第5話 アリシア、100人のイケメンと出会う

「ローラーシューズショーのメンバー選考会をはじめます。1組目の方たち、ローラーシューズは履けましたか?」


 1組目、5人のイケメンたちが横並びに整列する。

 思い思いのポーズで。


 そして、ソファにふんぞり返ったソフィーさんとわたし。

 偉そう? チッチッチ。選考委員様は偉いのだよ! たぶんソフィーさんは枕営業を……わたしは受け付けてませんよ⁉ 清らかな魂を持っていないとミィちゃんに嫌われちゃうもん! 裏金は受け付けても、体はノーサンキューよ!


「はーい、みなさん準備は良さそうですね。それでは5分間、シューズに慣れるために好きに動き回ってみてください。使い方は説明した通りですが、不明点があれば遠慮なく聞きに来てください。それによって合否に影響はありませんからねー」


 イケメンたちは小さくうなずき、それぞれ滑り出した。


「かわいいわ~、天使ちゃんたち♡」


 ソフィーさん、早くもスタンディングオベーション状態。拍手が止まらない。

 これは選考なので……ちゃんと選んでくださいね?

 選考基準は、『ルックス』『スター性』『運動神経』『対応力』の4つ、5段階評価、20点満点での採点ですからね?


 しかしまあ、こうしてみるとおもしろいね。

 ただグルグル滑っているだけの人、何かできないか立ち止まって考えている人、ひたすらわたしのほうを見てアピールしてくる人。……まさか惚れられたかな? なかなかイケメン……ナンバー3の人、ルックス4、と……ウィンク、はちょっとわざとらしいし、わたしとキャラがかぶるので、やっぱり3と。ショーだから、固定レスばかりしてると他のお客さんがおもしろくないからね。その辺りがわかってないと困るからマイナス評価。


 おお、ナンバー5の人、いいね。出で立ちが違う。指先、つま先まで見せる動きになっているね。


「ソフィーさん、あの人、5番の人どうです?」


 ソフィーさんに顔を寄せながら小声で話しかけてみる。


「ああ、彼ね。彼はいいわよ。ガーランドに出稼ぎに来ていたところをスカウトしたの。孤児でね、冒険者のパーティーに拾われてそのままそこで育ったらしいのよ」


「ほえー。つまりあの動きは戦闘訓練によるもの?」


「そうね。ちょっとした知り合いのパーティーで、剣術の手ほどきをしてほしいという依頼で見てあげた時に、うちで引き取ることにしたのよ」


 なんか複雑な話っぽい。

 ソフィーさんの過去の経歴が見え隠れするエピソードだねえ。剣術の手ほどきって、師範的な実力があるってことよね。


「なんで引き取ったんですか? イケメンだったから?」


「それはそうなんだけど、当時はアリシアくらいの年齢だったから、さすがにその時は私の守備範囲外よ♡」


「つまり今は……それは聞かないでおきます。彼に剣術の才能を見出したんですか?」


「まじめな話ね、彼には剣術の才能があったわ。でも、それと同時に、このままだと生き残れないということもわかってしまったのよ。だから違う道を進ませてあげたくなった、というところかしらね」


 ソフィーさんが遠い目でナンバー5の彼を見つめる。


「ソフィーさんにはそういうこともわかっちゃうんですね。実際彼はここにきて、今も生きてしあわせに暮らしてる」


「生きているのは確かね。しあわせかどうかは本人しかわからないものよ」


 たしかにそうだ。生きているだけでしあわせかどうかなんてわからない。わたしだって転生した今はとっても楽しいけど、前世はどうだったかって言われると……わからない。


「ね、ソフィーさん。わたしってどう見えてます?」


「アリシア? そうね、あなたは……殺しても死ななそう♡」


 頬に手を当てて複雑な表情を見せる。


「なんですー、それ? こんなにか弱い幼女を捕まえて言うセリフですかー?」


「どうかしらね。もしあなたがわたしの部下にいたら戦況は変わっていたかも……なんてね♡」


 戦況。

 いつかの戦いの話。

 わたしが戦場で戦う? ソフィーさんが部下にほしがるほどの何かを。まさかー。


「んー、わたしって冒険者に向いてると思います?」


「軍ではなく冒険者志望なのね。そうね~。冒険者といってもいろいろなタイプがいるでしょうから、一概には言えないけれど、現状を楽しめる人は、冒険者に向いていると思うわよ」


 現状を楽しむ、か。


 この人はどこまで見えているのだろう。

 わたしは死んで転生して、最近前世の記憶が戻って、ミィちゃんと出会って、親方たちと出会って、ソフィーさんとも出会って。

 

「わたし、今がとっても楽しいです!」


「それは良かったわ。これからもよろしくね♡」


「こちらこそよろしくお願いします! はーい、そろそろ時間です。一度こちらへ。自己紹介とアピールポイントをお聞きします」


 わたしの可能性は無限大。

 ソフィーさんの話を聞くと、冒険者も悪くないかなって思えてくるね。

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