第10話 アリシア、チームドラゴンを結成する

「改めましてこんにちはー。アリシア=グリーンです! 10歳です。今日からこのお店のプロデュースを担当しますのでよろしくお願いいたします!」


 一応ちゃんと挨拶ね。

 アイドル選考会で顔は合わせてるけど、わたしが何者なのかはあんまり説明してないからね。


「えー、では、そちらのお兄さんからお名前と特技、好きな食べ物なんかを聞いちゃってもいいですか? あ、ちなみにわたしの特技はモノづくり全般で、好きな食べ物はクレープです!」


 3人とも「クレープってなんだ?」って顔してるねー。いいよいいよー。今度作ってあげるね。お店のテイクアウト用の看板メニューにするつもりだからね。


「はい、こんな感じでよろしく!」


 左手の、80番の筋肉ムキムキマンからー。


「私はエリオットと申します。年齢は18です。特技……そうですね。肉の解体や薪割りなどの力仕事が得意です。好きな食べ物は肉……ですかね」


 少し照れながらもポツポツと話をしてくれた。

 筋骨隆々のエリオットさん。体のわりに物静かな方みたい。シャツピッチピチだけど、それがまたいい! 男らしく力強い演技に期待ですなー。


「わー、パチパチパチ! パワー! エリオットさんすてきー♪ 自己紹介ありがとうございました! お次は真ん中の方、お願いしまーす」


 真ん中は21番の長髪でチャラそうなお兄さん。


「自分はセイヤーと言います! 年は16っす。特技は料理っすかね~。調理場ではリーダー的なポジションを任されているっす。好きな食べ物は肉っすかね」


 元気いっぱいのセイヤーさん。ハキハキと答えてくれた。

 思ったよりもチャラくない。さわやかイケメンだなあ。うーむ、料理男子。しかも調理場のリーダーか……。こいつぁ、対決せねばなるまいな。わたしがここのトップに君臨するためには避けては通れない相手のようだ! もちろん勝ったほうが負けたほうを好きにできるわけだから……ってセイヤーのエッチ♡


「パチパチパチ! 料理! わたしも料理には一家言あるのでー、勝負っすね!」


 宣戦布告じゃー!


「え、そうすっか。自分、負けないっすよ!」


 セイヤーがにやりと笑う。やっぱりイケメン! くっ、負けないぞ!


「はーい。じゃあ最後、お願いします!」


 右手の5番のお兄さん。ソフィーさんからちょっとだけ身の上を聞いちゃったね。


「ボクはエデンです。この間14になった、そうです。孤児なので自分の正確な誕生日はわかりません。特技は剣術です。ここではホールとキッチンの両方を担当しています。好きな食べ物は肉です。よろしくお願いします」


 エデン。孤児で幼少期を冒険者パーティーに拾われて過ごしている。ソフィーさんが言うには、剣術の腕はかなりのものらしい。実戦経験もあるし、おそらくスキルレベルも高そう。

 流暢に淀みなくしゃべってはいるけれど、どことなく陰を感じるのは気のせいではないよね。何かまだ持っていそうな雰囲気を感じるね。それにしても体も細くて肌が白くて……うらやましい!


「パチパチパチ! エデンさん。剣術はわたし、ちょっと興味あって、今度見せてほしいですー」


「そう、ですか。ではいずれどこかで」


 エデンが小さく微笑む。……くっ、イケメンやないかい。


 エリオットが男らしいイケメン。セイヤーがさわやかなイケメン。エデンが少し影のあるイケメン。

 

 ダメッ。わたしを取り合って争わないで!



「さってー。お互いの自己紹介も終わったところで、これからのことについて話しましょうかねー」


 3人を見渡す。


「まずは立ち話もなんですから、座って話しましょうか。よいしょー」


 アイテム収納ボックスから丸テーブルとイス一式を取り出す。シンプルだけど、イスにはちゃんと布張りしているから、座り心地は良いよ♪


「すごいっすね! アリシアさんぱねーっす!」


 セイヤーが目を輝かせる。


「はいはい、いちいち驚かなくていいからねー。これはミィシェリア様から賜ったアイテム収納ができる魔法のカバンです。これがあればかさばるものも、熱々の料理もなんでも運びたい放題!」


「あ、言い忘れていたけど、わたし、このローラーシューズショーチームの監督も務めますのでよろしくね。……あ、チームの名前! 龍神の館にちなんで『チームドラゴン』ってどうかな♪ 強そうだしかっこいいよね⁉」


 急に天啓がね? ミィちゃんかな?


