第28話 アリシア、プレオープンセレモニーを閉会する

「みんな、お疲れさまだったわね」


 ショーを終えたわたしたちを、ソフィーさんが出迎えてくれる。


「アリシア~。もう! あなた、ずいぶんやらかしたわね。ロイス嬢まで巻き込んで~」


「でも最高だったでしょ? ロイスもね?」


「ゾクゾクしたわよ♪」


「私も、とっても楽しかったです!」


 ロイスとソフィーさんと3人で顔を見合わせて笑う。


 今やらなきゃって思ったら体が勝手に動いていたの。だからぜんぜん後悔なんてしてないわ。ねー、ロイス! 楽しかったよねー!


「ソフィー、今日はすばらしかったですわよ」


 貴族の方が近寄ってくる。


「あら~、閣下♡ わざわざ遠方からお越しいただきありがとうございますぅ♡」


 え? 誰? 中性仲間?

 という顔をしていると、「ビーリング伯爵よ」とソフィーさんが小声で教えてくれた。

 ああ、この人が金づ……もう1人の出資者候補の!


「あらあら、さっき踊っていた子たちじゃないの~。どっちがソフィーの隠し子?」


「ご冗談を♡ 2人とも私のかわいい子よ♡ シュトゥルヒに運んできてもらったんですよ♡」


うへ、中性オヤジギャグ……。やだよ、シュトゥルヒ――コウノトリに運んできてもらった赤ちゃんとか。見ればロイスもわたしと同じ、げんなりした顔をしていた。


「汝、アリシアと言ったな」


 と、後ろから呼びかけられて慌てて振り返る。鮮やかな緑色のマントを深々と被ったお客様が立っていた。

 マントのお客様はわたしくらいの身長しかない。でも雰囲気は子どもって感じじゃないわね。


「あ、はい! アリシア=グリーンと申します! 本日はお越しいただき誠にありがとうございます」


 どんな方でもお客様よー。わたしー、気をつけてー! よそ行きスマイルスマイル♪「ロイス、この方ご存じ?」と小声で確認してみたけれど、ロイスは首を振った。うーん、招待客の誰かだと思うんだけど、ロイスが知らない人かー。


「我は満足したぞよ」


「それはありがとうございます! 今後ともぜひご贔屓にしてください!」


 おお、小さいお客様も喜んでる! ど派手なパフォーマンスして良かったね。


「贔屓にか。それが望みか?」

 

 変なこと聞く人ね?


「ええ、そうですね? 今度はご予約いただければもっとゆったりとショーやパフォーマンス、そしてお料理もコースでお楽しみいただけますのでぜひ!」


「良かろう。また来るぞよ」


「ありがとうございました!」


 小さいお客様は満足したのか離れていってしまった。

 いろいろな貴族様がいらっしゃるのねー。種族によっては見た目では年齢がわからないし気をつけないとね。

 でも誰だったんだろ。


「いや~、お見事。素晴らしいステージだったね。それにしても驚いたよ!」


 と、今度はガーランド伯爵が笑顔で近づいてくる。

 わたしの背中に隠れるようにして様子を伺うロイス。やっぱり怒られる、かな? ガーランド伯爵の笑顔が逆に恐ろしい。


 わたしはロイスをかばうように前に出た。


「申し訳ございませんでした。わたしが無理やりロイス様をステージへ。責任はわたしが……」


 うー、もしかして……「わたしの娘にこんな下着同然の服を着せて観客の前で踊らせるなんてハレンチだー」とか言って、収監されたり……しないよね⁉


「ロイス。楽しかったかい?」


 ガーランド伯爵がわたし越しにロイスに話しかける。変わらぬやさしい顔。怒っているようには見えないね……。


「えっと……私……楽しかった……です」


 消え入るような声でロイスが答える。わたしの背中に隠れたままだ。


「それなら良かった。ロイスのあんな笑顔をひさしぶりに見られて安心したんだよ」


 洗礼式で前世の記憶を呼び覚まされてから、ロイスはずっとふさぎ込んでいたのだろうと思う。そりゃね、笑えるわけがないよね……。つら過ぎる過去だもの。過去は変えられないものね……。


 わたしは振り返ってロイスのほうに体を向ける。


「ねえロイス。過去は過去。わたしたちの今は今なんだよ。一緒に今を楽しく生きようよ」


 前世のことはただの知識。チートな知識くらいに扱えばいいんだよ。前世の行いまで背負う必要なんてないんだからね。


「今を楽しく……」


「そう、今を楽しく。今日は楽しかったでしょ?」


「楽しかったわ……」


「料理、おいしかったでしょ?」


「おいしかったわ……」


 ロイスが小さくうなずく。


「じゃあそれでいいじゃない! 毎日楽しいとおいしいを繰り返せば、ずっとハッピー♪」


 わたしはそんな人生を歩んでいきたいって思ってる。ずっとラッキーでハッピーに生きていきたい!


