第23話 アリシア、プレオープンセレモニーを切り盛りする

「いらっしゃいませ。龍神の館へようこそおいでくださりました」


 プレオープンセレモニー。

 天使ちゃんが入り口前でお客様を1組ずつ、丁重におもてなしをする。


「あ~ら~♡ 今日は遠いところからわざわざお越しいただきありがとうございます~♡」


 そしてお店の中でソフィーさんがお一方ずつ歓迎をしていく。

 招待状は約50組に出している。その中で来てくれそうなのは30組程度となりそうだとか。まあ、料理は軽く100人前を用意してあるから問題なしだよね。準備万端だ。


 わたしはというと、ローラーシューズショーの最終調整中だ。


「エリオット、セイヤー、エデン。今日はあなたたちチームドラゴンのデビュー日よ。だけどね、まだまだ練習も足りてないし教えてない技術もある。だから今日は無理しないでケガだけはしないように楽しんで。変に気取って良いところを見せようとしなくて大丈夫だから。プレオープンセレモニーだし」


 程よい緊張感を与えつつ、変なプレッシャーをかけないように心がけたい。

 でも正直どんな言葉をかけるのが正解なのかはわかっていない。わたしならどう言われたいかなあ。


「うーん、ちがうわね。好きなように滑ってきなさい! これね!」


「なんだ~。今日やさしいっすね。暴君」


「おい、セイヤー。わたしのことを暴君って呼ぶな! 本番前にケガして滑れなくなっても知らないぞ? それ、敬称じゃないからな?」


 陰口は陰で言うから陰口なんだぞ?


「え、そうなんですか? ソフィーさんから『アリシアは暴君幼女って呼ばれたいらしいからみんなよろしくねん♪』と伺っているのですが」


 エリオット……それを信じるの? こんなかわいいわたしが、暴君幼女って呼ばれたいって思ってると思う? あと敬語禁止な。


「暴君……そろそろ開演の時間では?」


「エデン……あなたまで……まあいいわ。まずはセド……ガーランド伯爵にご挨拶いただいて、それからローラーシューズで料理を運び込むパフォーマンスをお見せするのが先ね。あなたたちの出番は、そうね、会場の雰囲気が温まってから。30分後ってところかしら」


 料理とローラーシューズで度肝を抜いてから、解体ショー、そして最後にローラーシューズショーでとどめを刺す!


 これでお店の常連ゲットで、出資金ガッポガッポよ♡


「あ、始まるわ。わたし、裏に行って料理の準備してくるから、3人はしばらく待機ね。休んでて」


 まだお店用のアイテム収納ボックスは購入できていないから、料理は全部わたしのカバンに入っているのです。アリシアちゃん大忙しー。


 ローラーシューズで無人の廊下を駆け抜け、裏口から厨房へ。


「おまたせー。調理の天使ちゃんたちー」


 わたしが厨房に飛び込むと、待ってましたとばかりに調理スタッフたちが立ち上がる。


「ガーランド伯爵の挨拶が終わったら、まずは乾杯だから、このグラスにしゅわしゅわのシャンパンを注いでみんなに配って回って。ホールの天使ちゃんたちも呼んで。うん、予定通り今はまだローラーシューズは使わないで歩いて配ってね。シューズは料理のサーブの時にお披露目ね」


 事前の打ち合わせ通りやろう。

 約30組のお客様たちに乾杯用のシャンパンのグラスを配ってもらうところからスタートだよ。



 おっと、ガーランド伯爵の挨拶が始まったね。閣下は手にはグラスを持ってる。上々。


 セドリックさんや、なかなか饒舌ですなあ。

 事前に鳥料理を食べてるから、かなり盛り上げて話をしてくれてるね。これは他のお客様の期待も高まるわー。さすが城主様、良い仕事するね。お金もありがと♡


「おっし、乾杯が終わったわ。料理、行きましょ。まずは10人前ずつ。デザート以外全部中央のテーブルへ。GO! 龍神の館伝説の始まりだー!」


 1人ずつ天使ちゃんたちとハイタッチをかわしながら、料理を送り出していく。

 さあ、みんな食べておくれー! そして感動に涙するのだー!



 うーん、反応が気になる……。

 見てきていい? ここ任せて大丈夫?

 たぶんすぐ追加の10人前は必要になるからここに出しておくね。

 追加のタイミングは任せるから。

 わたし、ちょっとフロアに顔出してくるね!


 調理の天使ちゃんたちに厨房をお任せして、お客様たちの反応を確認しに行く。


 おーおー。大盛況だ。

 みんな談笑もそこそこに料理に群がっておりますなあ。ローラーシューズにも注目が集まってる! 爽快爽快♪


 んーと、セドリックさんにちゃんと挨拶しておこうかな。この間は正式に挨拶できてないし? どこにいるかなー。


「アリシア、こっちいらっしゃい」


「あ、ソフィーさん」


 ソフィーさんに呼び止められて近寄っていく。

 お、ちょうどガーランド伯爵とお話し中だ。タイミングいいね。


「セドリックはアリシアとこの間会っているわよね」


「閣下。本日はお越しいただき誠にありがとうございます」


 スカートを摘まんで挨拶。

 いつもちゃんとできているか不安になる挨拶……。


「おお、この間は! アリシア=グリーン! 今日もうまい料理を楽しみにしていたぞ。その前にここの酒はとにかくうまい! これはなんだ? 泡が……ほかで飲んだことがないな」


「それはシャンパン、という名前をつけておりまして。炭酸ガスを……まあ、あれです。喉の滑りを良くする乾杯用のお飲み物でございます」


「ほう、そうか。これはクセになるな。しかしこの間の日乃本酒も頼みたい」


 ガーランド伯爵が舌なめずりする。

 気に入ってくれたのはうれしいんだけど、今日はほかのお客様もいらっしゃいますからね。


「今日は他のお客様もいらっしゃいますから、酒量のほうはほどほどにお願いしますね」


 こっそり耳打ち。

 ベロベロになってその辺に転がっていたら、さすがに城主としての示しがつかなくなっちゃいますよ。


「お、おう。気をつけよう……。そうだ、こっちがうちのロイスだ。お土産にもらったナゲットクンをえらく気に入ってだな。今日ぜひにということで連れてきたんだ」


「お初にお目にかかります。アリシア=グリーンと申します」


 スカート摘まみー。


「ロイス=ガーランドです。よろしくお願いいたしますわ」


 おふぉほあぁ⁉ めちゃんこ美少女! 絵に描いたような金髪縦ロールのお嬢様! や、やっばっ! ま、まあ、あれね。ほんのちょーっとだけ負けたわ……。


「からあ……ナゲットクンはあなたが考案されましたの?」


「は、はい! わたしが作りました! お気に召されたようで何よりです! その、今日もたくさん用意しておりますのでどうぞお召し上がりください」


 美少女ー! やばいなー。背はわたしと同じくらいなのに、腰ほっそいし、顔もちっちゃいし、まつげバチバチだし、声も濡れてて色気が……10歳ってマジ⁉ これはうわさにもなるわー。


「アリシアさん、ちょっとよろしいかしら」


「はい、なんなりと!」


 ロイス嬢が近くに寄れ、というジェスチャーをしてくるのでそばに寄る。

 ん、もっと近くに? 耳を貸せ? はい、喜んでー!


「あなた、転生者ね?」


 縦ロールの髪をかき上げながら耳元でセクシーに囁かれた言葉は、衝撃的なものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る