第26話 アリシア、ローラーシューズショーを始める

「な、なーんてね。冗談よ!? せっかくできた友だちをそんな目で見るわけないじゃーん!」


 なんつって……あっぶなっ! これは作戦練り直さないとなー。ロイスにごり押しはやばそう……。

 なんか良い方法ないかなー。


「アリシアが将来有望なのはこのお店を見ればわかるわ。よほど良いスキルを手に入れたのでしょうね。私とは大違い……」


 ロイスが小さくため息をつく。

 この感じ、外れスキル引いちゃったのかなー。レア度CとかDとか? でも、レア度Dでも使いようによっては使えるからね。


「ちなみにロイスのいただいたスキルはどんなスキルなの?」


 何か一緒に考えてあげられるかも。


「私のスキルはね。レア度Cの『舞踊』スキルよ」


「え、『舞踊』? 踊り? わりと良さそうに聞こえるけど」


 なんだ、石を上手に積めるスキルよりはだいぶ良くない? もっとなんかひどいのを想像してたよ。小指の爪上手に切れるとかそんなの。


「たいして役に立たないわよ、こんなの……」


 コーラを呷るように飲み干し、ポテチを口に放り込んだ。

 のりしおが口の周りにいっぱいついてる。かわいい♡


「そっかなあ。貴族なんだし、この間も夜会があったんでしょ? 普通に踊る機会っていっぱいあるよね?」


「あんなの決まりきった動きをするだけだから『舞踊』スキルを使うまでもないわよ。もっと複雑な、ヒップホップやK-POPダンスみたいなのをやりたいわ」


 そんな無茶な……。

 この国にはそんな軽快なビートを刻んだり、ハイテンポな音楽なんて存在してないのにダンスを……。あ、待って、もしかして?


「ちょっとね。ホールを覗きに行かない?」


「何、急に? 私、人が多いところ苦手なんだけど」


 こらー、アメリカンドックの皮のところだけはがして食べるのやめなさいよね。甘くておいしいけど、お行儀悪いぞー。


「いいからいいから。わりとおもしろいものが見られると思うよ? わたしの自信作ー♪」


 ロイスをイスから無理やり立たせて、口の周りののりしおを拭いてあげる。貴族のお嬢様なんだから身だしなみしっかりねー。ほら元通りかわいい。……かわいいな。うーん、1回くらいチューしても罰は当たらないかな? チュー♡


「何?」


 いいえ、なんでもございません……。次の機会を……。


「あ、ロイスは靴何センチ? これに履き替えてー」


 何足かサイズ違いのローラーシューズを床に出して見せる。


「これスニーカーじゃないの! またスニーカーが履けるなんて夢みたい! この世界の靴ってごつごつしてて痛いのよね~」


「それはただのスニーカーじゃないのよ。靴底をひっくり返してみて♪」


「これって車輪? もしかして……子供がよく使ってるあれ?」


「そう、あ・れ♡」


「大人が滑ってもいいの?」


「魔力制御だから、前世の時のやつよりも安全だよー。あと今のロイスは子供だから別におかしくないよー」


 さ、早く履いてホールに行こー。


「魔力制御ね……」


「最初の滑り出しの時だけ魔力を込めて、魔力がつながればあとはイメージで曲がったり止まったり。スピードの調整も自分でね」


 最初は手を引いて滑り出してみる。


「わ、わ、わ、滑った! 滑ったわ!」


「大丈夫大丈夫。あとは慣れていけばね。さーこのままホールへレッツゴー!」


 へっぴり腰のロイスの手を引いて、徐々にスピードを出していく。


「わ、すごい。気持ちいいわ!」


 ロイスが乗れてきたところでそっと手を放してみる。


「え、あ、私1人でも滑れてるわ!」


「上手上手。その調子で私のマネをしてー、ターン&ストップ」


「ターン&ストップ! えー、かんた~ん!」


「でしょでしょ。バックスケーティングからのートリプルフリップ、シングルループ、トリプルサルコウ」


「トリプルフリップ! シングルループ! トリプルサルコウ!」


 わたしのお手本通り、ロイスは見事にジャンプまで決めてみせる。

 ローラーシューズを履いて数分なのに、もう基本スケーティングからコンビネーションジャンプまでマスターしてる。これ、才能だわ。


「すごいわ、ロイス。やっぱりあなたの『舞踊』スキルはとっても有用ね」


 わたしの目に狂いはなかった!

 トップアイドルはあなたのものよ!


「さあ、ショーの時間よ。わたしの天使ちゃんたちを見てちょうだい!」


「ショー? 天使ちゃんたち?」


 目を白黒させているロイスを横目に、わたしは歓喜のイナバウアーを決めながらホールへと入っていく。


「エリオット、セイヤー、エデン、準備はできている? そろそろ出番よ!」


「いけるっす、暴君!」


「準備OKだ、暴君!」


「こっちもバッチリです、暴君!」


「おまえら、人前でわたしのことを暴君って呼ぶな! ほら、ちゃっちゃとスタンバイする! さ、楽しんでらっしゃい! ミュージックスタート♪」


 うろ覚えで作曲してみた曲。くるみ割り人形っぽい音楽をホールの天井に設置したスピーカーから流し始める。


 観客の注目がホール中央に集まったところで、ホールの天使ちゃんたちが一気に料理のテーブルを移動して特設ステージを用意する。


 よし、スポットライトスイッチオン!


 3人の背中を軽く押して送り出す。

 いけ、わたしのアイドルたち!


 エリオット、セイヤー、エデンの順に特設ステージに向かって優雅に滑り出していく。


「これがショー……」


 3人を見つめ、ロイスがつぶやく。


「そうよ。わたしの天使ちゃんたち。毎夜、ここでローラーシューズショーを開演する予定なの」


「ローラーシューズショー……ステキ。いつかテレビで見たアイスショーみたい……」


「まだまだ演技は拙いけど、3人には可能性を感じているの。ってわたしも素人だけどさ。なんかこういうの好きなんだよね」


「私も好きかも……」


 3人を見つめるロイスの瞳が熱を帯びている。


「ねえロイス」


「何?」


「あなたもここで踊ってみない?」


「え?」


 ロイスが目を見開いてわたしのほうを見てくる。


「ローラーシューズショーに出てみないって言ったのよ」


 あなたの『舞踊』スキル、ここで輝かせてみましょうよ。


「私がショーで踊る?」


「そうよ、ロイス。わたしのアイドルとして、このステージに立って!」


 ロイスに向かって手を伸ばす。

 さあ、わたしの手を取りなさい!

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