第8話 アリシア、油絵に挑戦する

 ミィちゃんの祭壇んんんんん!


 やばい、どんなのにしよう⁉

 部屋のリフォームにMP使いまくっちゃったからなあ。MPは省エネで、手持ちの素材を使ってなんとかしたい。でも、貴族様にも負けないような豪華な祭壇にしたい!

 となると――。


「純金製かな?」


 余ってる素材が純金ばかりって……いろいろバグってる気がするけど、仕方ないのよねー。

 ここパストルラン王国では、金の抽出はまだ技術として確立されていないみたいで。どうやら砂金が主な金の採取方法らしいのよね。街道にこれだけ山金が含まれた石が打ち捨てられてるところを見ると、おそらくこの辺の山からはかなりの量の金が取れそうな気配なんだけど。

 つまり1人ゴールドラッシュ! 

 わたし的には一攫千金待ったなしでうれしいけどね!


「さてさてー。あんまり大きい祭壇を作っちゃうと、スペース的な意味で生活に支障が出るから、コンパクトめになっちゃうけど、ミィちゃん許してくれるかなー?」


 その代わり中身はうんと豪華にするからね!

 ミィちゃんのエロ写真と、エロいフィギュアを作って飾ろう。んー、でも羽根は持ち歩きたいから飾るのはやめとこうかな。


『おほん。あの写真を人前に出すのはやめてくださいね』


 あ、ミィちゃん! こんにちはー。


『はい、こんにちは。アリシアは元気に挨拶ができて偉いですね』


 ミィちゃんのほうから話しかけてくれるなんて、とってもうれしい! もしかしてわたし、これから告白される? 体育館裏に呼び出しなの? 伝説の木の下なの?


『違います。写真は禁止ですと伝えるために……』


 えー。あれ、めっちゃエロいのにー。


『私は女神ですから。エロさは求めていないのです。そういう目で見られると……神性が下がります』


 ふーん。そういうもんなんだね。女神様も大変だ。

 サキュバスとかインキュバスって神様じゃなかったっけ?


『それは魔族の類ですね。神性はありませんよ』


 そっか。

 ミィちゃんもそんな感じの表情してたから、女神様の仲間なのかと思っちゃった。


『失礼な。私のことを性的な目で見ているのはアリシアくらいですよ……』


 そっかなあ。そんなことないと思うけどなー?

 だってこの間、神殿出る時、ハゲがミィちゃんの石像をペロペロ舐めてたよ?


『何ですって⁉』


 わたしが「司祭様なにしてるんですかー?」って尋ねたら、慌てふためきながら「ほ、埃がついていたので清めておりました」って言ってたけど、あれは絶対ウソだね。ハゲが舐めたら逆に汚れるでしょ。


『あのハゲ……』


 ミィちゃん、ミィちゃん!


『なんでしょうか?』


 人の容姿のことを悪く言うのは良くないよ?


『はい……すみませんでした』


 大人なんだからそういうとこはちゃんとしようね?


『大変申し訳ございませんでした……。まさかアリシアにマナーを指摘されてしまうとは……』


 大丈夫よー。わたしってば心が広いから許しちゃうよー。

 あ、ところでー、エロ写真がダメだとすると、祭壇に飾れるのがフィギュアだけになっちゃうんだよねー。それだとちょっとさみしくないかな?


『私が礼拝に際して何かを強制するようなことはありません。アリシアが気の済むようにしてください』


 好きにしなさいって、とっても難しい返事だよー。

 気持ちを、誠意を見せろってやつね? お布施が足りないと舌打ちするやつよね?


『そんなことはしませんよ。あなたの信仰心の問題ですから、どんな形であれ、私はうれしいのです』


 ふーん。そっかあ。

 じゃあ私も石像ペロペロしよう。


『それはやめてください!』


 どんな形であれって言わなかった?


『石像ペロペロは今後一切禁止します』


 へーい。いや、わたしはそんなことしないけどね? ハゲと間接キスなんて死んでもごめんだし。あ、死んで次の転生っていう手もあるかな?


『それは私からは何とも……』


 ウソだよー。ずっとミィちゃんと一緒だよー。うれしい?


『はいはい。うれしいですよ。ずっと私の信徒でいてくださいね』


 つれないなぁ。

 あ、じゃあ、この写真を見ながら似顔絵を描いて飾ろうかな。それならどう?


『そういった信仰の表し方もとてもうれしいです。期待していますよ』


 よっしゃー! 描くぞー!

 って、意気込んでみたけど、前世でも絵なんて描いたことないや……。

 しかーし! ミィちゃんの見た目の構造は把握しているのだよ、構造はね! なんとかなるっしょ?


 まずは紙とペン……いや、やっぱりここはキャンバスに絵筆でしょ! 油絵のほうが重厚でミィちゃんの美しさが映えるでしょ!


『初心者なら難しいことにチャレンジしないほうが良いと思いますよ』


 大丈夫ー、いけるいける♪

 なんかこう、ラッキーが重なって、ぶちまけた絵の具が奇跡的に絵になってる感じなんでしょ、どうせ? 

 それで「うわー、キミの才能は後世に語り継ぐべきものだー! ぜひ私と結婚してくれー」って感じで、わたしの描いた絵が国宝になって、ついでに王族になれるって寸法でしょ?


『寸法でしょ、と言われましても……。そうですね。そうなるといいですね……』


 全部このラッキーガールに任せておきなさいって。

 油絵って、油で絵の具を溶けばいいんでしょ? ふんふん♪ 楽勝楽勝♪



* * *


 そう思っていた時もありました……。


「これ、何?」


『何と聞かれましても。……抽象画、でしょうか? 大変味わいがある絵ですね。とてもよく描けていると思いますよ……』


 気休めはよして……。わたしのラッキーはどこに行っちゃったの? ぐっすん。


 何度も描き直してたらさ……どんどん厚塗りになっていくし、その度に色は濁るし、ミィちゃんの透明感とは程遠いドス黒さだよ……。

 キャンバスにインクをぶちまけた何かは……とてもミィちゃんの姿には見えてこない。目を閉じて心の目で見ても……見えてこないっ!


 失敗だあぁぁぁぁぁぁ!


 絵は無理だー!


『やはり練習が必要ではないでしょうか』


 正論!

 女神正論!


 そこはチートで何とか……あっ。


 スキル:創作!


 なんということでしょう。

 先ほどまでインクをぶちまけただけのただのゴミクズが、あっという間にミィちゃんの姿を写実的に捉えた絵画へと大変身しました。


 ふっ、最初からこうすれば良かったんだ……。


『わたしはさっきのほうが愛を感じましたけれどね』


 愛⁉

 わたし幼女だからむずかしいことわかんにゃい。まだそのミィちゃんの言う愛がわかる領域にいけてないかも。

 だって、キレイに描けてるほうが良くない?


 でもさっきのゴミはなくなっちゃったし、わたしはこっちの美しいミィちゃんを飾って祈るね!

 それとこれがミィちゃんの美しさを立体的に形にした1/8フィギュア(塗装済み)になります。内部構造は把握できていないから外見だけ再現ね。


『なかなか良いですね。このポーズは洗礼式の時の私ですね』


 そうでーす♪ わたしに手をかざしている時のミィちゃんをイメージして作りました。羽根が広がっているのは想像で付け足しておきました。こっちのほうが美しさを表現できると思ったので!


『とても良くできていると思います。早速飾っていただけますか?』


 はーい。

 金の祭壇にフィギュアと絵を飾ってー。

 他は何かな。お賽銭箱とか、供物のお供えもする?


『祈りだけでけっこうですよ』


 ふーん。そういうものなんだね。ではさっそく!


 今日も一日ありがとうございました。ミィちゃんのおかげで、こうして工房に住み込みで働けるようになり、大変感謝しています。ミィちゃんが嫁に来た暁には、ベッドはダブルベッドに拡張したいと思います。明日もよろしくお願いします。


『はい。今日もお疲れ様でした。ずっと1人その小さなベッドで眠ってくださいね』


 ちぇっ。つれないなー。

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