第7話 アリシア、審査結果を発表する
「どのお兄さんもステキでした……」
と、わたしは審査員にあるまじき感想を述べてしまったわけだけど……。
「さすが私の天使ちゃんたち……かっこいいわ~♡」
ソフィーさんも同じくらいポンコツでしたとさ。どうするのこれ?
「最初の80番のお兄さんで決まりかなと思ったら、55番の人も21番の人も、みんなかっこよくわたしを助けるじゃないですかー。審査のハプニングが甘すぎたのかな……」
「違うわよ。私の天使ちゃんたちが優秀なのよ♪」
「そう、ですね。そうなんだと思います。ええ、完全にわたしの負けです」
ソフィーさんの審美眼が優れていた、つまりそういうことなんでしょう。
5人の中から誰かを選んだり、落としたりするのは無理! つまり――。
「全員合格ですね」
「そうなるわね。でもいけるのかしら?」
いけるとは、指導できるのかという意味だ。でも全員合格ならやるしかない、よね。
「ミィシェリア様のご神託によると、『難しいことを考えすぎるな。やれることをやりなさい』ということでしたので、最初のうちは基本の滑る・回る・飛ぶ。これだけで勝負したいと思います」
団体演技だとか、フォーメーションだとか、YouTubeだとかは忘れることにします!
「十分だと思うわ。さっそく5人を呼び戻して、説明お願いね♡」
「イエス、マム!」
すぐに隣で控えていた5人が応接室に入ってくる。それはそれは堂々とした態度。合否を伝えられるような緊張感はまるで感じられない。
なんか、こう、ソフィーさんの天使さんたちは、思っているよりも大化けするようなとんでもない人たちなのかもしれないね。豪胆というか、鉄のメンタルというか。尊敬しちゃうわ。
「先ほどはありがとうございました。みなさんのことを何度も試すようなマネをしてしまい、ごめんなさいでした」
まずは真摯に、深々と頭を下げる。
無言。5人は横一列に整列したまま、微動だにしない。
「姿勢を崩して良いわよん」
ソフィーさんのお許しを得て、休めのポーズ。両腕を後ろに回して組む。ずっと思ってたけど、休めのポーズってぜんぜん休んでないよね……。
「えっとー、これからわたしたちは特別チームです。しばらくの間、みなさんには給仕の仕事は離れてもらいます。そしてわたしの直接の指揮下に入ってもらって、ローラーシューズでのショーの準備をしてもらうことになります」
自分でそう言ってから、しまった、と思う。こんな小娘が指揮官だと嫌だって人もいるかもしれない。やりたくない人に無理やり教えるわけにもいかないし、ここから何人か残ってくれればなー。
「これはお店のためでもありますが、わたしの作ったローラーシューズの宣伝のためでもあります。なので、やりたくないと思う人がいれば、無理強いしたくはないので遠慮なく申し出てください」
誰も動かない。
「私からも重ねて。みんなのことはこのお店のスタッフとして雇っているから、この件は命令ではないのよ。拒否したからと言って評価を下げたりはしないわ。私がおもしろそうだと思ったから、アリシアの話に乗ってみた、それだけのことなのよ」
ソフィーさんからも念押しで選択権があることを伝えてもらった。これでどうなるか……。
「自分はいつもの仕事がありますので失礼いたします」
「自分も失礼します」
2人のお兄さんが背筋を伸ばし、そう宣言をした後、応接室を出ていった。
30番と55番のお兄さんか……残念。そういう人もいるかあ。
「他の子たちはやってくれるということでいいかしら?」
ソフィーさんが残った3人に意思確認を行ってくれる。
「はい。私はどんな仕事で誠心誠意対応させていただきます」
「自分はおもしろそうって思ったっす」
「素敵なお嬢様のもとで働ける栄誉に感謝します」
5番のお兄さんと目が合ってしまった。
わたしのことステキって言った? あれ? これってもしかして、わたしに気がある⁉ マジ⁉ きちゃった⁉ どうしようどうしよう! ミィちゃん、わたし王子様と出会っちゃったかも⁉
『ふぅ……アリシア、おちつきなさい。まだ目が合っただけです。相手は年上ですよ。焦らないように』
むぅ。わかってますよーだ。ちょっとテンションが上がっただけじゃないの! 何? ミィちゃん妬いてるの? 大丈夫よー。ミィちゃんは別腹だから♡
『デザートみたいな扱いをしないでください。ところで、ローラーシューズショーの話が進んでいるようで何よりです。また神殿でゆっくり話を聞かせてくださいね』
はーい。近いうちに行きますからねー。
ふぅー危ない。ついテンションが上がりすぎてしまったわ。
これからは指揮官と部下の関係。いくらでも言うことを聞かせてあんなことやこんなことをする機会はあるのよ。焦ってはダメよ、わたし。ぐへぐへへへ。
「あ、お兄さんたち。お近づきのしるしに、こちらをどうぞー♡」
栄養ドリンクですー。わたしの調合した特製のやつー♪
「ありがとうございます。お嬢様」
いやん。お嬢様だなんてー。成分をサービスしちゃお♡
「大変おいしゅうございます……えっ⁉」
80番のお兄さんのシャツがビリビリに破けてしまっていた。
あ、盛り過ぎちゃった。ピチピチの服を着ている人に注意しなきゃだったのに。てへ。
「アリシア、これはいったい?」
ソフィーさんが怪訝そうな顔をしつつ、お兄さんの腕の筋肉を堪能していた。なんてすばやい動き……すばやすぎて見逃すところだったわ。
「えっとー、ちょっと元気になる作用が入ったジュースでー。一時的に筋肉とか増えちゃう、みたいな? ワンサイズ大きいシャツを着ないと破れちゃうこともありますって伝えるの忘れててごめんなさい。わたし繕うのでその破れたシャツ脱いじゃってください!」
ついでに首回りと腕周りのサイズ変更もしておきますね。
あ、そうだ!
思い出したー!
「ソフィーさん。このお店の制服を作りませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます