第3話 アリシア、ひさしぶりに礼拝する

「というわけなのよ! ねぇねぇ、ミィちゃん、わたしどうしたらいいのー⁉」


 今日はひさしぶりに神殿を訪れているのです。

 生ミィシェリア様の足に縋りついて弱音を吐いているところ。ぐっすん。


「ひさしぶりに礼拝に訪れたと思ったら……もう、足を舐めないでください」


 ミィちゃんペロペロ。

 女神の加護を直接手に入れるんじゃあ。


「そんなことをしても女神の加護は付与されませんから……」


 気持ち的にね? だいぶアガるよ? ミィちゃんもやってみなよ。


「どこの世界に自分の足を舐めてアガる女神がいますか……」


 今ならオンリーワン女神様になれる!


「やりません!」


「えー、保守的ー。そんなんじゃ新しい信徒を獲得できないよ? もっとエロをバラまきしないと次の総選挙に負けるよ?」


「女神に選挙はないので……」


「総選挙ないの⁉ 総選挙で選ばれた女神7じゃないの⁉」


「いいえ……」


「ミィちゃんって女神7の中で何位? もちろん1位だよね⁉ エロで釣ってるし!」


「女神に優劣はありませんから。それとわたしは断じてエロで釣ってなんかいません!」


「えー。世の中にはこーんな写真も出回ってたから、とうとうミィちゃんもエロエンサー始めたのかと思ったー」


 と、わたしはおもむろにインスタント写真をミィシェリア様の前に並べていく。その数100枚ほど。


「これは口元を手で隠してからの谷間のドアップでしょー。これはあらあら、お尻を突き出しちゃってーTバックの線が出るなんて相当エロいですよー。おーこれは肩ひもが外れて鎖骨が! ああっ、最後のやつはセルフ足ペロペロしてる!」


「これ……出所は絶対アリシアですよね……。しかも身に覚えがない写真ばかり。しかも足ペロペロは今作りましたね?」


「てへぺろ。足ペロだけに♡」


「全然うまくないですよ……。こんな捏造写真、世の中に流出させるのは絶対にダメですからね」


 ミィシェリア様が深いため息をつく。


「冗談よー。個人で楽しむだけだからセーフセーフ!」


「それもぜんぜんセーフではないのですが……。アリシアはイメージを念写することもできるようになったのですね。成長しましたね」


 自分の合成エロ写真を見せられても、やさしく笑いかけてくれるみぃちゃんマジ天使。いや、マジ女神!


「そうなんですよー。いろいろ作っていたら創作Lv2になったので、できることも増えた、みたいな?」


「くれぐれも目立たないように、これからもしっかりと研鑽していってくださいね」


 ミィシェリア様がわたしの頭に手を置いた。


「ありがとうございます。わたし、がんばります!」


 なんて温かい気持ち。

 礼拝も、やっぱり在宅よりも現場が一番だね。


「それではこれで。また祈りに来てくださいね」


「はーい。じゃあまたねー……って違うからっ! ぜんぜん相談終わってないからっ!」


 危ない!

 なんとなく良い雰囲気になって帰るところだったけど、とっても困ってるのよ、わたし!


「なんですか? まだ何かありますか?」


 ミィシェリア様が眉間にしわを寄せてこちらを見てくる。


「うわー、何その顔ー。露骨にめんどくさそうにするじゃーん!」


「めんどうだなんて思っていませんよ? 早く帰ってくれないかなと思っただけです」 


「それは同じ意味だよっ!」


「冗談です。話を聞きましょう」


 あれ? からかわれた? ま、いっか。相談相談、っと。


「ソフィーさんっていうメスのオークみたいな顔をした料理店のオーナーがいてね。親方に頼んでローラーシューズを売り込んだわけですよ。フロアーの従業員に履かせて貴族向けアピールしようかなって」


「それはおもしろそうな取り組みですね」


「でしょー。そしたら、ソフィーさんわりと乗り気になってくれて。むしろ乗り気になりすぎて……ローラーシューズショーをやりたいって言いだしたのよ」


「いいじゃないですか。ただ給仕するだけより注目を浴びますよ。お店にも人が集まるでしょうし、ローラーシューズの宣伝にもなりますし、良いことばかりなのでは? 何を悩んでいるのですか?」


「勢いでローラーシューズショーのほうのプロデュースもやりますって言っちゃったんだけど……」


 すごく困った。

 めちゃくちゃ困った。


「わたし、フィギュアスケートのショーのほうには詳しくないのー! しかも団体でのスケートショーって何⁉」


「それは……」


「競技のほうのフィギュアはけっこういけるの! でもグランプリの後のエキシビションくらいしかショーは見たことなくて……」


「想像で何とか……」


「こんなことなら前世で何とかリーディング☆スターズをちゃんと見ておくんだったわ!」


「それは残念ですね……」


「ミィちゃん、もうちょっとなんかアドバイスないの……? さっきから相槌てきとうじゃない? わたし、真剣なんだよ⁉」


 こう、なんか、10人ならこんな構成で演技をすると見栄えが良いですよーとか、20人ならこんな可能性がーとか、女神様なんだからそういうのちょうだい?


「さすがにそれは無茶ぶりが過ぎるのではないですか? 女神と言えど異世界のピンポイントなスポーツの知識を有しているわけではないのですよ」


「ケチー。だったらさー、なんか良い感じにYouTubeにつながる端末作ったら、ネットつなげてくれたりします?」


「前世の世界とは干渉できないというのは以前伝えましたよね」


「干渉じゃないじゃーん。YouTube見るだけじゃーん」


「視聴回数が増えたら、それも干渉の1つなので……」


「むぅ。ケチケチしてるなあ。あ、じゃあ、『創作』スキルで演技構成を創作ってできたり?」


 まさかの発想! わたしやっぱり天才!


「『創作』スキルはアリシアの頭の中で思い描けたものを形にするスキルですから、残念ながら思い描けていないものは作り出せませんよ」


 うわーん。完全に詰んだよー! これじゃあローラーシューズ売れなくなっちゃうよー!

 うう……もう床ゴロゴロしちゃう。ああ、大理石が冷たくて気持ちいい……。ゴロゴロゴロゴロ。


「アリシア。難しく考えすぎていませんか?」


「どういうこと、ですか?」


 ゴロゴロ。


「やれることからやりましょう。競技スケートに詳しいならまずはそこから。1人の演技を作り上げて、それを2人、3人と増やしていくのはどうですか?」


「それだとショーっぽくないような……」


「それはアリシアがそう思っているだけで、スケートを見たことがないこの世界の人たちから見たら、ローラーシューズで滑っているだけでとてもめずらしく魅力的なものに映ると思いますよ」


 ミィシェリア様は、わざわざ膝をついて、床を転がるわたしの頭を撫でてくれる。まるで赤ちゃんをあやすみたいにやさしく。温かい手。とっても落ち着く……。


「そっか。そうだよね……。理想を高く持ちすぎてたかも……やれることから1つずつ……」


「そうですよ。アリシアの人生はこれから始まるところですから、急ぎすぎなくていいのです」


「うん、そうだよね。まだ仮成人だし! わたし、がんばってみるね。ありがとう。ペロペロ」


「こら、どさくさに紛れて足を舐めるんじゃありません!」


 ミィシェリア様がわたしから逃げるように立ち上がる。

 スカートがふんわりとめくれ上がり……ほう、今日は水色ですか。あいかわらずTバック好きね♡


「もう! 相談が終わったなら帰りなさい!」


 顔は真っ赤なのに足は真っ白。そして下着は水色。


 うー、ミィちゃんかわゆす♡

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