第9話 アリシア、急用を思い出す
部屋の片付けも終わったし、立派な祭壇もできた。
ミィちゃんをイジっ……お話しして心も体も潤ったね!
じゃあ、親方のところに片づけ完了の報告に行きますかねー。
その前に、念のためセキュリティチェック!
360度結界ヨシ!
オートロックヨシ!
即死罠の作動ヨシ!
うんうん、バッチリだね。
これで上からも下からも、何人たりともわたしの部屋には侵入はできない。
ミィちゃんの1/8フィギュアが盗まれたら困るからね。それと、こっそり作っておいた、1/1抱きミィちゃんもベッドに寝かせたままだし。
わたしも今日から1人で寝るのかあ。
もうすっかり大人だなー。まあ、抱きミィちゃんがいればさみしくないよね。本物のミィちゃんと一緒に寝られるようになるまでのガマンガマン♡
階段を下りて1階に行くと、親方の奥様スーズさんがお茶を淹れているところでした。立って動いてるの初めて見たかも。
「部屋の片付け終わりました!」
「あら早いのね。小さいのに1人で片付けられてえらいわ」
「ありがとうございます。わたし、このあとどうしたらいいですか? 親方は――」
親方の所在を確認する。
辺りを見渡しても親方の姿は見つけられない。
「ああ、あの人なら隣よ。この時間は店番をしているわ」
「そうなんですか! 職人さんだからずっと工房にこもっているものかと思ってました」
店番なんて下っ端の弟子にやらせればいいのに。
スーズさんは小さく微笑むと、わたしの前にティーカップを置いてくれる。
スーズさんは……Tカップ……はないな。わたしの構造把握によると、Hカップ。だいぶすごい! まあ、その分、横幅もだいぶすごいけれども……。ミィちゃんみたいに細いのに巨乳なんて人はなかなかいるはずもないよね。って、スーズさん太ってるわけじゃないじゃないぞ! お腹に人間が! 赤ちゃんだぁ! しかも双子⁉
「本当はそうさせてあげたいんだけどね。私が前みたいに店番できれば良いんだけど……」
そう言いながら、スーズさんは愛おしそうにお腹をさすった。
「なるほど……わたし、店番やりますよ!」
スーズさんは太っているわけじゃなかったよ!
身重な体で長時間の店番はつらいから、親方がその分も働いて……なんて羨ましい夫婦愛なの! ああ、わたし、こんな家庭に生まれたかった……。スーズさんの子供に転生したいなあ。双子の妹に転生できたら、やっぱりアイドル目指そうかな!
「アリシアは表向きとは言っても、あの人の弟子としてここにいるんだから、ちゃんと皮や織物の技術を学ばないとダメよ。なんて言ったって、ミィシェリア様にご紹介いただいた方に店番をさせるなんてとんでもない!」
「いやいやいや! わたし、シルバ村のただの平民ですし! たまたまちょーっと運が良くて、ミィシェリア様に親方との縁をつないでいただいただけで……やれることはなんでもしますから!」
わたしは自分探しに。何かやりたいことを見つけに。そして働くことを学びに来たんだから。
「そう? そう言ってくれると助かるわ。うちはアリシアのほかに弟子が2人いるんだけど、これがまあ……とってもおとなしくてね」
スーズさんは苦笑した後、ティーカップを持ち上げてお茶を一気に飲み干した。
そのなんとなく扱いづらそうな雰囲気を出されている弟子たちはどこにいるのかな、と?
奥の工房にも誰もいないし、お店は親方が店番しているわけでしょ。じゃあ、どこにいるのさ⁉
「うちの人の言いつけで、材料の目利きに行っているわよ。たいした成果もあげられていないけれどね」
スーズさんは空になったティーポットとカップをお盆に乗せると、ゆっくりと立ち上がる。
「あ、わたしがやります!」
さすがに片付けくらいさせてくださいよ。
「悪いわね。もうすぐ産まれそうなんだけど、最近お腹が張ってしかたないのよ」
イスに座りなおすと、大事そうにお腹をさすった。
「お腹が張る……のはあまり良くないですよね。横になったほうが良いのではないですか?」
お腹の中の赤ちゃんが緊張したりするとお腹が張るって聞いたことがある気がする。お母さんがリラックスしないとそれが伝わっちゃうんじゃないかな。
「季節柄、干し草が硬くてね……。布切れを厚く敷いてはみてるんだけどなかなか……」
スーズさんが自分の腰をトントンと叩く。
双子だと重たいだろうし、腰痛もひどそう……。
それなのに硬い板みたいなベッドの上に、干し草を敷いて、その上にシーツをかぶせて寝てるだもんね。そりゃつらいわ……。
何とかしてあげたいな……。
何とかしようかな。
何とかしよう!
「ちょっとだけ急用ができてしまったので、外に出てきてもいいですか⁉ 絶対暗くなるまでには帰りますから!」
「そうなの? 1人で平気かしら。この辺りは治安もいいけれど。大通りだけにしなさいね。危ないところに近づかないように。十分に気をつけるのよ」
「はい! ありがとうございます。お茶のカップ洗っておきますね!」
割らないように慎重に。
……茶渋すごいな。
ん……重曹。よし、きれいになった。
「それじゃあ行ってきます! 市場ってどっちでしたっけ⁉」
「外に出て右にまっすぐ行ったところにあるわよ」
「ありがとうございます! いってきます!」
「ええ、いってらっしゃいな」
スーズさんにあいさつをしてから、わたしは工房を後にした。
出て右ね。
まだこの工房が街のどの辺りにあるか地図が頭に入らないなあ。……方向音痴じゃないよ? 違うよ? 慣れてないだけだよ! ホントだよ!
GPS……人工衛星が必要なんだっけ……さすがに無理か……方向音痴じゃないよ!
さてさて、市場に目当てのものは売ってるかなー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます