第3話 アリシア、やり過ぎたのをごまかす
「閣下。コートの修繕できましたよー」
馬車の荷台を下りつつ、閣下に声をかける。その声に反応し、閣下が木の陰からこちらに向かってくる。
「なんと手際のよい! して、繕いは成功したのか⁉」
「はい、こちらに。欠損部分はスキルで補っておきましたので、一応デザインに間違いがないかなど、ご確認いただきたいです」
わたしは恭しく頭を下げつつコートを差し出した。
まあ、自信あるけどね。ふふん♪
「こ、これは……」
そうつぶやいたまま、閣下がコートを手にしてかたまってしまった。
あれ、なんか間違った⁉
「何か問題がございましたでしょーか?」
「コートが新品……いや、新品以上に上等な……これはいったいどういうことなのか……」
「あ、それはその……材料の欠損部分を補う必要がございまして……。裏地やら何やらをちょいちょいと……そう、すべて、女神ミィシェリア様の加護による『裁縫』スキルの効果です!」
それで押し切る!
もう細かいことはいいじゃん、何とかなってるでしょ⁉
「しかし……この金糸、銀糸の輝き。王宮でも目にしたことはない……」
再構成した時、金の含有量とか間違っちゃったかな?
まあ、その辺に落ちてた石ころから適当に抽出した金だし、元手かかってないし、細かいことは気にしなーい!
「閣下、そんなことよりもお急ぎなのでは? 刺繍に問題がないのでしたら、それを着て急ぎ式典の場へ」
「おお、そうであったな! 非常に助かった。シルバ村のアリシア。礼は後日必ず!」
閣下がわたしに向かって一礼し、馬車へと飛び乗る。
「旦那様……馬が……」
セルフィおねえさんが泣きそうな声を上げる。心なしか胸の張りも弱々しい気がする……。
見れば馬はへたり込んだまま。息がすごく荒い。さっきより状態が悪くなっていそう。どう見ても馬車を引けるような状態じゃないなあ。
「せっかくコートを直してもらったというのに、馬がこれでは間に合いそうもない……」
閣下ががっくりと肩を落としてしまった。なで肩になりすぎて、ちょっとコートがずり落ちていた。
うーん。せっかくコート直したのになあ。でも諦めるのは早いよ。もうちょっとだけがんばろう?
「式典の時間までまだ半時あるのではないですか? 歩いていけば何とかなる時間ですよ」
馬と馬車はこの場に置いていくことになるけれど、それよりも式典に出るほうが大事ですよね?
「旦那様は胸がお悪いのです。半時も歩くことは……」
おっと、それは困った。
歩けないから絶対馬車が必要なんだね……。
えーい、乗り掛かった舟だ!
「なるほど……。それもわたしがなんとか……しましょう!」
もうここまで来たら最後まで!
無事式典に出てもらわないとすっきりしないもんね。
「そうは言ってもだな……。馬が走らんことには……今から街に行っても馬車を呼んできたらさすがに間に合わんだろう」
それはそう。
さすがに往復している時間はない。
じゃあ心臓を治す……のはたぶんまだわたしには無理かな。もう少し構造把握のレベルを上げれば人体構造の把握はできそうだけど、今はごめん。さすがに自信ない。失敗したらシャレにならないし。
そうなるとやっぱり、馬に走ってもらうしかない。んー、とりあえず馬の状態を見てみようかな。何かできるかもしれないし。
「わたし、村では家畜のお世話もしておりますから、まずは状態を診てみますね」
という自分でもびっくりな大ぼらを吹きつつ、馬の様子を見てみる。馬について知っていることなんて言ったら、前世で小さい頃にポニーって小さな馬に乗った記憶くらいかな。うん? ロクなもんじゃないよ。ボクが背中に乗った瞬間に馬が暴れてそのまま地面に落ちて、うんちに顔から突っ込んだ記憶だよ? 馬キライ。
スキル:構造把握!
あちゃー、なるほどね。魔物から毒を受けちゃってるか……。思ったよりだいぶ深刻。ぶっちゃけ瀕死だわ。よくここまで走ってきたね……。
スキル:創作!
近くの草を集めてーと、この毒消しと体力回復の注射をお馬さんにこっそりと。
よーし、これで命はとりとめた。
見る見る血色良くなっちゃってー。効果あって良かったよ。
きゃっきゃっ、ぺろぺろしないでー。もう、くすぐったいわ。
意外と馬もかわいいね。
はいはい、でも今すぐ走れる状態じゃないのはわかってるから、無理するんじゃないよ?
ほら、無理して立ち上がらないの! どぅどぅ、座りなさい。
んー、どうしようかな……。
このままおいていけないし。でも、いますぐこの馬が走るのはちょっと無理。
となると、馬以外の手段で閣下を運ぶ……わたしが担ぐ? 筋力的にはいけそうだけど、目立ちそうだしなあ。
やっぱり馬車に乗ってもらったほうが無難。
馬以外が馬車を引いて走る。これだわ!
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