第27話 アリシア、ステージに乱入する

「ロイス。わたしと一緒にショーに出て!」


 あなたには才能がある。

 その『舞踊』スキルも踊りたがっているはずよ。

 さあ、わたしの手を取りなさい!


「私、人前は苦手で……」


「彼らだって今日が初めての舞台よ。ねえ見て、あんなに楽しそうに踊ってる」


 完ぺきな演技とは程遠い。

 ステージだって音楽だって上等なものが準備できたわけじゃない。

 でも、彼らは観客たちの手拍子に合わせて、あんなにも楽しそうにステップを踏んでるじゃない。


「だけど……うまくできるかわからないし……」


「最初からうまくできる人なんていないわ。やりたいか、やりたくないか、それだけのことなんじゃない?」


 ねえ、ロイス。自分の足を見て。

 さっきから音楽に合わせて無意識にステップを踏んでるよ。


「私、貴族だし。お父様がなんておっしゃるか……」


「ロイスは仮成人でしょ。もう自分の将来は自分で決めていいのよ」


「私……」


 ロイスは手を伸ばしては引っ込めて、どうしても踏ん切りがつかない様子だった。

 もう、じれったいなあ。


「ほら、いいからいくよ!」


 わたしは強引にロイスの手を取る。


「あっ」


 ビクンと体が強張り、手を引っ込めようとするもそれを許さない。


 スキル:創作!


 ロイスとわたしの服をステージ用の衣装へと創り変える。ロイスはブルー。わたしはパープル。金糸と銀糸で流れ星をイメージした双子のデザイン。


「覚悟を決めて。後のことは後で考えましょう!」


 流し目で、ビクついているロイスの表情を確認しながら、わたしは滑りだす。

 

 さあ、ステージへ。


 突然の乱入者に気づき、会場がざわつきだす。


 空いているほうの手を振り、笑顔で観客にアピールする。

 もう一方の手はロイスの手を握り、決して離さない。


 近くにいたエデンがさっと近寄ってきたので耳打ちをする。


「ロイス。今日からわたしたちの仲間よ」


 エデンは小さくうなずくと、ロイスのもう1つの手を取った。


「ロイスお嬢様。本日はこのステージでご一緒できてうれしく思います」


 エデンは大きな動作でロイスに向かって頭を下げる。


「さあ、ロイス。わたしに付いて踊ってちょうだい」


 アップテンポなリズムに合わせてステップを踏んでいく。


「ほらほら、みんなの手拍子に合わせて、円を描くように足を組み替えて! 細かく!」


 エリオットとセイヤーも近くに寄ってきて5人でステップ。

 観客の手拍子も一層大きくなっていく。


「いいわよー。次はスピンよ。エリオットから順番に!」


 ロイスの手を離し、背筋を伸ばしてのスクラッチスピン。時間差で5人のスピンが完成していく。うまいうまい!

 大きな拍手。観客のボルテージも高まっていくのを感じる。


「どう、ロイス。楽しい? 気持ち良くない⁉」


 スピンを終えて、ゆったりとレイバックで滑りながらロイスに話しかける。


「え、ええ。とっても……」


 恍惚の表情。

 ロイスは肩で息をしながらも、とても楽しそうに笑っていた。


「ロイスと滑れてわたしも楽しい。みんなも楽しいわよね⁉」


「楽しいな」


「楽しいっす」


「楽しいです」


 三者三葉のポージングで楽しさをアピールする。


「OK-。じゃあみんな、最後まで楽しむわよー!」


 曲も終盤。

 どんどんジャンプを入れて、観客の度肝を抜きましょ!


 あいさつ代わりのー、トリプルアクセル♪


「さあ、みんなもどんどん飛んでー!」


 クワドトウループ、トリプルトウループ!

 コンビネーション気持ちいいー!


「ロイス、あなたもいって! みんなにあなたを魅せてあげて!」


 トリプルフリップ、シングルループ、トリプルサルコウ!


「いいわよー! コンビネーション最高♪」


「ええ、最高ね!」


 ロイスの笑顔も最高よ!


 エリオットとセイヤーがわたしたちを盛り上げるようにユニゾンでレイバックスピンを決めている。

 ユニゾンでのスピンなんてまだ教えていないのに!


「エリオット! リフトいける⁉」


 男女ペアで、男性が女性を片手で頭上に持ち上げて滑る大技だ。練習の時にちょっと遊びでやった程度。

 ぶっつけ本番。でもきっといける、よね⁉


「もちろん! さあ、リフトいくよ、暴君!」


 スピンをやめて、エリオットがにっこりと笑う。


「だから暴君って言うな! わたしじゃなくてロイス!」


「わ、私⁉」


 驚くロイスをエリオットが笑いながら軽々と持ち上げる。


「最高よ! みんなー、ロイスとエリオットに拍手をちょうだい!」


 今日一番の拍手をもらいながら、リフトをしたまま会場を一周する2人。


 最後、中央でロイスを下ろして全員で手をつなぎ、お辞儀をする。


 鳴りやまない拍手。


 気持ちいいー♪



「ねえみんな、どうだった? 楽しかったよね!」


「楽しかった!」


「また滑りたいっす」


「良かったと思う」


「ねえ、ロイス。最高だったよね」


「私……また滑りたい!」


 誰もが肩で息をしながら、頬を紅潮させながら、それでも最高の笑顔だった。



 ふぅー、初日にしては上出来すぎる結果ね。

 みんな大好き!

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