「ずっとハッピー……」


「そう、ずっとハッピー! さー、今日のプレオープンセレモニーはまだまだハッピーが続くよ! このあとはソフィーさんたちの解体ショーが見られるよ!」


 ソフィーさん、最後ばっちり締めてくださいよ!


「そうね、そろそろ私の出番ね。よし、セドリック! 娘にばっかり良いかっこうさせないで、今日はあなたも刀、振るいなさいよね!」


「わ、私もか⁉ もう現役を退いてから何年も……」


 それまでロイスとわたしのやり取りをニコニコしながら見ていたガーランド伯爵に突然の無茶ぶりがやってきた。


「その体で鍛えてないとは言わせないわよ!」


 ソフィーさんがニヤニヤしながらガーランド伯爵の外套を脱がせていく。


 密かに聞き耳を立てていた周りの貴族たちが楽しそうに「ソフィーやれー!」と騒ぎ始める。

 酔っ払いたちのテンションやばいなー。普通は止めるところでしょうに!


「ちょっと、子どももいるんですよ⁉」


 酔っ払いのストリップショーはまだ早いですって! ロイス、見ちゃダメー! ってお父さんだからいいのか⁉ いや、やっぱりダメか⁉ 貴族事情がわからない!


「ほら、2人とも! 着替えや準備はかまどのほうでお願いしますよ!」


 半裸のガーランド伯爵と、このまま放っておいたら下まで脱がせかねない!

 ソフィーさんとガーランド伯爵を、わたしのローラーシューズ初号機のフル出力で強制退場させる。


 お酒はほどほどにしてほしいものですよ……。



* * *


「今日はお越しいただき誠にありがとうございました。正式なリニューアルオープン後はまたご贔屓にしてください」


 すっかりパーティーも終わり、ほろ酔い状態の貴族たちを各馬車へと乗せていく。


 え? 結局解体ショーはどうなったかって?


 なぜかふんどし姿のソフィーさんとガーランド伯爵が登場しましてね、そりゃもう見事な演武を披露してくださったのでそうとう会場も沸きましたね。

 教えてもいないのに、刀に日乃本酒を吹きかけてお清めをしたたけど、なんだろ? あれって、刀を見たら酒を吹きかけるのって、酒飲みの本能かなにかなの?


 いや、なんていうかさ、ふんどし姿の男たちが酔っ払って踊り狂ってるところに、わたしとロイスを引っ張りあげて、2人で抱きかかえてコカトリスに一太刀入れさせるのは、たぶんちょっともう倫理的にアウトよ? お酒臭いし、男臭いし、いろいろアウトよ?


 あのあとロイスの顔、ちょっとおかしかったもん。あれって引いてたっていうよりは……へんな性癖に目覚めなきゃいいけどな……。


 そんなことを言ってたらロイスが戻ってきた!

 すっかり元のドレスに着替え直してお嬢様しちゃってる。ってわたしがドレスを仕立て直したんだけどね。


「ロイス! また一緒に滑れるかな?」


 ロイスに話しかけつつも、ちらりと隣のガーランド伯爵のほうを覗ってみる。

 ガーランド伯爵は小さくうなずくと、やさしくロイスの肩に手を置いた。


「お前がやりたいようにやってみなさい」


「おお、それじゃあ⁉」


 お父様のお許しが出たってことは⁉


「私、また滑りたいです!」


 そう言ってロイスがわたしの手を取ってくれた。その目尻には涙が浮かんでいる。


「やったー! ぜひぜひよろしくね。もうロイスはわたしのチームの一員だから! わたしの天使ちゃん♡」


 うぉー! 最強の美少女を手に入れたぞー!

 明日からは正式オープンに向けてビシバシ扱いていくぞー!


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第三章 アリシアと料理店~プロデュース 編 ~完~



第四章 アリシアと料理店~リニューアルオープン 編 へ続く


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ここまでお読みいただきありがとうございました。


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それでは引き続き、第四章も読んでいただければうれしいです。


さあ今日もみんなでミィちゃんのフィギュアに手を合わせて感謝の祈りを捧げましょう。

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