く安価で提供されるとのこと。昼間は店頭販売される。キャンペーン期間中は行列必至だ!』って号外新聞⁉」


 なにこれ? こんなプロモーションわたし知らない……。


「街で大量に配ってるっす。伯爵の騎士団の人たちが……」


 なんで伯爵の騎士団がそんなことやってるの⁉ え、ソフィーさんどういうこと⁉


「わ、私も聞いてないわよ? セドリックはサプライズ好きなのよ。ノリノリでやってそうだわ……」


 ソフィーさんが肩をすくめて苦笑している。

 あの人、そういう感じなの? ちょっと意外だわ……。サンタクロースのコスプレして枕元にプレゼント置いちゃうタイプの人なんだ……。


 と、店の前に馬車が止まる。


「アリシア、遊びに来たわよ!」


 馬車の中から飛び出してきたのはロイスだ。


「ロイスー! わざわざ来てくれたの⁉ 見てみてー、リニューアルオープン初日から大盛況よ!」


 見よ、この長蛇の列。

 超高速でオーダーを捌いてもどんどん列が伸びていくのよー!


「私がお父様に頼んで宣伝してもらったのよ。お父様の名前も有効活用していかないとね♪」


 ロイスのおかげだったんだ!

 

「ありがとう! めちゃくちゃうれしいよー! でも予想外の大盛況すぎて、さすがの天使ちゃんたちもすでに疲労困憊に……」


 まずはこの第一のお客様の波を乗り切らないとまずいよね。これ以上列が伸びちゃうと逆に悪評が立っちゃうかも。

 ボトルネックは商品提供のところよね。オーダー待ちが詰まってるみたい。


「こうなったら、わたしのアイテム収納ボックスも使って、今の2倍の品出しスピードにしましょ。テイクアウト窓口の配置ちょっと変えます。5人こっちにきてください。仮説の品出し口を用意するので、ここから商品提供を!」


 販売用のテントの横に、商品を並べるための横長のテーブルと、真っ赤なパラソルを設置する。あ、日焼けしたくないからね?


「アリシア、私も何かお手伝いできることある?」


 ロイスが心配そうに声をかけてくる。


「えーそうねー。せっかくきてくれたんだし、わたしの横に立って、商品を受け取るお客様に、『またきてくださいねー』的な声をかけてくれる?」


 ロイスみたいな美少女が広告塔に立ってくれればリピート率倍増するのでは⁉ まあ、ホントはわたしがそれをやろうと思ってたんですけどねっ! わ、わたしだって「お嬢ちゃんかわいいね」とか「1つおまけしようか」とか言われるんだからね! え、うん……市場で、おじさんたちから。……いいでしょ!



* * *


「おお、なんとかお客様の列も落ち着いてきたかも……。またお夕飯前くらいになったら増えるかもしれないけど、一旦は通常シフトに戻そうかー」


 今は、15時を回ったくらいかな。

 オープンから3時間かー。もうとっくに今日の予定販売目標はクリアしてるし、初日としては十分すぎる成果だね。でもあと2時間がんばろー!


「ロイスもありがとー。ずっと立ってて疲れてるでしょ。お店の中に入って少し休んで。まかない料理も用意させるから」


 ロイスが人気過ぎてちょっと嫉妬。

 超絶美少女ってだけじゃなくて、伯爵令嬢だってことを忘れてたわ。しかも城主の娘。くっそー。チート過ぎるのよ。同じ転生者なのにこの差は……。


「いいのいいの。わたしもチームの一員なんだからね」


 うわ、性格まで良いときた!

 なんでこんなに良い子が前世ではいじめを受けていたんだろうね……。わたしがその場にいたら、全員謝るまでぶっとばしてやったのにさ……。


「ロイス……ありがとね。好き♡」


「急に何よ?」


 ロイスが一瞬驚いた後に小さく笑う。

 この笑顔を守りたい。一生……ずっと箱に入れて飾っておきたいなー。


「感謝してるってことー。じゃあせめてこのパラソルの下で休憩しよっか」


 簡易のイスとまかない料理を並べていく。

 

「遠慮せずに飲んで食べてねー。あ、今日の夜はどうする? 一発目のショー見ていく?」


 ロイスはチームドラゴンに正式に加わってから、何回かは練習に参加したけれど、まだまだ見習いって雰囲気。

 もうちょっと合同練習の時間を取ってからお客様の前には出たいねって感じ。まあ、でも、伯爵令嬢だし、公務的な仕事も忙しそうだし、ショーに出られるのは週末くらいかな。


「うん。今日は見学させてもらうわ。お父様にも許可をいただいているから」


「やったね。今日のショーは1階のフロアーで20時から。あとはVIPルーム21時からの2回」


「VIPルームのショーもあるのね。楽しみだわ」


 初日からご予約をいただいたのですよ♪

 えっと、たしか……マーチャン様、だったかな。貴族の方ではなかったけれど……あれ、誰のご紹介だっけ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る