第13話 アリシア、初めての相手になる

 どうしても腕輪の所有者の名前が思い出せない。

 一度は目にしたはずなのに……。おかしいな……。何らかの魔術で記憶を?


「腕輪は早々に処分なされたほうが良いかと。すでに隷属の効果も消えているようですし」


 これを手掛かりに犯人を特定するのは難しいと思う。

 相手の状況判断が早すぎる。

 深追いしてとんでもない目に合うのはこっちのほうだと思うから、手を引いておいたほうが良い気がする。


「それとラッシュ様」


 わたしはラッシュを小声で呼び、耳打ちする。


「おそらく何らかの理由でスレッド様、またはロイス様、もしくはその両名ともかはわかりませんが、何者かに狙われている可能性がございます」と。


 理由も目的もわからないけれど、誰かに狙われている。

 この動き、ただの詐欺や愉快犯では説明がつかない動きだと思うから。


「ご忠告感謝します。聖騎士ラッシュ、命に代えましても主をお守りいたします」


 おおー、ラッシュさんかっこいい。やっぱり騎士様だったんだね。


「街中で襲われる可能性は低いかもしれないですけど、昼間とはいえ、あまりうろつかないほうが良いかもしれませんよ。お2人は、その目立ちすぎです」


 ラッシュは無言でうなずく。

 身なりとか、言動とか、声の大きさとかね。お忍びならもう少し忍ぶ努力をしようね。


「で、スレッドリー様。そろそろ宿に戻りましょう。夜会の準備も必要ですし」


「そうか……ロイス嬢への贈り物がなくなってしまったな……」


 スレッドリーが悲しそうな表情で肩を落とす。ただ友だちになりたかった、か。やり方は間違っているけれど、そこは応援したいなって思う。


「スレッドリー様。贈り物がなくても友だちにはなれますよ」


「そうだろうか。何かを与えるから、皆頭を下げてくるんだろう?」


「そのような一方的な関係は友だちとは言えませんよ。金銭や物品の授受がなくても関係が続くのが友だちです。利害関係がなく、たとえば話をして楽しい、もっと一緒にいたいと思えるのが良い友人関係だと思います」


 わたしにはそんな相手いないけどね! ボッチのくせに何説教垂れてんだよって思ってるんでしょ! あー、わたしだって友だちほしいよぉ!

 わたしにはミィちゃんって恋人しかいないから、早く友だちを作らないとなあ。


「なるほどな。俺の話術でロイス嬢と友だちになればいいのか! なるほどな!」


「その通りでございます。夜会で仲良くなれると良いですね」


 目つきは悪いし頭も悪いけど、本当に悪いヤツじゃないことはわかったよ。それが伝われば、ロイス様も友だちになってくれる、かもね? そこまで責任持てないけど!


「アリシア、今日はありがとうな。俺は楽しかった。また会えるか?」


「それは良かったです。またいつか、わたしが王都に遊びに行った時にでもお会いできたら良いですね」


 縁があればまたとどこかで会うこともあるでしょう。

 この世界ではSNSのIDや電話番号の交換とかはないし、ホントに一期一会なんだなって、少し淋しく思ったりもするね。


「俺、同年代の女の子とちゃんと話をしたのは初めてだったけど、アリシアとは普通に話ができたな。し……屋敷にいる使用人たちや姉さま方は皆年上だから緊張するんだ……」


「そうですか。わたしも同世代の男の子とちゃんと話をしたのは初めてですよ」


 人族以外はまあまあ村にもいるけれど、悪魔みたいなサンスを除けば、同世代の男の子はまったくいないからね。


「お互い初めての相手だな!」


 いや、純粋な目でそのセリフはやめて?

 わたし、絶対嫌だからね⁉

 こら、ラッシュ! 笑ってる場合じゃないよ? こいつにちゃんと教育をしなさいよ!


「もう俺たち友だちだよな!」


「……そう、ですね」


 友だちか。

 まあ、別に友だちになってあげてもいいんだからねっ!


 図らずも、初めての相手(友だち)になってしまった……。

 まあ、それも悪くない、かな。


 わたしたちは手を振りあって別れた。


 初めての友だちかあ。


 縁があればまたどこかで会うこともあるでしょう。

 今度会えた時には、なんでも話せるような間柄になれるといいな。


『交渉』のレベルが一気に3になってる⁉ なんで⁉

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