第17話 アリシア、調子に乗る

 さて、誰も見ていませんね、と。

 材料がすべてそろっていたら、ホントに何もやることがないんだけどね。


 んー、見本通り作る、かあ。

 それだけだとちょっとつまらないよね。せっかくだから何種類か作っておこうかなー。

 でもあんまり露骨にやると鼻につくかな。幽霊先輩がキレて暴れたら……まあ平気か。剣技のスキルを持ってたりしないよね、さすがに。持ってたら冒険者やってるだろうし。転生者でもなければわたしのほうが強いはず⁉ ふぃー、万能感はんぱないなー♪

 この高ぶる感謝の気持ち、伝えたい。

 ミィちゃんにお祈りしよう。


(もしもしミィちゃん? わたしを最強にしてくれてありがとう♪)


『アリシア……それは礼拝とは少し違うのではないでしょうか……』


 そう? 細かいこと気にしないでー♪

 幽霊先輩がキレて殴りかかってきても、わからせられるってステキだなーって思ったの。職人としてのプライドも、小さな女の子に負けたっていう男としてのプライドも折れるって超ステキ!


『まだ殴りかかられたわけでもないのに……とても歪んでますね……。あなたの将来がとても心配です』


 スキルでも力でも勝てるのよ? 心にゆとりが生まれて世界平和だって願えちゃう。


『魔王を倒したいと言っていたアリシアが世界平和ですか』


 魔王を倒すなんて野蛮なことしないよぉ。一撫でして部下にできそうだもん。


『もし魔王がいたら、さすがに怒ると思いますよ』


 そんなまさかー。ミィちゃんじゃあるまいし! 仮にも魔族の王様でしょ? 王様が幼女に部下にされたくらいでキレたりしなくない?


『魔族の王様と言えど、さすがにそれは怒ってもいいのではないかと思います。ですが、女神はそんなことでは怒ったりしませんよ』


 魔王に会った時に試してみればわかるかなー。


『万能感を持つのは良いことですが、自信過剰なのは少し困りものです。謙虚に、静かに暮らすのですよ。それではまた』


 はーい。気をつけまーす。反省してまーす。

 ミィちゃんは心配性だなあ。王様を部下にしようなんてちょっとしたジョークですよー。王様って魔剣持ってたりするんでしょー。さすがに勝てないよね。……わたしも魔剣を作ればワンチャン? 一目見せてもらえればいける? たぶん?



 あ、やばい。

 ぜんぜん関係ないことに時間かけすぎちゃったかな。

 早いところあじさいの刺繍をもっていかなきゃ。


 えっと、もうめんどうだし2種類でいっか。

 幽霊先輩の見本にそっくりマネたやつとー、わたしなりにていねいに作り直したやつ。

 あとはうん、お遊びで! 親方気づくかな?



「お待たせしましたー。刺繍、完成しましたよー」


 個室から出て、工房へと戻る。

 あれ? みんなどうしたの? なにに驚いてるのかな? 幽霊でも出た? それは元からそこにいるじゃーん。


「アリシア、早いな……。裁縫のスキルってのはそんなに早いもんなのか」


 親方がびっくりしすぎてイスから転げ落ちていた。

 え、そっち? ていうか、お笑い芸人じゃないんだからそんなベタなリアクション取らないでよね。こっちの世界でもそういうリアクションって流行ってる?


「できましたよー。はい、これでどうでしょうか」


 まずは見本通りの刺繍を親方に手渡す。

 ちゃんと再現しましたよー。……失敗して糸をつないだらしきところもね。


「おまえさん、これは本気かい?」


「親方が見本通り作れっておっしゃったので、見本通りに作りましたけど、ダメ……でしたか? エヘヘ……ンッ♡」


 小首傾げー。さらにとどめのウィンク♪

 わたしかわいいver.2♡


「わかっていてやってるってぇことか……。おう、ドレフィン、見ろ」


 親方がわたしの創った刺繍を幽霊先輩に手渡す。

 見る見る幽霊先輩の顔色が幽霊みたいに真っ白になっていく。あ、そろそろお墓に帰る時間ですかね?


「あ、これも一応作ってみました。ホントの見本通りはこれかなーって」


 わたしなりにアレンジしたバージョン!

 どう、かな? キュピルルーン☆ まつげバサバサver.3!


「こいつは……」


 あれ? 親方が刺繍を見つめたまま固まってしまったよ。今度はイスから転げ落ちないのね。そこまでのインパクトはなかったかー。まつげは不評、と。


「ドレフィン」


 またもや幽霊先輩にわたしの刺繍を。

 いや、顔色が白から青に変わっていってますけど、もうHPマイナスになってない? 次回、ドレフィン死すなの?


「親方……お暇をチョウダイシタク」


 ちょっと⁉ もしかして、先輩ちょっと泣いてる? 幼女に負けて泣いてるの? え、マジ泣き⁉ ウソでしょ⁉


「待て、ドレフィン。……お前は優秀だ。しっかり成長しているしよくやっている。安心しろ。その、なんだ……アリシアが特別なんだ。ミィシェリア様のご紹介というのはそういうことだ……」


 いや、親方もちょっと泣いてるし……わたし、やっちゃいました?

 ちょっと2人の反応が予想外すぎて困惑してます。


 わたしの予想はこんな感じだったのにな……。


「昨日今日入ってきた小娘が何を生意気言ってんだ~! こんなもの、こうしてこうだ~! ビリビリビリ!」「あーれー、やめてください兄弟子様ー! わたし、兄弟子様も言うことを何でも聞きますからー」「なに~? なんでもだと~? だったらエッチなお願い聞いてもらおうかな~げっへっへ」「あれー、そんなわたしまだ子供ですよー、せめて大人になってからにぃ」「うるせ~、おれは幼女にしか欲情しない変態なんだ~。おとなしくしろ~」「やめてくださいー。かくなる上は幼女パーンチ!」「ぐは~やられた~。もうしません、アリシア様許してくださいー」「わかればよいのだ、わかればね。助さん格さん参りましょうかー」


 って感じにこの工房を制圧していくはずじゃなかったっけ? 静かに泣いて工房から出ていこうとするのは違わない……?


「親方……オレ悔しいですっ!」


 おー幽霊先輩ってば、良い表情するじゃーん。

 やっぱりこの世界でもお笑い芸人って流行ってるんだね♪

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