第14話 アリシア、サプライズプレゼントをする

 スレッドリー&ラッシュと別れた後、わたしは一目散にお目当ての店に向かう。今度こそ邪魔されないようにね!


「おじさーん。例のモノ、入荷してる?」


 すでに顔なじみの店主のおじさん。この人は良いハゲだよ。


「おう、アリシア。いらっしゃい。今の季節は大量にあるぞ。保管しておくのが大変で、そろそろ処分しようかと思ってたところだったよ」


「おっと危ない! あるだけ買い取りたいんだけど、どれくらいあるかなー? お金足りるかなー?」


「後ろの倉庫に麻袋5つ分だ。これ以上は場所を取っちまっておいておけねえ。持って行ってくれるだけでありがてえから安くしておくよ」


 店主のおじさんの指さした先には、わたしの身長くらいありそうな麻袋が5つ、積まれていた。これだけあれば十分ね。商売にしようと思ったら定期的にほしいところだけど、さすがにあんまり大規模に集めると注目されかねないからねぇ。


「しっかし、ガチョウの羽根なんて集めて何に使うんだ? ガチョウの羽根だと矢羽根にはならんだろう。ふにゃふにゃしていてただのゴミにしか見えない……。ま、こっちとしては引き取ってくれるだけありがてえけどな」


「えへへへ。秘密ですー。工房で新製品を考えてて、それにちょっとガチョウの羽根が使えるかなーって」


「研究熱心なのはえらいな。いくらでも用意しておくから、遠慮なく持って行ってくれや」


 おじさんがつるつるの頭をタオルで拭う。


 助かるー。今度かつらでも作ってあげようかな。

 わたしはお礼を言ってから銀貨5枚を渡すと、次々と麻袋をアイテム収納ボックスに詰め込んでいく。


 これだけ大量の羽根がほとんどタダ同然で手に入るなんて夢みたい。

 これから冬に向かっていくし、羽毛を使ってあれこれ防寒具を作るぞー。

 

 まずはスーズさんの羽毛布団を作っちゃおう♪

 マットレス部分の材料になりそうなものはないかなあ。



* * *


 うーん。金属類の掘り出し物はなし。今日も収穫なしかあ。

 鉱物を扱っている店はほとんどなし。探鉱関連のコネも作れそうにない……。

 なかなか厳しいなあ。

 金属類の調達と石油の調達ができないと、前世の知識を生かしたあれこれの生産品の量産化はむずかしいね……。

 MP限界まで使ってようやく1個作れるかどうかのものは、さすがに商業ルートには乗せづらい。材料も言えない製品だと、これどうやって作ったのってなっちゃうし。


 しかたない、暗くなる前に帰ろう。

 帰ってベッド作らないといけないし。


 ふー、ローラーシューズ便利ー。作って良かったわー。



* * *


「奥様! ただいま戻りました!」


 戻ってみると、あいかわらず工房にはスーズさん1人。

 親方はお店で、他の弟子たちはほっつき歩いているのかな。まあ、市場をうろうろしてたわたしが言えたことじゃないけどね。


「お帰り、アリシア。市場は楽しかったかい?」


「ええ、おかげさまで。友だちもできましたし、ほしかったものも手に入れてきましたよ」


「お友だちね。今度遊びに連れていらっしゃいな。ここがあなたの家なんだから遠慮しなくていいのよ」


 スーズさんが微笑む。

 本当にいいご夫婦だよね。ミィシェリア様が自信を持ってお勧めしてくれるわけだよ。間違いなく良い人たち。産まれる子たちもしあわせよね。


「遠くから遊びに来ている人だったので、またいつか会えるかなあ。そうそう、奥様にお土産を買ってきたんですよ!」


「あら、ありがとう。なにかしら?」


「えっと、ナイショです! ちょっと準備が必要で……あの、奥様の寝室にちょっと……絶対変なことはしませんから! ちょっと入らせてもらってもいいですか⁉」


 いや、だいぶ変なことを言ってるよね。

 夫婦の寝室に入りたがる弟子……。わたしだったら断るわ……。


「なにかしら? はずかしいからあまりいたずらしたらいやよ?」


 頬を赤らめながら、1階の奥の部屋へと案内してくれる。

 え、いいの? 良い人過ぎない?


「はい、ここよ。準備が終わったら声をかけてちょうだいね」


 スーズさんはそれだけ言うと、寝室のドアを開け放ったまま、また工房のほうへと戻っていく。


「ありがとうございます! すぐに!」


 いや、良いの、ホントに。

 良い人過ぎるでしょ。何か盗まれたりとか考えないのかな。


 まあ、わたしも良い人なので悪事なんて働いたことないですけどね!