「ドラゴンかっこいいっす!」


 おうおう、セイヤーかわいいやつめ。素直なイケメンは嫌いじゃないよー。お近づきのしるしにこれをあげよう。


「じゃあわたしの試作したジュースとスパイシーから揚げでも食べながら話そっか」


 冷え冷えのオレンジジュースと、熱々のカレー唐辛子味のから揚げを取り出す。


「んー良い匂い! みんなお肉好きって言ってたもんね? から揚げ食べるでしょ?」


 山盛りのから揚げドーン!

 テーブルの真ん中に大皿を置く。存在感あるー。


 ずっと黙ったままのエリオット、エデンに続いてセイヤーも言葉をなくしてしまった。


「ほらほら、固まってないで、みんな席に着くー! よーし、チームドラゴンのメンバー入りを果たしたみんなにお祝いの意味も込めて、プロデューサーのアリシアさんからプレゼントだぞー♪」


 まだ固まったままの3人に箸を手渡していく。


「食べないならわたしが全部食べちゃうー。あちちっ。ふーふー」


 熱いし辛いけどおいしい!

 あーこの感じ、唾液がたくさん出てきて、いくらでもいけちゃうやつー♪


「自分、いただくっす!」


「いただきます」


「ありがとうございます。ちょうだいいたします」


 3人が慌てて席に着き、から揚げをほおばり始める。


「なんだこれ……ふわふわでうますぎる」


「油で揚げただけ……じゃないっすね。サクサクふわふわ……」


「おいしいです。肉も新鮮だ」


 はい、シェフを呼んでー。直接感謝を伝えたいからー。ってわたしか! うますぎてコノヤロー!


「うへへへへ。これはねー。秘密のうまい粉をまぶしている特別な一品なのですよ。どう? これを店頭で販売したら、匂いにつられて人が集まると思わない?」


「思うっす! 悪魔的っす!」


「でしょー♪ ん……悪魔……巨乳……滅ぼす!」


「あ、アリシアさん……悪魔というだけで悪いと思わないでください……」


 と、エリオットさん。よく見ればエリオットの頭には小さな角……もしかして魔族⁉


「エリオットってそうなの⁉」


「ええ、混血ですが魔族の血を引いています」


 ばつが悪そうに眉根を寄せる。


「えー、いいじゃない! だから筋肉! なるほどねー。かっこいい!」


 魔族のダンスィーはいいね! だが、オナゴは決して許さぬ! あいつらみんなバインバイン!


「自分は人間っす!」


 いや、それはわかってるよ。セイヤー、歯に肉が挟まりまくっててもイケメンだなあ。ちょっと残念だけどかわいいな。センセーはそういうのも嫌いじゃないぞー。


「ボクは……おそらく純血の人族ではないと……詳しくはわかりませんが」

 

 エデンがつぶやく。

 純潔⁉ ああ、純血かあ。孤児だとたしかにわからないかもね。


「んー、出自って気になる?」


「気にしないようにはしていますが、そうですね。気にならないと言ったらうそになります」


「何かひっかかることでもあったりするの?」


 見た目は普通に人間族っぽいし、見た目以外の何かがエデンをこんなふうにさせてるのかな。


「ええ、少し……」


「それは、肉好きなのにあんまり食が進んでいないのと関係がある?」


「……ええ、はい」


 エデンが目を伏せる。


「よし、じゃあその話を聞こう。わたしたちチームドラゴンの中だけの話ってことで、他言無用だよ?」


「もちろんっす!」


「承知いたしました」


 セイヤーとエリオットが深くうなずいた。

 秘密を共有しあって仲良くなっていこう!


「ありがとうございます。それでは少しボクの身の上話を聞いていただけますか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る