第二章 アリシアと工房 編

第1話 アリシア、トラブルに巻き込まれる

「フハハハハ。わたしは仮成人様だぞー!」


 街を出て家に帰る途中。街道に敷かれた砂利道を歩きながら、ちょっと叫んでみたりした。もちろん、周りに誰もいないか確認したけどね。

 やあやあみんな、アリシア様がご帰宅なさるぞよ!


 むむ? この草は復活草かな……。

 

 スキル:構造把握!


 なんだ、ただの雑草か。あ、でもこれは薬草だ! こっちは毒消しに使えそう。ほかにもいろいろ使えそうな草があるから集めておこう。お? もしかしてこの光る石コロはオリハルコン……じゃなくてただの花崗岩か……。


 うんうん。仮成人ともなると、見える景色が違ってくるね。

 わたしにわからないことなど何もないのだよ!


 ミィシェリア様にいただいたスキルは『交渉Lv1』『構造把握Lv2』『創作Lv1』の3つ。それとアイテム収納ボックス付きステキなショルダーバッグ。さらにさらに、ミィちゃんの羽根!

 あとはー、勢いで作ったインスタントカメラとミィちゃんのちょっとエロい写真もあるか。もう何枚か撮っておけば良かったなー。今度こっそり撮ろう。


 んー、これを使って何しようかなー。

 パストルラン王国って、前世の文明基準で言うとかなり遅れているっていうか、戦前くらいだと思うんだよね。特殊なスキルや魔法があったり、人間以外の種族もいたりするけど、カメラみたいな電子機器はぜんぜんない。手動の機械はちらほらあるけどー、自動の機械はまったくないから、電子機器どころか科学や数学もまだまだって感じ?

 たぶんそっちの知識を活かして発明みたいなことをしちゃうと、目立ちすぎてやばいんだろうなってことはわかる。目立たず楽してお金稼ぐには何が良いかなー。



 ん、おや? あれはなんだろか?


 街道の先で何やら声が聞こえてくる。

 時々叫び声というか、怒っているというより嘆いているというような。うーん、どっちにしてもトラブルの臭い。事情はわからないけど。


 正直関わりたくないなあ。

 でもこの街道はしばらくずっとまっすぐな一本道なんだよね……。うまいこと愛想笑いで通り抜けられるかな。子供だし、なんとかなるかな?



「だから事前にチェックしおいてくれと頼んでおいただろう……」


「いいえ、旦那様。わたくしはお言いつけ通り、積み荷のリストを3度確認いたしました。間違いございません」


「そうは言ってもだな。ないものはないんだ……。不測の事態に備えての予備の衣装だったんだが……」


「わたくしは確かに積みました。おそらく先ほど魔物から逃げた時に落としてしまったのではないかと存じます」


「ああ、あの時か……しかしあれはなんだ? あんな魔物は初めて見たが……」


「ひどく面妖な……その、異様に膨らんだ胸部……あれは本当に魔物だったのでしょうか」


「冒険者ギルドに報告はするとして……このままではそれすら叶わぬ。……困ったことになったな」


「大変困りましたね。夕刻までに街に着き、破れてしまった外套を仕立て直すのはおそらく難しゅうございます……」


「しかしこのまま式典に出るわけには……」


 

 うわー、めっちゃ揉めてるー。

 身なりからして、どこか遠方に領地を構える貴族様ってところかな。

 よく見ると、馬車の荷台が泥だらけだし、馬も疲れ切ってるみたい。強力な魔物でも出たのかな?

 だけどさー、付き添ってるのが使用人の30代くらいのおばさ……おねえさん1人だけって……。普通、旅には護衛が必要でしょー。魔物だけじゃなくて盗賊に襲われるかもしれないし。この辺りは村が多いから大丈夫だけど、村のちょっと先の森から奥はわたしたち地元民でも絶対近寄らないからね……。

 まあ、そこらへんもなんか事情がありそうな雰囲気だけど。もしかして不倫旅行かな?


 どっちにしてもトラブルには関わらないでおこう。

 何食わぬ顔でそっと横を通り抜けて……。そーっとね。


 スキル:ハインディング!

 って、わたしそんなスキル持ってなかったわ。


「もし、そこのお嬢さん。この辺りの子かな?」


 うわー、話しかけられたー。だるぅぅぅぅぅ。


「こんにちは。閣下。わたしはここから2つ先にあるシルバ村のアリシアと申します」


 ダルダルのダルな気持ちなんて一切見せず、わたしはスカートの端を摘まんで挨拶をする。ん、これで合ってたっけ……。ママに習った通り、だよね? 貴族様に無礼を働いて打ち首にはなりたくないもんね。もしかしてギロチン? この国の拷問方法よく知らないな。


「そうか。私は……おほん。ほんの少し遠くから遊びに来た名もなき年寄りだが、少し困っていてね。街まではあとどれくらいの距離だろうか」


 名乗りかけてやめた?

 うん、名乗れない事情でもあるのかな。


「はい。大人の足ですと、半時ほどで街の入り口まで着くかと」


 わたしは子供の足でかれこれ1時間くらい歩いてるけどね! 早く大人になりたーい。まあ、村と街の往復は毎日のことなので別に普通だけどー。


「ありがとう。おーい、セルフィ。すまないが、急ぎ仕立て屋を探してなんとか替えのコートを用意しておいてくれまいか」


「かしこまりました、旦那様。しかしここは……」


「馬が動かないんだ。私はここで待つさ。仕方がないだろう」


「迎えの馬車の手配もいたします。式典までにはなんとか……」


 セルフィと呼ばれたおば……おねえさんが、スカートの裾を縛り、今にも走り出そうとしていた。

 え、ダッシュするの? スカートまくって? ホントに緊急事態っぽい? えー、さすがに関わっちゃったからには見過ごせないよ……。


「えっと、閣下。何かお困りのようですね。わたしでよければお手伝いいたします。よろしければご事情をお聞かせくださいませんか」


 さすがにスカートまくって巨乳をぶるんぶるん振るわせながら走っていくおねえさんを放っておくわけには……。わたしも仮成人だし、大人の仲間入りね! ここはわたしがぶるんぶるん……くっ、10年後に待ってろよ!


「それは非常に助かる……。実は――」



* * *


「なるほど。ご事情はわかりました」


 大切な式典に出席するために、遠路はるばるやってきたんだけど、道中おかしな魔物に襲われてしまった。逃げる時にどこかに引っ掛けたかなにかで、閣下のコートが破けてしまった。しかも馬車の荷物も落としてしまったらしく、予備の服もない。大至急街に行って、式典に間に合うようにコートを新調したいから街まで案内してほしい。はい、ここまでのあらすじでした。


「私たちはこの辺りの土地勘がなくてな。可能であれば、え~」


「アリシアでございます」


「アリシア。どうかセルフィを街の仕立て屋のところまで案内してはもらえないだろうか」


 そんな簡単なことなら、貴族様に頭を下げられてまでするようなことでは。でも、式典まで時間がないからなりふり構っていられないってことよね。

 転移門とか出して、街までワープさせてあげられれば解決なんだろうけど、わたしにそんなチートスキルはないしなあ。


 良い人そうだし、わたしにできることで一肌脱ぎますかー。


「その破れたコート。わたし直せますよ」


 直しちゃったほうが、新しいコートを仕立てるよりも早いし確実よね。

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