第21話 アリシア、ガーランド伯爵をおもてなししていたらしい

 セドリック=ガーランド伯爵⁉

 この街の支配者だー!


 やばい。おっちゃん呼ばわりして適当にお酒飲ませてつぶそうとしてた……。


「そうか、アリシアは天才か。そうかそうか。料理も……日乃本酒も……うまい……」


 ガーランド伯爵はテーブルに突っ伏してしまう。

 あれ? おっちゃん寝ちゃった?


「あらあら。セドリックったら、お酒弱いくせにたくさん飲むから……」


 ソフィーさんが飽きれたようにつぶやいた。だけど、ものすごくやさしい眼差し。ただの知り合いって感じではないのが想像つくね。昔から一緒にいる雰囲気の……やっぱり冒険者仲間なんじゃないのかなってわたしは予想してる。


「今日のところはもう使い物にならなそうね……。仕方ないから後日仕切り直しましょう。あなた、悪いけど、この酔っ払いを連れて帰ってくれる?」


 赤ら顔のお付きの人に向けて言った。実は調子に乗ってガーランド伯爵と一緒にけっこう飲んでたよね。ガーランド伯爵の様子を心配そうに見つめているけれど、立ち上がれてないし……たぶんこっちの人にも介助が必要なんじゃないかなー?


「店の前の馬車まで……まあいいわ。私が運ぶわよ」


 ソフィーさんがガーランド伯爵を軽々と肩に担ぐ。ローラーシューズを起動させると、そのまま滑って部屋から出て行ってしまった。

 おう、使いこなしてますなあ。


「ソフィーさんたちいっちゃいましたけど……あ、これ、お土産のナゲットクン。忘れないで持って帰ってあげてください」


 お付きの人にお土産の袋を握らせる。

 ロイス嬢に届けてあげてね。わたしと同じ年のロイス嬢かー。会ってみたいな。


「ありがとうございます。失礼いたします」


 小さく頭を下げると、お付きの人は若干千鳥足で走り去っていった。

 初めて声を発したんじゃない? わりと渋い声。でも酔っ払い……。大人ってお酒を飲むとダメね。ってわたしが飲ませたんでした♡



* * *


「まったく、あんなに酔っぱらうまで飲むなんて……」


 ソフィーさんがまだグチグチ言いながら戻ってきた。


「ごめんなさい。わたしが飲ませちゃって。ちょっと試作のお酒を試してもらうかなーと」


 テーブルを片付けながら出迎える。まあかなり喜んでもらえたみたいだから良かったんじゃないのかなー。


「試作のお酒? 興味あるわね。ちょっと私にもいただけるかしら?」


「もちろんどうぞー」


 隠す必要もないので酒樽ごと取り出して、テーブルの上に置く。


「『日乃本酒』って名前の醸造酒なんですけど。まあ飲んでみてください」


 お猪口のグラスを手渡して注ぐと、ソフィーさんはそれを躊躇なく口に運んだ。


「これはなかなか……。鼻に抜ける強い香りがとても……原料は何?」


「米です。ソフィーさん、お米って見たことあります?」


「米? ないわね。どんなものなの?」


「行商人から仕入れた……まあ、香辛料みたいなものです。こうしてお酒にすることもできますし、炊いてそのまま食べることもできます。ここで提供する料理にも使いたいから、どうにかたくさん手に入れるルートを開拓しようと思ってます」


「炊いて食べる……ねぇ」


 ソフィーさんは不思議そうに首をひねっている。

 パン食やイモ食の文化だとちょっと想像しにくいかもね。

 まあねー、でも鳥肉とお米は絶対合うはずだからね。わたしの前世の知識がそう言うのよ。わたしも早く実際に食べてみたい! サムゲタンなんて作った日にはたぶん大人気商品になるだろうなあ。いや、サムゲタンは薬として販売したほうが良いのかな。


「それで……これは何の残骸?」


 ソフィーさんが空のお皿を指さす。


「ああ、それは鳥料理の試作品を少々」


「それもいただこうかしら」


 すまし顔で日本酒を傾けている。

 ははーん? さてはこのまま晩酌になだれ込もうとしてますね? まあいいですけどねー。ガーランド伯爵以外の感想も聞いておきたいし。


「こっちがチキンタツタで、こっちがナゲットクンです。味も色々あるのであとで感想をまとめてくださいね。酔っ払う前に!」


「了解了解。私は大丈夫よ。セドリックとは違って酔っ払って寝たりはしないわ」


 ホントですかねぇ。

 普段飲んでいるお酒よりもだいぶアルコール度数高いですからね、それ。


「強いのは良いですけど、ちゃんと間に水も飲みながらにしてくださいよ」


「はいはい、アリシアはしっかり者で助かるわね。お、これはとってもおいしいわね。何も言わずに出されていたら、これがコカトリスの肉だとは気づかないと思うわ……」


 ソフィーさんが豪快にチキンにかぶりつく。

 はい、好評いただきましたー。このままお店のラインナップに加えてもいいかなー。


「わたしも少し食べようかなー。うん、おいしいおいしい♡ あ、そうだ。米麹に漬けておけばもっと肉が柔らかくなるかも!」


 あとで試してみようかな。



* * *


 そして1時間後――。

 案の定の光景が広がっていた。


「ソフィーさん! こんなところで寝ないでくださいよ。だから言ったでしょ。まったくもー。誰かー。誰かこの人を寝室に連れて行ってー!」


 ダメだ。イビキかいてるよ……。


 日乃本酒、危険だね。

 1テーブルに提供する上限の量を定めることにしましょう。

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