第8話 アリシア、料理店をプロデュース。

「ソフィーさん。このお店の制服を作りませんか?」


 おそろいなのがバンダナとエプロンだけっていうのはちょっと淋しいよ。


「全身おそろいの服を着たほうが、お店の雰囲気も断然良くなると思うんですよねー」


「おもしろいアイディアだわ。……だけど、服をすべて支給するとなると、それなりに予算がかかるのよ……」


 ソフィーさんが悲しそうな表情で見つめてくる。

 まあそうだよね。もともとやりたかったけれど、現実問題として厳しいので、バンダナとエプロンの揃えにした、ってことなのね……。


「でもそれって、ニワトリが先かタマゴが先か問題ですねー。お店のサービスレベルを上げるのが先か、お客さんの人数・単価が上がるのが先か。わたしはね、両方チャレンジしても良いと思います」


 どっちかだけなんて淋しいじゃない?

 せっかくショーもやるんだから、徹底的にお店の質と格を上げてやろうじゃないの! そうすれば評判も上がって貴族様たちが集うお店になるんじゃないの?


「まったく、簡単に言ってくれるわね……。商売はアリシアが考えているほど単純ではないのよ」


 ソフィーさんが自嘲気味に笑う。いろいろ試した結果が今だ、とでも言いたげな表情。

 わかる、わかりますよー。そうそう、この世界の常識に照らし合わせたら、ソフィーさんはオーナーとしてがんばっているんだと思います。


 だけどね、わたしは異世界からの転生者なのでー、チートスキルと前世の記憶を持つ存在なのですよ。わっはっは。ここは1つ、泥船に乗ったつもりで任せておきんしゃい! 間違えた。黒船に乗ったつもりで任せろー。カイコクシテクダサーイ!


「えーと、どうでしょう。わたしにチャレンジさせてほしいんですよね。しばらくの間の資金はわたしが出します。そうですね、1カ月。それで芽が出なければお店のコンセプトその他すべて元に戻しましょう」


「アリシア、あなた、いったい何をしようとしているの……?」


 ソフィーさんが困惑した表情を見せている。

 いいねー。余裕たっぷりだったソフィーさんにここまでの表情をさせるなんて。わたしもけっこう捨てたもんじゃないねーっと。


「やりたいことはショー以外に大きく分けて3つです。『サービスの質の向上』『設備の質の向上』『料理の質の向上』です」


 制服以外にも、ずっと考えていたアイディアを発表しーましょ♪

 具体的に言えばこう!


『サービスの質の向上』とは、制服の統一。ローラーシューズを使った料理のサーブ。チップ制の廃止。料理のサーブ時に都度テーブル会計(ただし、VIP席は除く)。調理のオートメーション化。料理提供時間の短縮。


『設備の質の向上』とは、VIPルーム、2階席にソファ席の設置。すべてのテーブル席のイスにもクッションを導入。お店の外にもテーブルを設置してオープンカフェを開設。その他できそうなことがあれば随時検討。


『料理の質の向上』とは、各種テイクアウト料理・ファストフードの提供。店頭でのドリンク等の販売。衛生面の向上。超高級料理の開発。その他検討中。


「今のところこんな感じのことを考えていまーす」


「少し多すぎて把握できなかったわ……」


 ソフィーさんが額に手を当てて、考え込んでしまう。


「あとで作戦は詳しく書き出してはおきますけど、そんなに難しく考えないでくださいよー。客層をだいたい3つに分けようと思っていて、その3つの面を全部とっていきたいなってだけですよー」


「客層? 3つ?」


「まずは本来の目的、このお店の既存顧客の超VIP層。貴族の中でも伯爵、もしくはそれ以上の方が集う会合などでもっと多く利用してもらうために、ソファ席や目新しい料理を提供します。高級感、そして話題性を重視して、貴族ネットワークの口コミで広がる仕掛けをしたいと考えています」


 ここが一番客単価が高い。けれど、どうやって協力者を作るかがカギを握るし、慎重に攻めていきたいところかな。そのために誰を狙い撃つかはこのあと相談していきたいです!


「次に中間層。貴族の中でも少し爵位の低い方、そして裕福な商人などを狙っていきたいと思っています。この方たちには安くておいしい料理、でも席やサービスの質の高さも楽しませて、平民たちが通うお店とは違う優越感を味わってもらいます。気軽に何度も足を運んでもらえるような仕掛けをしていきたいですね」


 大衆居酒屋とは違う大人のお店。でもサービスのわりに安くてうまい。みたいなイメージかなー。お酒の質とおつまみの種類の豊富さで攻めていく感じ。


「最後が平民層。ここはこのお店が一切触れてこなかった部分です。そこを一気に取っていこうと思います」


「だけどそれだと貴族の方たちに通っていただけなくなってしまうじゃなくて?」


「ソフィーさんの懸念を解消する方法は考えてあります。重要なのは基本的に龍神の館は、平民は気軽にお店に入れない価格設定にするということです」


 あくまでお店の中は高級店。安いと言っても質のわりに安く感じるという意味であって、けっして安売りするわけではない、席について食事ができるのは貴族か裕福な商人だけってこと。


「それでどうやって平民層をとっていくのかしら?」


 おお、前のめりになってきましたね。いいよいいよー。わたしのトーク術も洗練されてきましたね、と♪


「平民層獲得の柱は、テイクアウト料理の提供です。ファストフードという名前で販売しようと思いますが、店頭で注文すると出来合いの物がすぐに出てくる形式です。屋台のイメージに近いですね。手に持てる食べ物と飲み物を提供し、そのまま持ち帰ってもらうか、店先のテーブルに着いて、立食形式でお召し上がりいただく。こっちは昼間の時間帯がメインで考えています」


「なるほど……。昼間は店頭で平民相手に商売をし、夜は店舗で貴族相手に商売をする……天才かしら」


 ええ、ええ。天才……と言いたいところですが、まあ、前世の記憶をチョロチョロっとね。チートってやつです。ヘイヘイヘーイ!


「設備の仕掛けや新メニューの考案は任せておいてくださーい。なんとなく考えてあるので、調理スタッフを何人か貸してもらえれば指導しておきまーす」


 さあ、この店『龍神の館』で天下を取ってやるわ!

 国民の胃袋はわたしがつかむ!

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