第18話 アリシア、料理界の革命児になる
「というわけでコカトリスの焼き方から大きく手を入れていこうと思います」
「アリシア、これは?」
ソフィーさんがかまどを指さす。
「これはですね、ロティサリー方式と言ってですね、鳥をグルグル回しながら均一に火を通していくんです。このほうがふっくら焼きあがりますし、余計な脂も落ちてその後の食べ方にバリエーションが出せます」
もちろん全自動で回るよー。
天使ちゃんたちには温度管理をお願いすることにしました。セイヤーに協力を仰いで、後輩天使ちゃんたちを厳しく指導してもらうよ。
でもね、かまどにずっと張り付いてると熱いし大変。これを機に、労働環境も改善していくよー。
「それとずいぶん良い香りね……」
「はいはい、それ大事! ただ焼いただけだとコカトリスは臭いんですよ。だから各種良い感じに調合した香草をお腹にたっぷり入れこんで、さらに皮の表面にも塗ってあります。んー良い香り♪」
これで下準備はばっちりね。
あとはどうやって食べるかってところだけどー。
「解体ショーのパフォーマンスはこれまで通りやっていただきたいです。あれは間違いなくこのお店の名物ですから、ローラーシューズショーと並んでずっと続けていくべき」
「わかったわ。この体が動く限り力いっぱい続けていくわねん♪」
ソフィーさんが若干安心したような表情を見せる。
「わたしはね、何もかも否定してるわけじゃないんですよ。このお店の伝統は大切にしたい。でも、疎かにしている部分をちょっと改善するだけで、もっともっとお客様に喜んでもらえるって思うんです。だから少しだけ厳しいことも言いますけど、それはお店のためなので、できれば試させてほしいです!」
ソフィーさんのプライドを折りたいわけじゃない。
でもせっかくだから高みを目指したいじゃない?
「アリシアに任せる、最初にそう決めたんだから、何でも言ってちょうだい!」
改めてソフィーさんとがっちり握手を交わした。
「じゃあ言います。鳥の丸焼きの解体ショーを終えた後の料理の提供の仕方を変えましょう」
「切り分けた後、ということかしら?」
「そうです。あの大きさの鳥ですから、完食する方は少ないのではないですか?」
味もあれだし……。
「そうね……。たいていは少し手を付けて、少なくとも半分程度は毎回廃棄しているかしらね」
「普通にもったいないですよね。なので、解体ショーで見せた鳥と、お召し上がりいただく鳥は別にしようと思います」
「どういうことかしら?」
ソフィーさんが首をかしげてこちらを見てくる。
まあまあ説明を聞いてくださいよ。この天才プロデューサーの話をね。フフフ。
「解体ショーをした後、その場で一部は切り分け、各テーブルにお出ししますが、鳥本体はすぐに下げます。あとは事前に焼いておいた鳥を味付けや調理法を変えて、何種類もお出しする流れです」
煮込んだり、スパイスをつけて焼き直したり、ほぐしてお米と炊いたり。パリ皮煎餅や鳥ケバブなんかも良いかもね♪
「VIPルームだけで提供するのは解体ショーという目で見て楽しむパフォーマンスです。捌いた後のコカトリスは、1階や2階でもシェアしましょう。丸焼きをドカンと出されたら、いくらおいしくても飽きてしまいますし、VIPの方たちも鳥料理フルコースが出てきたほうが満足度が高いでしょうし」
ソフィーさん……どう、ですかね。小首傾げのキャピルルン☆
中性の人にはあまり効果なしか……。
「ありね……。ありだわ。そうか……アイテム収納ボックスがあれば……」
「ソフィーさんそれです! アイテム収納ボックスがあれば焼きあがった直後のままずっと保管しておけるんですよ。調理を終えて提供するだけにして保管することもできる。提供までの時間短縮、そして廃棄を極力減らせるわけです」
「アリシア、すごいわ! これは料理界の革命ね! アリシア最高よ!」
ソフィーさんに笑顔の花が咲く。と、いきなりわたしの脇の下に手を入れてきて、体ごと持ち上げられてしまった。ちょっとテンション上がりすぎよー。
「喜んでもらえてうれしい、ですけどー、おろしておろしてー」
もう、子どもじゃないんだからー。
「しばらくはわたしのアイテム収納ボックスを使ってテスト運用してみましょうね。机上の空論なのでうまく回るかどうかもやってみないとわかりませんし」
「絶対うまくいくわ! 提供する鳥料理を工夫しないといけないわね」
「そうですね。VIP用、1~2階用、テイクアウト用でそれぞれ目玉の商品を用意します。目玉の商品はそれぞれの階でしか食べられないようにしますが、それ以外の料理は共通で。まあテイクアウト用で提供できるものは手で持ち運べるものに限られるので種類は減りますけどね」
さて、あとは大詰めだ。
新装開店まで一気に突っ走るぞー!
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