第4話 アリシア、アイドルの選考委員になる
「というわけで、ローラーシューズショーに出てもらうアイドルメンバーを選考します!」
料理店『龍神の館』で働くホールスタッフの中から3人のメンバーを選抜しようと思います。
選考委員は、わたしとソフィーさん!
「いいわね。楽しそうじゃないの~♡」
ソフィーさんがノリノリだ。
お店のオーナーだし、従業員のことはよくわかっているはず。迷った時はお願いしますね。
「選考基準は、『ルックス』『スター性』『運動神経』『対応力』の4つで行きたいと思います。5段階評価でつけましょう」
「難しいわねぇ。私スタッフの天使ちゃんたちを採用する時は、最初に見た時ビビッときた子を採用することにしてるから、基準と言われてもよくわからないのよね……」
ソフィーさんが眉根を寄せる。
なるほど、ソフィー将軍は本能型なのね。
「その基準で大丈夫です! フィーリング大事! お客さんも素人ですから、初めて見た時に『おっ?』ってなる人を選びたいって意味なのです」
結局アイドルって理屈じゃないもんね。見たらわかるっていうか、誰にでもわかるほど輝いていないとダメっていうか。
「ところでスタッフさんたちは何人くらいいるんです? 10人? 20人?」
店の規模からして数人ってことはないと思うけど、あんまり多いと選考大変だなあ。
「100人よ」
はい?
「在籍している天使ちゃんたちはちょうど100人よ」
なぜそんなに誇らしげなんですか?
「えっと、この店の規模で? 席数100もないですよね?」
「そうね。ホールに20席。VIPルームが5つよ」
あー、VIPルームに専属のスタッフがいるのかあ。あとは調理のスタッフとか、そういうのを考えても100人は多いね。
「ホールはだいぶ広めですよね。ローラーシューズで各テーブルを回るには理想的な距離感です。だけどショーをするにはちょっと狭いかなあ」
ステージみたいなのを作れればいいんだけど、そうしちゃうと席数も減っちゃうしむずかしいところ。
「派手にいきましょ。ショーは毎晩1度。その時間帯は席数を半分に減らして、チャージ料をいただけばバンバンジーよ♡」
さすがやり手のオーナー! それならショー自体にお金を払ってもらわなくてもいいし、席が減ることでのプレミア感も出ていいかも!
「ホールの半分もスペースがあればやれることは多そうです! 良いと思います!」
「じゃ決まり♡ さっそく天使ちゃんたちの選考をしましょ。全員集めるわね♡」
* * *
1時間もしない間に、ホールに100人のスタッフが整列していた。
んー、このお店は制服みたいなのはないのね。赤いバンダナとエプロンが制服替わりってところかな?
「すごい! ホントにたくさんいる……でも……全員男性?」
「私の天使ちゃんたちよ♡」
ソフィーさんの笑顔には一点の曇りも見当たらない。
はい……。ですよね。知ってましたけど、趣味丸出しで料理店経営。すごいと思います。まる。
「みんなイケメンぞろいですごいな……。ガーランド中のイケメンをすべて集めてきたんですか?」
「まさか。周辺の街からもスカウトしてきてるわよん♡」
お見逸れしました。そこまでしているなら、このスタッフさんたちのクオリティは間違いなさそうね。将来のわたしのハーレム候補にも……ってまさか、ソフィーさん、すでにこの人たちを……考えるのは止そう。これはわたしが知っちゃいけないことなんだ。わたし子どもだからシラナクテイイ。
「おほん。すばらしいですね。さっそく選考していきましょう。そうですねー、5人ずつくらいローラーシューズを履いてもらって、滑ったりしながら自己紹介してもらいましょうか」
どんどん見ていかないといくらあっても時間がたりなそうだし。
「おっけ~♡ あなたたち、準備してちょうだい!」
ソフィーさんが手を叩きながら大声で呼びかける。
笑顔のイケメンたちが隊列を変え、1組5人ずつの列に並び直してくれた。
すっごい。教育が行き届いてる。戦闘訓練でもしてるの? 軍隊なの?
「もしかして、ソフィーさんって、元軍人だったりします?」
「あら、わかっちゃった? でももう昔のことよ。今はただの料理店のオーナー♡」
ソフィーさんはいたずらっぽく笑い、ウィンクしてくる。
もうこれ以上は聞いてくれるなって感じね。わかりました。その話はおもしろそうなので、追々聞き出しましょう。
* * *
「それじゃあ選考始めましょうか。あ、そうだ。ちょっと試作してみたイス使ってみてもらえませんか?」
アイテム収納ボックスから2人掛けのソファを取り出す。
「これはイスなの? 布が貼ってあるのかしら? でも布のわりに張りがあるわね」
「VIPルーム用にどうかなって思いましてー。これは布ではなくて、ミノタウロスの皮をなめして使っています。手触りがいいでしょう?」
ソフィーさんが皮の表面を撫でてうっとりした表情を見せる。
「いいわね~、この手触り。これはクセになりそう♡」
「どうぞ座ってみてください。包み込まれるような安心感がありますよー。それと、これは2人掛けなので、わたしも隣に失礼してー」
ソフィーさんの横に腰掛ける。
「ね、わかります? この距離感での接客。密着感。どうですか?」
VIPならではの接待……ふふふん♪
「さ、採用よ! これは間違いなく流行るわ! 在庫はあるのかしら⁉」
「ええ、それは努力します! まずは何脚必要ですか?」
「5……10脚! ぜひお願いしたいわ!」
ソフィーさん興奮しすぎー。唾飛んでるよー。
まあね、VIPルームでは長時間の接待やら談合やらがあるだろうからね。ふかふかのソファで、イケメンによる密着接待があればいろいろ捗りそうだよねー。ホントはかわいい女の子もいたほうが良いと思うよ? えー、わたし? わたしはちょっとおじさんの接待はしたくないかな。ごめんねー♪
「毎度あり~♪」
「他のお店にも卸してるのかしら?」
「いーえ、まだでーす。しばらくは予定もないので、ここの名物にしてください!」
「たすかるわ~♡」
持ちつ持たれつってね。
ローラーシューズの宣伝をしてもらう手土産みたいなものですよー。有名になりましょうね! そしてガッポガッポ稼いで……げへへへ♡
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