第19話 アリシア、偉そうなおっちゃんに絡まれる

 お店のほうの準備はだいたい良いでしょう♪

 あとは肝心なローラーシューズショーのほうの仕上げねー。


「3人ともどう? 自主練進んでる?」


 最近あんまりかまえていなくてごめんね。わたしの天使ちゃんたち♡


「うっす、アリシア。ちょっと見ない間に美人になったんじゃないか?」


 にこやかにお世辞を言ってくるエリオット。


「わたしはもともと超絶美人よ!」


 エリオット……あなたそんなキャラだっけ? もっと寡黙で筋肉がお友だちな魔族イケメンのはずじゃ……。


「エデンに教えてもらってスピンのコツがわかってな。良い感じなんだわ」


 それでニヤニヤ軟派なイケメンになってるわけね。まあ手ごたえがあるのは良いことね。


「エデンは調子いいの? エリオットに教えられるくらいには余裕なんだ?」


「エデンはすげ~っすよ。自分たちのはるか先を行ってるっす。な?」


 セイヤーがエデンの肩を組んで話しかける。エデンもまんざらでもない様子。


「なになに? ずいぶん仲良しじゃないの。チーム感出てきた?」


「私たちはとっくにチームですよ。アリシアが全然顔を出さない間に以心伝心の仲です」


 エリオットも加わり、3人でイチャイチャ……カシャリ。

 ほぅ……これはとりあえず念写しておこう。人気が出たらチームドラゴンのブロマイドを販売するのもやぶさかではない……。けれどまずは個人で楽しむようとして。カシャカシャ……カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。ホクホク♡


「それじゃあ練習の成果をみせてもらおうかしら? 基本の滑り、スピン、ジャンプ」



* * *


 3人の上達振りはわたしの想像以上だった。


 とくにエデン。

 もともと所作の美しさは目を引くものがあったけれど、それがこの数日で洗練されてきている。人に魅せるための演技を意識したせいなのか、それとも出自について知ることができたせいなのか、それはわからないけれど。


「とってもいいわ! 第1段階としては文句なく合格!」


 拍手して3人を出迎える。


「手応えあったもんな!」


「自分やったっす!」


「ええ、2人ともとても良かったです。……良かったよ」


 それぞれの喜び方で合格を噛みしめているようだった。


「次はコンビネーションにチャレンジしていこうと思うの。最初のショーでどこまで実践するかは決めていないけれど、いずれはコンビネーション技を披露していきたいと思っているから、今のうちから練習しましょう」


 ここからはわたしも未知の領域。

 どこまで連携して滑れるのか、美しく魅せられるのかはわかっていないもの。


「まずはシンクロね。同じ速度、同じ動きで滑ったりしてみましょう。お互い接触しないように少し離れてね」


 だんだんと距離を縮めていって、手をつないで滑ってりとか、2人でスピンしたりもしたいかな。どうやったらきれいに見えるだろうね。


 と、その時、廊下の奥から男の声。大きな声がこだまして聞こえてくる。



「ソフィー、ソフィーはいるか⁉」


「まだ開店前ですので、お店の中に入られるとお客様困ります」


 おや、もめているのかな?


「ソフィー! 私が来てやったぞ」


 まったく誰? 貴重な練習時間に乱入してくるなんて。

 3人も滑るのをやめて廊下の方を注視している。


「ソフィー! いないのか? おい、誰か。早くソフィーを連れてこい」


 廊下の奥から現れたのは、煌びやかな赤い外套に身を包む中年の男性。とその従者の男性。

 たぶん貴族の方、かな。ソフィーさんに何か用事?


「ただいまオーナーは席を外しております。閣下、失礼ですが代わりにわたしが要件をお伺いいたします」


 しかたないので、わたしが対応しようかな。偉そうな貴族のおっちゃんの前に歩み寄って挨拶をする。


「ふむ、お前は?」


「わたしはアリシア=グリーンと申します。オーナーの代理を仰せつかっております」


「そうか。なにやら派手に動いていると聞いてな。店の様子を見に来てやったぞ」


 そう言って貴族のおじさんが辺りを物色しだす。


「申し訳ございません。準備中の機材ですので、おケガなどありましたら一大事でございます。お手をお触れにならないほうよろしいかと……」


 訳)わたしの創作物に気安くさわんな。〇すぞ!


「オーナーでしたら直に戻りますので、あちらの応接室のほうでおもてなしさせていただきます」


 訳)邪魔だからそっちの部屋でおとなしくジュースでも飲んでろ。ハゲ! 〇すぞ!


 わたしも仮成人ですからね。無礼な輩にもにこやかに対応できるくらいの常識は身に着けているのですよ。オホホホホホ。


「以前来た時から店の様子がずいぶん違うな。アリシアと言ったか。お前、最近入ったのか? そういえば見ない顔だ」


 ちっ、話聞かないヤツか……貴族ってのはみんなこうなの?

 ちらりとエリオットのほうを見るも、肩をすくめるだけで何も答えてはくれない。

 はいはい。わかりましたよ。わたしが対処すればいいんでしょ。


「はい。先日からお世話になっております。お客様にさらなるご満足をいただけるように心機一転リニューアルをしている最中でございます」


 訳)だから忙しいって言ってるんだよ! 察してさっさと帰れ! ぶぶ漬け投げつけるぞ⁉


「ほう。それはおもしろい。どんな計画だ。見せてみろ」


 そもそも誰なのさ……。付き人ー! わたし初対面だろ、ちゃんと主人を紹介しろよ! 誰かもわからない輩に事業計画を教えるわけないでしょうに……。かといって邪険にもできないし。


「ええ、ここではなんですから、あちらのお部屋でご説明させていただきます。どうぞこちらへ」


 ゆっくりゆっくりと歩いて、応接室へと案内する。

 ソフィーさん早く帰ってきて!

 もしくはこのおじさんが誰なのか誰かわたしに教えて!


 誰も説明してくれないなら、このおじさんにいろいろしちゃうぞ⁉

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