第2話 アリシア、下ネタを華麗にかわす
「アリシアと申します。本日はお話を聞いてくださりありがとうございます」
「あらご丁寧にどうも。小さいのにえらいわね」
ソフィーさんが膝をかがめて目線を合わせてくる。
小さい、だと……。ソフィーさんの目線の先は……何だ、背か。それなら許すか……。これから大きくなりますからね!
「えーと、これがローラーシューズです。靴の裏にやわらかい車輪がついていて、魔力を通すと車輪が回る仕組みになっています」
一応靴の裏を見せて説明を入れてみる。ソフィーさんは不思議そうな顔で車輪を触ったり、靴の中を覗いたりしている。オークにはちょっと難しいかも……。
「説明だけだとわかりにくいと思いますので、実際に滑ってみますね」
小さく深呼吸をしてから、わたしはローラーシューズに魔力を通した。
少し部屋が狭いので速度は出せないけれど、小回りが利くところは見せられる、かな。
「こんな感じですー。イメージを魔力に乗せて滑るので、歩く時と同じように障害物があれば避ければいいし、止まりたければ止まればいいって感じです」
小さな部屋を一周し、バックステップや軽くスピンなども見せつつ、ソフィーさん前で止まる。
「どうでしたか?」
「ステキじゃな~い! とってもエレガントよ!」
ソフィーさんの目が輝いていた。かなり気にいってくれたっぽい? もしかして話のわかる人かな?
「私も滑ってみたいわ。貸してくれないかしら?」
「もちろんです。従業員の方に履いてもらおうと思って持ってきていますから、予備はたくさんあります」
そう言ってアイテム収納ボックスから何足かローラーシューズを取り出す。
「サイズはどれが合いそうでしょうかね。いくつか履いてみてください」
「あら~。履き心地もいいのね。革製? ところどころ布?」
「そうですー。木靴は長時間労働には向いていませんから、クッション材を入れたり、靴自体も改良をしています」
そこは前世の記憶を使ってスニーカー風の履き心地を再現してみたよー。こんなに食いついてもらえるなら、ローラーついてなくてもスニーカーとして売れるかも? そっちの展開もちょっと検討しておかなきゃ!
「ソフィーさんだとこのサイズですね。あとは靴紐を縛って足にフィットさせていきます」
「縛る⁉ 縛るの⁉ やだもう~、子どもがそんなことしちゃダメよ~。まだ早いわ♡」
「……えっと?」
なんのことですかー。小首傾げてニッコリ。
「あらやだ。靴ね。靴のことよね! 私ったらてっきり♡」
このモンスター、顔が真っ赤になってるけど何を言ってるんだ……。いや、親方もモジモジしてるけど……まさか2人ってホントにそういう関係なの⁉ くわしく……は絶対聞きたくない! 想像もさせないで!
「はい、準備できましたよー。魔力を靴に込めるイメージを。あとは最初の1歩、滑らすように足を出したら、あとはイメージコントロールで進んでみてください。足は動かさなくても車輪が滑りますからね」
「やってみるわね。イメージ……あら、簡単♡ すごいわ、勝手に滑っていく♡」
「ああ、最初はあんまりスピード出さないで! 部屋も狭いので、ぶつかりますよ!」
親方と違って、ソフィーさんはいきなり大胆に滑り出している。魔力の使い方もうまいね。
「ちょっと外の廊下を滑ってみるわね~」
そう言い残し、ソフィーさんが部屋を飛び出していく。
「ああ! 待ってくださいー」
わたしと親方もローラーシューズで滑りながら追いかける。すごい行動力! 七色の髪のオークって異名(わたし命名)は伊達じゃないかあ。
「どうですかー? ローラーシューズ気に入ってもらえましたか?」
わたしはすぐに追いついてソフィーさんの前をバックスケーティングで滑る。わたしのやつだけ試作品だし、リミッター解除されてるから、速度も性能も段違いなのだ。初号機が1番強いのは世の常なのだよ!
「これで配膳するのよね? いいじゃないの~。でもそれだけじゃちょっと物足りないわ」
ソフィーさんがピタリと止まる。
「と言いますと?」
合わせてわたしも止まる。
「ローラーシューズショーよ!」
ソフィーさんがつま先立ちになり、その場でスピンし始める。やるね。ショーかあ。
「うまいうまい! なるほど、そういうことですか!」
さすが料理店のオーナー! それはわたしも思いつかなかったよ。ショービジネスかあ。
「アリシアといったかしら。あなた、そっちの指導もできるかしら?」
「そう、ですね。最初数人からならなんとか。団体演技は構成考えたりしないといけませんし、少し考える時間がほしいです」
「いいわ。まずは筋が良さそうな子を数人ピックアップして、集中的に指導してちょうだい……筋って言ってもそっちの指導はしなくていいわよん♡」
だからそっちってなによ! 幼女にど下ネタぶつけてくるのやめてよね! 反応したらわたしの好感度ダダ下がりするでしょ! こっちは好感度とピュアさを前面に出して商売してるのよ!
「おまえら速すぎるぞ……」
息を切らした親方が今頃追いついてきた。
親方、魔力切れ早すぎませんか? もっと鍛えて! まっずい薬草飲ませるよ!?
「しばらく昼間は付きっきり従業員の方を指導する感じになりそうですね」
「ええ、そうしてちょうだい。アリシアの部屋も用意しておくから安心なさい」
わたしとソフィーさんはがっちりと握手した。
力強い……。ただの料理店のオーナーじゃないな、このモンスター。
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