第24話 アリシア、コンビニ飯を振舞う

「アリシア、あなたは転生者よね?」


 ロイス嬢から耳打ちされた衝撃的な言葉に、一瞬固まってしまう。


「それは肯定と受け取ってよろしいかしら?」


 ロイス嬢の勝ち誇ったような顔。え……何が狙いなの⁉


「えっと、転生者……とはなんでしょうかー?」


 冷や汗ダラダラでしどろもどろ。

 いや、今さら苦しいかもしれないけれど、相手の出方がわからない以上はごまかすしか!


「シャンパン、からあげクン、ローラーシューズ、ほかにもありそうね。ずいぶん派手に立ち回っていますものね」


 え、ええ。ちょっとばかり派手でしたかね……? やっぱりわかっちゃいますか?


「って、ロイス様、もしかして――」


「そうよ。私も転生者なの」


 いたずらっぽく笑うその顔が、初めて年齢相応の、同い年の女の子に見えた。


 あれ?


「え、じゃあ、わたしが転生者だからって……」


「別に周りにバラしたりするつもりはないわよ。仲間がほしかったの」


「仲間、ですか……」


「そう、仲間よ。先日の洗礼式で、急に前世の記憶を戻されて、右も左もわからず心細かったのよ」


 おお、なんと! まったく同じ境遇では!


「わたしもとっても心細くて……」


『そのわりにはグイグイと自分の要求を通してきましたね』


 あ、ミィちゃんだ! こんばんはー。転生者の仲間が見つかったよー。


『はい、そのことで。ロイス=ガーランドはスークルの信徒です。アリシアと出会ってすぐに転生者であることを明かすとは思っていませんでしたが、お互いに素性がわかってしまったわけですから、今後についてじっくりと話し合う必要がありそうです』


 なるほどー。転生者であることはあまり人には言わないほうが良いんだもんね。2人で秘密を守っていけるか話し合ってみるよー。


「ロイス様。少し別室で、今後についてお話しませんか?」


 転生者同士、情報交換もしないとだし。


「いいわ。案内して」


「ソフィーさん、閣下。ロイス様と意気投合しまして、少し2人でお話ししたいなーなんて思うので、席を外させてください」


「あらそう? それは良かったわね。セドリックも大丈夫かしら?」


「同世代の友人ができるのは良いことだ。ロイスは引っ込み思案で困っていたところだ。アリシアが友だちになってくれるなら助かるよ」


 わたし、平民ですけど信用して大丈夫ですかー?

 まあ、料理とお酒で気に入られたみたいだし、いいのかな?


 それでは、と挨拶をしてロイス嬢を控室に案内する。


「ごめんなさい、一瞬だけ。厨房とショーの指示を」


 ロイス嬢を控室に置き去りにして、厨房へ全速力で向かう。

 追加の料理を出してー。あとはまだ待機だけどエリオットたちの様子を確認してー。

 それにしてもロイス嬢が転生者だったとはね……。こんなに近くにいるものなんだなあ。



* * *


「おまたせしました!」


 ロイス嬢の待つ控室に飛び込む。


「おかえりなさい。早かったわね」


 特に気にした様子もなく出迎えてくれた。


「すみません、おもてなしもせずに出てしまって。何か飲みます?」


 アイテム収納ボックスからグラスを2つ取り出す。


「じゃあコーラで」


 コーラね。

 自分用に作ったやつだけどいいかな。


「はい、コーラです。味は保証しませんよ」


 原材料がよくわからなかったから、コーラはけっこうMP使ったよー。


「本当にコーラが。あなたすごいのね……」


 自分で注文をしておきながら、目の前に置かれた泡の立つコーラを見てロイス嬢は目を丸くしていた。


「ええ、まあ、才能ってやつですかね。ハハハ」


 どこまでスキルのことを話すかは状況次第かな。いくら転生者同士でもSランクスキルの話は簡単にはしないほうが良い気がする。


「からあげクンも出してくださらない? ほかにもジャンクな料理があったら食べたいわ」


 はいはい、ジャンクフードね。

 試作中の試作で良ければいろいろありますよ、っと。


「からあげクン、味もいろいろ試作してありますよ。アメリカンドック、フライドポテト、肉まん、あんまん、ポテトチップス、ソーダ、オレンジジュースっと」


 あっという間テーブルがいっぱいになる。


「すごい……こんなに……」


 え、ちょっとロイス嬢泣いてる?


「なんでなんで? 泣かないでください! 嫌いなものがありましたか⁉」


「違う……の。なつかしくて……」


 ああ、そうか。前世の記憶。

 記憶にしかない食べ物だとしても、本能的に体が欲するってやつかな……。


「ロイス様の前世は、日本人でしたか?」


「ロイスで良いわ。そう、きっとあなたと同じ日本人よ」


 コンビニ商品のラインナップで泣くのは日本人の証拠、か。


「じゃあロイス。わたしも前世は日本人だったのよ。21歳の大学生」


 ひとしきりわたしの不幸な前世の身の上話をする。コーラ片手にコンビニ飯をパクつきながらね。

 ロイスはよく笑うし、たくさん共感もしてくれた。


「なるほど……。最期は車に轢かれて……それはさぞ」


「つらくないですよ! 今がとっても楽しいから転生できてラッキー!」


 ブイブイ!

 心の底からそう思ってます!


「アリシアはとっても強いのね……。私は記憶が戻ってから前世のことをずっと引きずっているの。前世のことなんて知りたくなかった。ただつらいだけ。私はね、事故で死んだのではないの――」


 ロイスがポツポツと語りだした。

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