第2話 アリシア、女神の加護を受ける
「その破れたコート。わたし直せますよ」
ちょっと破れた程度ならまあ、創作スキルでちょちょいとね。
「いやしかし……魔物から逃げる折にどこぞに引っかかけてしまってな……。破れただけではなく、この通りなのだ……」
閣下が青いコートを脱いでわたしに見せてくる。
「これはなかなか派手に破きましたね。しかも大きな穴が開いてるー」
あちゃー。引っかけた時に割けただけじゃなくて一部欠損しちゃってるね。だけど、めちゃくちゃ凝った刺繍が施されているわけじゃないし問題なし!
「直せますよ」
「そんな、まさか……」
バカなことを言うな、と言ったところかな? 驚きつつも奇異の目で見られている感じだ。こんな子供が何を言い出すんだと思ってるでしょー。
「ええ。わたし、この度仮成人となりまして。女神様よりギフトスキルをいただいております。もともと『裁縫』は日常的に教育されておりましたので、この程度の繕いものであればすぐにでも」
ということにしておこう。
さすがにレア度Sの『創作』スキルで作り直しますとは絶対に言えないからね。
「『裁縫』のスキル持ちか。それは心強い。さっそくコートを持って街に――」
「この場で修復可能ですよ」
「バカなっ! 設備も材料もないこの場で、だと⁉」
とうとうバカなって言っちゃったよ。マジウケるー。まあ、そこは深く考えなくてもいいじゃないのよ。緊急事態なんでしょ? おじさんちょっと理屈っぽいよ?
「少し馬車の荷台をお借りしますね。集中して対応しますので、できれば覗かないでいただけますと」
まるでケンファーの隠れ宿ってところね。前世風に言うと鶴の恩返しってやつかな?
『創作』スキルの発動中は見られたくないもんね。見ただけでいきなりレアスキルだってバレることはないとは思うけれど、念には念を、ね。ミィちゃんの言いつけ通り、ひっそり生きないといけないし?
「お、おう。わかった……アリシアにすべてお任せしよう。セルフィも荷台には近寄らないように」
「承知しております」
うむ。セルフィおば……おねえさん、大変けっこうな巨乳なのに聞き分けが良くて助かりますわ。デスノートから名前を消しておきますね。
「では、コートをこちらへ。閣下たちはそちらの木陰でお休みになっていてください」
閣下からコートを受け取ってから、荷台へ登る。
さて、コートを直すのは簡単なんだけど、念には念を入れておきたいかな。
(もしもし? ミィちゃん。ふっふー♪ 元気してる? わたしがいなくて淋しい?)
カバンから羽根を取り出して、ミィちゃんに話しかけてみる。
『アリシア……あなた神殿を出てからまだ半日も経っていませんよ……なんですか?』
えっとね。
ちょっとミィちゃんの信徒として、困っている人でも助けようかなーって思ってて。
『それはとても良い心がけですね』
うんうん。洗礼式を受けてわたしも心が清らかになったのだよ。わっはっは。
『その報告をわざわざ? とてもえらいですよ。ですが私は次の洗礼者の相手をしていて忙しい身なのですよ』
報告もそうなんだけど、ちょっと手伝ってほしいなーって。
『手伝いですか? なんでしょうか?』
創作のスキルを使いたいんだよね。この馬車の周りに結界とかかけられない? 依頼者の方たちは、一応馬車から離れてはもらってるけど、万が一ってこともあるから。
『結界はさすがに……。ですが、アリシアに女神の加護を授けます。ブレッシング』
体がほんわりと温かくなるのを感じる。
ミィちゃんありがとう! 愛してる♡
『特別ですからね。あまり頻繁に呼び出さないでください』
素直じゃないんだからー。わたしたち特別な関係でしょ♡
また連絡するね、バイバーイ。
「さーて、ブレッシングももらってさらに幸運値をあげたところで、サクサクッとやっちゃいますかね」
スキル:構造把握!
なになに、絹、金、銀、オオカミの毛皮。まあ素材は単純ね。刺繍の欠損部分は、たぶんーこんな感じ。葉っぱのマークは家紋かな? 複雑な模様じゃないから再現可能だと思うけど、細部が違ったらごめんってことで。
残っているコートから素材を拝借して、それを複製することでできるだけMPを浮かそう。
うん、大丈夫そう。
スキル:創作!
はいはい。1度すべての糸をばらしてー、把握した設計通りに再構成してー。ちょっと足りない素材は……その辺に落ちてる石から加工できないかなあ。
スキル:構造把握!
お、ラッキー!
街道に敷き詰められてる石には微量の金が含まれてるみたい! 実は豪華な道だったんだなあ。分解して取り出しちゃおう。
スキル:創作!
金の成分だけ取り出して加工して糸にする。うん、良い感じ。
さすがに銀は含まれてないかあ。しかたない。MPを犠牲にして元の銀糸を複製して創ろう。
よし、完璧。ピッカピカーのコートの出来上がり!
サイズも元通りにできたよね♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます