第10話 アリシア、街で絡まれる
ローラーシューズに魔力を充てんする。
レッツゴー! ばびゅーん♪
まばらに歩く人の脇をスイスイ避けながら、ローラーシューズで軽快に移動する。
楽ちん楽ちん♪ 自動で滑るって快適だなあ。
ん、もちろん街中で最高速度を出したりはしないよ? 大人の早歩きくらいの速度に自重するってばー。わたしだってぶつかってケガしたくないもん。
それにしてもみんなジロジロ見てくるわーね。やっぱりわたしがかわいいからかな? いやん♡ これって『交渉』のパッシブ効いちゃってるってことー? 急に告白されたらどうしよう! お金持ってる人なら……でもどうしよっかな! もうゴールしちゃう?
まだ『交渉』はLv1だけど、そろそろレベル上がらないかなー。ね、ミィちゃんの加護まだー?
* * *
ほどなくして目的地の市場につきましたよーと。
一本道で助かった……。方向音痴じゃないよ?
領主のガーランド伯爵様のお屋敷にそこそこ近い場所に、この街の市場はあるのです。ちなみにこの街は、領主様のお名前を冠した『ガーランド』という名前だよ。紹介が遅れたかな。
市場にもっとも人が多い時間帯は、朝市の時だけど、昼間もわりとにぎわっているのが特長かな。王都からは少し遠い場所にあるガーランドだけど、大きめの街道がいくつかぶつかる場所にあるので、行商人たちが集まりやすい良い立地なのだ。
つまりー、昼間でもめずらしいものがいっぱい売っているわけでー。ママの買い出しによくついてきてたからわたし知ってるんだ! 日用品や食料以外にも鉱石や装飾品、この辺りでは取れない香辛料なんかも売ってるお店があったりする。
だけど今日のお目当てはそんなのじゃなくて――。
「おい、道を開けろ!」
なんだろ?
妙に騒がしい。いつもと雰囲気が違う。何かトラブルかな?
「しっかし、しけた市場だな。流通量も少ないし、質も悪い。田舎街の市場じゃ暇つぶしにもならんな~」
「そうですね……。王都に比べればどの店も、ずいぶんと品数も少なく……。あまり貿易が盛んではないのかもしれません。平民たちの暮らしぶりもかなり質素ですね」
「おいおい、ラッシュ。ここの田舎者たちだって生きるのに必死なんだ。俺としては必死に働いて税を納めてくれさえすればそれでいい」
「そう……でございますね。スレッドリー様。大変御心が広くていらっしゃる……領民あっての国……領地ですからね」
「褒めるな褒めるな。俺もまだ仮成人の身。このあと成人した暁には、どこか地方の領地をいただいて領主としての経験を積む。まずはそのための勉強をするところだからな」
うわー。会話がすでに頭悪ーい。
どこぞの貴族のご子息様が田舎街に遊びにきて、ちょっと気が大きくなっちゃった感じ? 大声で街全体を批判したりなんかしちゃってさー、周りの空気やばいけど……お連れの護衛さんも含めて空気読めない系かー。露店の店主さんたちも、行き交う街の人たちも無視を決め込んでるから、わたしも近寄らないでおこうっと。
「せっかく父上に頼んで式典にやってきたんだ。ずっと宿で退屈だったが、今夜の夜会だけは俺も少しだけ参加させてもらえることになっているからな」
お、声の主のお貴族様たちがいた。
なんだよ、子どもかあ。
目つき悪いし、チビだし。ど派手で金ピカの服もサイズぜんぜんあってないし。それなのにさらっさらの金髪で腹立つー。おまえこそ田舎の成金貴族なんじゃないのー?
周りの護衛の人は……1人か。おや、わりとイケメン! 帯剣こそしていないけれど、きっと騎士かなにかなんだろうなあ。バカ息子の相手は大変だねぇ。
「そうでしたな。ガーランド伯爵のご令嬢、ロイス様の仮成人をお祝いするための催し。その最後のセレモニーですからね。スレッドリー様も贈り物など何かご準備をされますか?」
「ロイス嬢は俺と同い年だとか。将来有望な美貌を持っているらしいと聞いている。なんとかお近づきになりたいものだ……」
ガーランド伯爵のご令嬢ロイス様。
たしかに美人だと評判にはなっているね。ちなみにわたしも同い年だけどねっ!
「ロイス嬢は何を喜ばれるだろう。女の子の好みはまったくわからんな……」
「申し訳ございません。私もそういった知識には疎く……」
さっきまでの威勢はどうしたー? 2人ともモテない君たちかー? マジウケるんですけどー!
早く目当てのお店に行きたいけど、ちょっとおもしろすぎるから、ダサ息子の観察をもう少しだけ……。
「やはり貴金属か。花か……」
重い重い!
初対面で、しかも夜会でしょ? 夜会ってたぶん舞踏会のことよね。子供も踊るのかな。でもそんな場で贈り物なんて無理じゃないの? 知らんけど!
「花をお持ちになったまま舞踏会に参加されるのは難しいかと……」
「おお、そうか。だとすると小さな貴金属が良いか」
「ポケットに忍ばせるくらいならよろしいかと」
よろしくないでしょ……。そんなのめっちゃ仲良くなって好意がある相手からもらわないと気持ち悪いだけでしょ。あとは超絶イケメンか、王子様くらいの身分とか?
「よし、そうしよう。指輪……ブローチ……何がいいんだ。お、おお……なんだかこの店が良さそうだな。おい、店主。この店で一番高い装身具はどれだ?」
なんだか怪しげな露店で物色を始めたね。
見た感じ、店主はこの街の人じゃないな。行商人のお店ってところかな。
「……はい。こちらでございます」
「これはなんだ? 見たことがないな」
「腕輪にございます」
陳列していた商品とは別に、奥から木箱に入った腕輪を取り出してきた。宝石はあんまりついていないし、金細工でもないし。でも、よく見ると複雑に彫り物がしてあって手がかかってそうな印象。
「腕輪か。どう使うんだ? 腕にはめるのか?」
「ああっ! 商品ですので装着はご遠慮ください!」
ものすごい焦りよう。店主が慌ててスレッドリーから腕輪を取り上げる。
「なんだ、ケチケチするなよ」
「実はこちらは魔道具でして。装着すると効果が発動してしまいますゆえ、ご遠慮願います」
店主が声のトーンを落としてスレッドリーに囁くように言う。
魔道具だから高いのね。どれどれ。どんな魔道具なのか見せてもらいましょうか。
構造把握――え、なにこれやばい!
隷属の効果が付与されてる……。ガチの魔道具だ。しかも国で禁止されてる奴隷用の……。この店、違法商品扱ってるやばい店だったよ……。
「ほう? 魔道具か。どんな効果があるんだ?」
「それは……」
「な~に、俺はこの街の者ではないからな。別に通報したりはしないさ」
目つきの悪い顔がさらに醜悪に歪んでいく。
こいつ、すでに悪徳領主の才能を発揮してるな……。
「はい……これは――」
店主がスレッドリーに耳打ちをする。それを受けて、スレッドリーの顔が口角を上げてさらに悪魔のように歪んでいく。
「ぜひこれをもらおう」
「ありがとうございます。金額は――」
「おい、ラッシュ」
「はい。本当によろしいのですね? 店主こちらを」
イケメン騎士ラッシュが、懐から小さな革袋を取り出してそのまま店主に渡す。
中身は……金貨が50枚⁉
え、やばばばば。
ママが雑貨屋の1年間の売上が金貨5枚分って言ってたんですけど……。10年分の稼ぎがこんな呪いの腕輪に……。
「なんだ、娘。貴金属に興味があるのか?」
「え、あ、わたし⁉ ハハー」
やっべー! バカ息子に話しかけられちゃった。
夢中になりすぎて見てたのがバレた!
「うむ。悪くないな。おい、おまえ、名前はなんという?」
何が悪くないんだよ……。エロい目でこっち見んな!
「えっと……アリシアでございます」
「アリシア。良い名だ。俺たちはこの街の人間ではないが、所用でしばらく滞在している身の上なんだ。少々退屈していてな。この街を案内せい」
うわー、めんどくせー。
わたしは退屈してないんだよ! 忙しいんだが⁉
「お嬢さん。急なお願いをしてしまい、申し訳ない。どうか、これを。しばしスレッドリー様のお話し相手になってはくださらないか」
イケメンラッシュにそっと手を握られる。
わたしに惚れたのかな? まいったなあ。魅力あふれ出ちゃってた?……って、握らされたのは金ですね……はい、お金払うから、ってことね、わかってましたよっ!
おっと、金貨1枚だと……。
しっかしこの人たちお金持ってるな……。ホントの成金貴族か。
まあ受け取っちゃったし、ちょっとだけ案内してやるかー。腕輪の件も気になるし。
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