第25話 アリシア、衝撃の事実を知って激しく後悔する

「私は災害や事故で死んだのではないわ。寿命でもない……」


「それじゃあロイスが亡くなったのって……」


「ええ、自死よ。よくある話。ひどいいじめを受けていたのよ……」


 いじめを苦にした自死。

 なんてことだ……。


「高校1年の冬に……」


 わたしの前世よりもずいぶん若い。


「どうしようもなかったの。誰にも相談できず、もう抱えきれなかった……」


 悲しい、でもなく、つらい、でもなく、ただ目を伏せるロイスに、わたしは掛けてあげられる言葉を持っていなかった。


「こんな前世なら、記憶なんて戻してほしくなかったわ……」


 確かにそうだと思う。

 なぜ? 洗礼式の時に明かす決まりだから? でも、どう考えてもプラスにならない……。


「なぜ私が転生者に選ばれたんだろう。今日までずっとそればかり考えてきたわ。今もその答えは出ていないのだけれど」


「スークル様はなんておっしゃっているんですか? 聞いたら何か教えてくださるかもしれない」


「スークル様? 洗礼式の時以来お会いしていないわ。そんなに気軽にお会いできるような方でもないもの……」


「えっ⁉」


 そうなの⁉ わたしは毎日お祈りしてミィちゃんとお話してるし、何なら夢の中でも♡


『アリシアは特別です。普通はもっと女神のことを敬い、畏怖の念で距離を置くものなのですよ』


 あ、ミィちゃん。わたしは特別かあ。ウフフフフフフフ♡


『そういう意味ではなくてですね……。ロイスのことですが、スークルだって何も考えていないわけではないのですよ。ロイスのことは女神の間でも共有されていましたが、特例として記憶を戻さないという案も出ていたくらいです』


 ですよねー。普通に考えて自死の記憶は……。

 ところで転生者ってどうやって決まるんですか? 前世の行い?


『詳しいことは明かせませんが、前世の行いはまったくが関係がない、とだけ伝えておきましょう』


 ケチー。

 構造把握のレベルを上げて、そのうちミィちゃんの頭の中を全部覗くからね!


『その時を楽しみにしていますよ。アリシアはロイスの良き友人として、話し相手になってあげてください。スキルを使い、心の安定を図るという手もあるかもしれませんね』


 ちぇっ、余裕ぶってるなあ。

 友人ね。うん、そうだね。それは良いと思う。ロイスと友だちになろう。


「わたしはねー、ミィシェリア様の信徒なんだけど、毎日お祈りしてお話を聞いてもらってるよ。すっごいしあわせな気持ちになるんだー」


「毎日、なの。元日本人なのにずいぶん信心深いのね」


「そうじゃないってー。話したら応えてくれる女神様だからだよ♡ 前世では無神論者。初詣だって行ったことなかったもん」


「応えてくれる、か。スークル様もお祈りしたら応えてくれるかしら」


「直接神殿に行けば必ずね。……あ、でも、筋肉ゴリラらしいから、どうだろう。ミィちゃんと違ってこぶしで語り合うのかな?」


「き、筋肉ゴリラ⁉ スークル様が⁉」


 ロイスが驚いてイスから転げ落ちそうになっていた。

 わたし、何かおかしなこと言った⁉


「え、戦いの女神で、筋肉ゴリラだってミィちゃんが言ってた……」


「どちらかというと細身で、とても美しい女神様だけど……」


 ミィちゃん⁉ もしかしてわたしをだましたの⁉


『私は本当のことを伝えていますよ。スークルは神託を与える時、力を封印してかりそめの肉体を身にまとっているのです。そうでないと、神殿を破壊してしまう恐れがあるからなのです』


 え、こわっ。ゴリラやばっ!

 ただいるだけで神殿破壊するって、ゴリラを超えてキングコングじゃ。


『スークルもつらいのですよ。それもあってか、なかなか信徒の前に顔を出せないのでしょう』


 なるほどねー。

 でもロイスの話は聞いてあげてほしいなー。


『そうですね。ロイスには心のケアが必要なようです。スークルと話してみます』


 女神同士はお願いねー。人間同士はこっちでうまいことやっておくー。


「今裏どりをしたわ。どうやら神殿を破壊してしまうパワーを持っているから、肉体を封印して神託を与えているらしいよ」


「どこでそんな情報を⁉」


「あ、えっと、そう、わたしはミィシェリア様のお気に入りだから♡ 特別に好きな時にお祈りができるようにしてもらったのです!」


 てれれれってれー。ミィちゃんの羽根ー♪


「そう、これがあればいつでもミィちゃんとお話ができてね。悩みごととか聞いてもらえるの。だから、ロイスがスークル様と気軽にお話しできるように取り計らってもらってるから安心して?」