 よし、材料の準備はできてるし、一気に進めちゃおう!


 まずはベッドフレーム。

 今のベッドのサイズを計って……。ふーむ。クイーンサイズってところかな。妊娠中も出産後もだけど、ベッドから寝起きが大変だから、今よりも低めのフレームにしよう。ついでにベビーベッドも併設できるようにしとこ♪

 

 マットレスは全体固めがいいよね。だけど、上に重ねるマットはお腹の部分だけやわらかく沈み込むように調整、と。これで重くなったお腹の負担も減らせるぞー。


 シーツは汗を吸収しやすいように綿……に似た素材を手に入れてきたからそれで作るぞー。ついでにこれは『創作』スキルで複製してー、赤ちゃん用の肌着も何着か作っておく♡ 男の子でも女の子でも大丈夫なように、水色と黄色かなー。

 MP残り1000。まだまだいける、がんばれわたし!


 さあ、お待ちかねの羽毛布団だよ。

 綿……のような側生地を用意しましてー、中に洗浄したガチョウの羽毛をこれでもかってくらい詰め込んでいきまーす。詰めろ詰めろーい! 各小部屋に均一に羽毛が入ったら、小部屋を閉じて、全体の吹き込み口も閉じちゃいましょ。

 穴が開いているところはないかな? ちゃんとフカフカかな?


 うん、良い感じ♡


 最後に枕を2つ。YES/YES枕♡

 羽毛を詰め込んでー、ベッド一式完成だ!



「奥様ー! 準備できましたよー! こちらへいらしてくださいなー!」


 喜んでくれるかなー?

 ドキドキ。


「は~い。ずいぶん大きな音がしていたけれど、何かしら~」


 床がきしむ音が近づいてくる。

 ドキドキ。喜んでくれるかな?


 スーズさんの顔が見えてくる。

 部屋に入るなり――。


「あら~! これは何かしら~⁉」


 スーズさんは驚きの声を上げて、目をまん丸にしていた。つかみはOKね!


 真っ白な羽毛布団。

 一見しただけだと、布団だってわからないみたい。

 

「これは、新しいベッドとお布団です! わたしが考案した体に負担のかからないアリシア特製品ですよ!」


 ドヤァ。

 固まったままのスーズさんの手を取り、ベッドへと誘導する。


「こちらへ。腰かけてみてください」


 羽毛布団をめくり、マットレスに座らせる。


「固くて柔らかい……。バネのように跳ねるわ……」


 スーズさんが座ると、ギシギシとスプリングが小さな音を立てる。


「そうなんです。このバネで体の重みを吸収して負担がかからないようにしているんですよ。ちょっと横になってみてください」


「あら~♡ とっても柔らかいわ。まるで飛んでいるみたい」


 横向きに寝ころんだスーズさんは、うっとりした表情を見せ、マットの表面を撫でていた。


「どうですか? 干し草よりはだいぶ寝心地がいいでしょう? 枕も使って、さあ、布団もかけてみてください」


 靴を脱がせてから本格的に横にならせる。

 枕に頭を乗せたところを確認してから、体に羽毛布団をかけてあげる。


「なんてフカフカで軽いのかしら。それにとっても温かいわ。これは何?」


 リアクションがいいねー。スーズさん、テレフォンショッピングに出られるよ。バカ売れしちゃうよ。


「これは羽毛布団です。布切れの代わりに、鳥の羽毛を中に入れて温かさと軽さを実現しているんですよ」


「羽毛! アリシア、すごいわ。こんなことどうやって思いついたの⁉」


「えっと……鳥の羽毛って触ると温かいじゃないですか。布団にいれたら温まるかなーって。なんとなく試してみたらうまくいった、みたいな?」


 どうして思いついたか。

 これが一番聞かれたくない言葉……。

 前世の記憶ですーとは言えないし、もっともらしい言い訳をちゃんと考えておかないと詰むな……。


「こんなに良いものを……。最近お腹が大きくなってきてから、とても腰が痛くて……なかなか眠れなかったのよ。これならゆっくり寝られそう……」


 そう言いながらもうすでに目がとろんとしてきていた。


「気に入ってもらえてうれしいです。お疲れでしょうから、このまま少しお休みになってはいかがですか。工房の片付けはわたしがやっておきますから」


「でも……もうお店も閉まるから、そろそろお夕飯の準備を……」


「それもやっておきます。奥様は少し休んでください」


 その言葉への返事はもうなかった。

 すっかり眠ってしまったみたい。


 気に入ってもらえて良かったなあ。

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