第6話 アリシア、迫真の演技をする

「ふぅー、疲れましたねー」


 アイテム収納ボックスからもう1脚ソファをだして、わたしとソフィーさんはそれぞれ横になる。超ゼイタク! 悪魔的所業!


「少し休みましょう。100人を一気に選考するのは私でも疲れたわよ……」


 マッスルの塊のオークみたいなソフィーさんでも疲れるってことは……わたしは疲労でこのまま死んでしまうのでは? うーん、死ぬ前にちょっと回復薬飲んどこ……。ファイト一発! 効くぅ! 背中に翼を授かるね♪


「それで、どうでしたー? 気になる子はいましたかー?」


 ソファでダラダラしたまま、ソフィーさんに話しかけてみる。


「どの子も私の天使ちゃんよ♡ 誰を選んでも文句ないわ♡」


 ソフィーさんも寝ころんだまま。だけど選考用紙を凝視している。言葉の柔らかさとは裏腹に、その表情は真剣そのものだ。


「みんなを愛しているのはわかりましたよー。それで、気になる子はいましたか?」


「総合点が高い子をピックアップすると、4、5、21、24、30、55、78、80、92、93かしらね」


 わたしも選考用紙を眺めながら、ソフィーさんが言った番号に丸をつけていく。


「そうですねー。だけどちょっと多いな。……ここは思い切って、ルックスの項目は切って考えませんか? たぶん、最初からみんなイケメンなので、そこで選考しても仕方ない気がするんですよね」


 ルックスは全員合格前提。それとは違うポイントで選考したいかなって。


「そうしましょう。そうなると『スター性』『運動神経』『対応力』で見た時に上げていくとすると、5、21、30、55、80かしらね」


「なるほど、良いと思います。わたしも概ね一致してます。5人の中から3人を選ぶ。もう一度この5人を見てみましょうか」


 自分の中で何とか気合を入れて、ソファから起き上がる。

 もうひと踏ん張りしますかねー。


「1人ずつ別室に呼んで最終審査をしましょう」



* * *


「それでは最初の方どうぞー」


 と言いつつ、わたしが扉を開けて、応接室に案内する。

 まずは80番のお兄さんから。


「ようこそー。ささ、気を楽にしてくださいね。最後の面接的な? ちょっとお話を聞きたいなーってだけなので。こちらにどうぞー」


 和やかな雰囲気を演出しつつ、ソフィーさんの向かいのソファに案内する。

 ソフィーさんもくつろいだ様子を見せていて、わたしの用意したあらごしリンゴジュースを飲んだりなんかしている。


「お兄さんかっこいいね。筋肉もすごいし、普段何やってる人ー?」


 そう言いながら、無遠慮に手や足をベタベタと触っていく。

 もちろんこれも選考の1つだよ。わたしの趣味でやっているわけじゃないよ?


「はい。こちらで働かせていただいている以外だと、近くの牧場で酪農を手伝っています」


「すごーい。牛の乳しぼりしたりするのー? 見てみたーい!」


「ええ、まあ……。こちらにも牛乳を卸させていただいているんですよ」


「だからお料理がおいしいのねー。ここの料理がおいしいのはお兄さんのおかげなんだ!」


「肉団子のミルクスープはうちでも人気商品よ♡ 天使ちゃんたちがふ~ふ~してから食べさせてくれるサービス付き♡」


「いやーん。わたしもふーふーされたーい♡」


 味じゃなくてそっちのサービスで人気なんじゃないの? この店、もしかして料理の質はあんまりだったりするのかな。ちょっと既存メニューも試食させてもらったほうがいいね。そっちもなんか手を入れたほうが良さそうに感じてきたわ……。


「あ、お兄さんもこのリンゴジュースどうぞー」


 と言って、大きな瓶を傾けてコップにリンゴジュースを注ぐ。

 少し失敗した風を装って、まわりにこぼして見せる。とくにそれについてソフィーさんは触れない。


「はい、どうぞ。おいしいですよー」


「ありがとうございます。とてもおいしいですね。どこのリンゴだろう」


 コップに口をつけ、リンゴジュースの味を誉めてくる。

 と、懐から取り出した布巾で、さっとテーブルを拭いた。


 おお、やるね、80番のお兄さん。加点要素、と。


「これは2種類のリンゴをブレンドしていてー。甘さの後に酸っぱさが来るように調整してあるんですよー。えっと、このリンゴで――」


 ソファから立ち上がり、部屋の隅の木桶を指さす。


「そのまま食べてもとってもおいしいの。よいっしょ」


 木桶を抱えようとする。

 あきらかに誰が見ても子供が持ち上げるようなサイズではない。まあ、わたしは簡単に持ち上げられるけどね。……おい、ゴリラじゃないから! ちょっとLUK≪幸運≫値のボーナスでステータスが高いだけなんだからねっ!


「私が持ちます」


「助かりますー。ムキムキのお兄さん♡」


 80番のお兄さんが木桶を抱えたのを確認し、腹筋を一撫でしてソファに戻ろうとする。


「キャッ」


 絨毯に足を取られて転びそうになる。

 このままだと倒れちゃうよぉ。誰か助けてぇ。か弱い幼女が転んでケガしちゃいますよぉ。という迫真の演技!


「大丈夫ですか、お嬢様⁉」


 わたしは床に倒れこむことなく、イケメンのお兄さんの腕の中に抱かれていた。好き。じゃなくて合格♡


 かわりに無残にも転がるリンゴたち。

 ごめんねリンゴさんたち、これも審査の一つなの。傷ついてもあとでちゃんとすりおろしてジュースにしてあげるからね。そしてここの名物料理の1つに加えてもらおうね♪


 

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