「あり、がとう……。アリシアってすごいのね。こんなにたくさんの料理も作れるし、女神様とも仲良くされていて……」


「別に普通だよー。ねえ、ロイス。わたしたちってもう友だちだよね! ね?」


 このアリシアさんが友だちのために一肌でも二肌でも脱ぎましょう。


「友だち……」


 そうつぶやくと、ロイスが顔を覆い、声を上げて泣き出してしまった。


「え、えっ⁉ どうしたの⁉ どこか痛い⁉ 薬飲む⁉」


「違うの……友だち、初めてなの。前世でも現世でも」


「ああ、そう、よね。初めての友だち……。わたしも前世ではぜんぜん……同性の友だちはロイスが初めてよ!」


 初めての友だちって言いたかったけど、初めてはスレッドリー、アイツが……。


「同性では……?」


 ロイスが怪訝な顔でこちらをうかがっている。

 うわー、さらっと流してくれなかったかー。面倒なことにならなきゃいいけど。


「えっと、あー、その、たぶんこの間の舞踏会に出席してると思うんだけどー。スレッドリーって男の子と、ちょっとなんか知り合いになって、友だちになってくれーみたいに言われて、って感じで?」


 ややこしくてあんまり説明はしたくない。

 スレッドリーが隷属の腕輪でロイスを洗脳しようとしたとか、絶対トラブルの種だもんね。


「スレッドリー様……ああ、あの王子。夜会でなれなれしく話しかけてこられて、『オレと友だちになってくれ~』と。さすがに立場もありますし、邪険にもできなかったので、『気分が優れないので』と夜会を中座するしかなかったわ……。私が主役の夜会なのにホント迷惑したわ」


 えっと、スレッドリー……乙。見事に撃沈しちゃったんだね。

 って、今の話、なんか絶対流しちゃいけないところなかった?


「王子……?」


「ええ、スレッドリー=フォン=パストルラン様。この国の第2王子よ」


「うっそ。アイツ第2王子なの⁉ その辺歩いてた頭の悪いガキだったけど……」


 領主、領民のなんたるかもわかっていない成金領主のドラ息子だと思ってた……。


「マジ王子⁉ ドッキリじゃなくて⁉」


「ええ、こんなことでウソをついても仕方ないじゃない。マジのマジよ。でも残念ね。顔が――」


「「好みじゃない!」」


 キレイにハモってしまった。


「ホントただのはなたれ小僧にしか見えないもんねー。小僧が煌びやかな服を着せられてるって感じで」


「アリシア、それはさすがに言い過ぎよ~。仮にもこの国の王子様なのよ」


 ロイス、わたしのことを注意しながら笑っちゃってるじゃないの。しっかし、スレッドリーが王子様ねえ。


「王子様って知ってたらもっとちゃんと粉かけといたのになー。失敗したかな」


「アリシア、あんなのがいいの?」


「いや、あんなのって言っても一応王子様だし? 次男なら王位継承もしないわけでしょ? お金だけたくさんもって、将来はどこかの領地でのほほんと暮らすんだろうし、引っかけておけば将来安泰だったなーって」


「打算的……」


 えっ、そんな目で見ないで!

 美少女にそんな目で見られたら……高ぶっちゃう♡


「わたし、玉の輿に乗りたくてね。ほら、平民だし」


「玉の輿……。あなた前世は男性では?」


「うん、まあ、そうなんだけど……現世のわたしと記憶が混じってるから、自分がどっちかはまだあんまり。だけど、もともとこんな性格だったから、玉の輿にも乗りたいし、前世の記憶に引っ張られてハーレムも作りたい、みたいな?」


 まあ、どっちもいいじゃないの!


「いやいやいや、そんなに引かないで! 美しいものが好きなだけだからね! あれだったらロイスもわたしの玉の輿ハーレムの一員にどう? かわいいし、文句なく合格! わたし、こう見えても将来有望だし、飲めや歌えや酒池肉林の生活を提供できるかもよ?」


「え、遠慮しておきます……」


 めっちゃ引いてるー。

 完全にタイミング間違えたわー。わたしの『交渉Lv7』仕事してよね! ガンガン上がっていくわりにはあんまり……レア度Bだから?

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