第16話 アリシア、巨鳥の解体ショーを堪能する
天使ちゃんたち5人がかり、30分ほどで書類の整理が終わる。
「こんな細かい仕事頼んだのに助かりますー。めっちゃ早い!」
それにしても優秀なスタッフたちがそろっていますね。店の規模にしては少し多すぎる人数の天使ちゃんたち。ただ人数をそろえただけではなく、多種多様な能力を持つイケメンたちが集まっているということね。
ソフィーさんはこのお店で何をしようとしているのかな?
「そうね~。やっぱりこの2人になるかしらね……」
ソフィーさんがまとめられたメモを見て、案の定といった具合につぶやいた。
「候補は2人ですか。どんな方なのか教えてもらえますか?」
2人もいたら何とかなりそうな気もする。エロおやじじゃないといいなー。
「本命はガーランド伯爵ね」
「え? 城主様も顧客だったんですか⁉」
うそー! マジぃ⁉
もう勝ったも同然じゃないですかー!
「ええ、ガーランド伯爵にはご贔屓にしていただいているわ。個人的に、昔からの馴染みなのよ」
「それはそれは……もしかして、一緒にパーティー組んだり?」
「内緒よ♡」
笑顔で拒絶される。
ちぇっ。いつか絶対聞きだしてやるんだから!
「まーでも、もうガーランド伯爵で決まりじゃないですか? よくご利用いただいていて、しかも馴染みでコネもあるときた!」
「ただ、あのお方はお金にはシビアよ。私がこのお店を継ぐとなった時に『お金か~し~て~♡』って頼んだけど、ぜんぜんだったわよ」
そりゃまあ、ただ貸してって言っても「い~い~よ~」とはならないでしょうよ。いくら昔からの知り合いとは言っても、城主としてのお立場もあるでしょうし。
「近いうちに試食会は開いて、ガーランド伯爵をお招きしましょう。そこでお料理、ショー、カジノなどを見ていただき、アイテム収納ボックス購入の資金援助を求めましょう。駆け引きなしの真っ向勝負です!」
それでダメなら裏口から試せばいいだけのこと。弱みを握ったり、ああ、そういえば――。
「わたしと同い年のお嬢様がいらっしゃいましたね。ロイス嬢も試食会にお招きしましょう!」
「若い方にも喜んでいただけるようなお料理も用意したいわね」
「それは考えてまーす。平民向けのお料理なんですけど、エデン、エリオット、セイヤーの3人にはめちゃくちゃ好評だったので行けると思いますよ!」
クレープ、スパイシーから揚げは主力商品になりそう。他にも季節に合わせていろいろ新商品を出していけばお店の前は毎日行列よー!
* * *
「お待たせいたしました」
天使ちゃんたちが大皿を持って現れた。
とうとう『龍神の館』のスペシャリテ・鳥の丸焼きが食べられるのね!
それにしても調理時間……長かったー。
「ありがとうございます! ってでかいっ!」
ニワトリの丸焼きを想像していたけれど、ぜんぜん違った!
めちゃ大きい鳥……。
「当店名物、コカトリスの丸焼きよん♪」
「コカトリス……」
鳥の体に蛇のしっぽを持つという巨鳥。険しい山脈に住むと言われているあの!
毒を持っていてかなり強いので、Aランク以上の冒険者が束になってやっと倒せるかどうかという……。
「コカトリスって定期的に仕入れられるものなんですか?」
「ええ、まあ独自のルートがあるのよ♡」
独自のルート? こんなのをしょっちゅう捕ってこれるって相当だけど⁉
ソフィーさん謎が多すぎる……。
「さあ、冷めないうちに切り分けるわよ。刀を」
突然、ソフィーさんが上半身をはだける。見事な体を露出させながら、後ろに控えていた天使ちゃんから巨大な片刃の剣を受け取った。
えっと、ソフィーさん? その剣をかまえて何をする気ですか⁉
ソフィーさんは大きく深呼吸をした後、歌いだした――。
『龍~神~の舞を~ご披露~させ~て~いただき~ますっ! はぁ~よいやさ、よいやさ~』
『よいやさ~よいやさ~。そいやさ~そいやさ~』
ソフィーさんの歌声に合わせて、まわりの天使ちゃんたちも歌いだす。
「こ、これはいったい……」
ソフィーさんが歌に合わせて刀を振り回しながら踊り歩いていく。
なんだこれ⁉
なんか儀式が始まった⁉
『よいやさ~よいやさ~。そいやさ~そいやさ~』
『よいやさ~よいやさ~。そいやさ~そいやさ~』
ソフィーさんと天使ちゃんたちがコカトリスの周りをグルグルと回りながら刀を振り回して行う演武。
だんだんとその踊りが大きく、激しさを増していく。
それが最高潮に達した時――。
『はあ~よいやさ!』
ソフィーさんによる最後の掛け声。天使ちゃんたちが大皿を持ち上げて、コカトリスを思いっきり宙に投げ上げる。
それに合わせてソフィーさん自身も高々と飛びあがり、空中でコカトリスを一刀両断にした。
半身に分かれたコカトリスが落ちてくる。それを2人の天使ちゃんがそれぞれ皿でキャッチ。さらにもう一度空中に投げ上げ、2人の天使ちゃんが小ぶりの刀を振り回す。コカトリスをバラバラに解体していった。
「おお、おみごと……」
わたしは小さく拍手をしながら見守る。
これはすごい。エンターテイメントしてるじゃないですか。人気が出るわけだ。
「はい、おまちどうさま」
衣服を整えたソフィーさんが、わたしの前に小皿を差し出してくれた。
「大変見事な解体ショーでした。伝統の技、堪能させていただきました」
「なかなかのものでしょ♡」
ええ、とても。
長年やっていなければできない技の深みみたいなものを見せていただいた気がします。思わず息を飲んで見守ってしまいましたよ。
「それではお肉のほう、いただきますね」
パリパリとした張りのある皮。ふっくらとした身。少々獣臭い肉の香り。
「いざ実食!」
コカトリスの身を箸で大きく切り分けて口にほおばる。
うーむ。
「まずいっ! めっちゃまずいっ!」
口に入れためっちゃ獣臭いし、焼きすぎてて身が硬いし!
解体ショーのインパクトはすごいのに、料理としてはぜんぜんダメじゃないですか!
やっばー、まずい!
これは料理店として、由々しき事態ですよ⁉
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