第7話 アリシア、住み込みで働き始める
「おまえさんがアリシアだな。今日からよろしく頼まぁ!」
「へい、親方! お世話になりますっ! オスッ!」
ミィシェリア様の紹介ということもあり、そこからはとんとん拍子だった。
わたしは、アザーリンという革職人の親方のもとに住み込みで働かせてもらうことになった。弟子入りのための試験みたいなものは何もなかったけど、この世界ではそういうものなのかな?
ちなみにアザーリン親方は街の市場近くで雑貨屋を営んでいる。同じ敷地内に工房、兼住居もある。つまり親方は職人であり商人でもあるわけ。
今は工房の中を一通り案内してもらったところだ。
革職人とは言いつつ、繊維にも造詣が深いようで、機織り機みたいな機械も置いてあるし、手縫いの刺繍がいくつも飾ってあった。さすがに金属加工はやっていないようで、火が入った炉などはなかったけれど、手広くいろいろな加工や修理なんかも請け負っているみたい。
「はっはっは、元気だな。いろいろな機械がめずらしいか? 坊主……じゃない嬢ちゃんか。ミィシェリア様から『見込みがあるからかわいがってやってほしい』と、ありがたいお言葉をいただいているからな。俺に任せとけ!」
おい、今どこ見て坊主って言った⁉
親方と言えどもアリシア様のナックルパンチが火を噴くぞ⁉
「あなた、立ち話もいいですけれど、案内が終わったならお部屋に案内してあげないと。荷物も運んで……あら? アリシア、着替えや裁縫道具は家から持ってきていないのかしら?」
スーズさん、親方の奥様が手ぶらなわたしを見て不思議そうな顔をする。手ぶらと言っても、手に何も持っていないっていう意味だからね? 手でブラジャーをしているわけじゃなくて……お? まだ必要ないだろって言ったヤツがいるな? 今すぐジェットスキーで市中引き回しの刑に処すわっ!
「アリシア?」
「あ、はい! 荷物はカバンにすべて入れてきました! 修行の身ですから、ゼイタクは敵です!」
ウソでーす! 全部アイテム収納ボックスに入れてきました! 修行するふりして贅沢三昧でゴロゴロして暮らしていきたいでーす!
「そう? それならいいのだけれど。あなたお部屋に案内してあげて」
スーズさんは椅子に腰かけたまま親方に指示を出す。まったく動こうとしない。親方、尻に敷かれてるのかな……。
「おう、こっちだ。ついてこい」
親方の手招きに応じて階段を登る。2階に上がり一番奥の部屋の前まで行くと、親方はドアを押して部屋に入っていった。
「ここだ。しばらく使っていなかったから、悪いんだけど掃除から頼まぁ」
「はい、かしこまりました!」
床には埃が2センチは積もっている。木製の小さなイスとベッドがあるだけの物置小屋みたいなスペースだ。
なかなかあれだね。別に雑多にものが置かれているわけじゃないんだけど、ずっと使われてなくて、まったく誰も立ち入っていない空き部屋だったって感じの雰囲気。「ボク明日には白ネコになっちゃうよ」って感じのー。
うん、でもゼイタクを言っちゃいけないね。仮成人を迎えたばかりの小娘に住み込みで修業をさせてくれるなんて普通はないことなんだから。ミィちゃん様様だよ!
「掃除が終わったら納屋から干し草を運んでベッドの上に敷くといい。シーツは下にあるから、あとでカカァから受け取れや」
「ありがとうございます。おかまいなく!」
さすがに干し草の上では寝たくないなー。まあ、掃除も兼ねて部屋をフルリフォームしちゃおっかな♪
親方が階段を下りて行ったのを確認してから静かに部屋の扉を閉めた。
さってさて~、ここからは、アリシアちゃんによる魔改造☆劇的ビフォーアフターのお時間だー!
まずは埃を掃除して部屋全体をきれいにしないとねー。
さて、こんな時のために準備しておいた掃除機の出番かな♪
まあ、実はすでに、便利家電はだいたい試作済みなんだよね!
でもなかなかに苦労の連続でしたよー。
前世の記憶をたどって何かを作ろうとすると、とにかく何をするにも『プラスチック』と『ステンレス』が必要! この2つ素材がないと、満足のいく強度と精度と軽さが保てなくてなかなか大変でね……。
燃料は石炭が主流だから、石油なんて見かけないし。金の精製も満足にできないのに、レアメタルなんてもっと無理無理な文明レベルだから、どっちも市場になんて出回ってないのよねー。
いつかは探鉱なんかにも力を入れて資源を押さえてから、産業革命でも興そうかな……。
なんて夢の話は置いておくとして、ないものない! だからひとまずMPを使って創作していくしかないのだー。ってことで、休み休みやっているわけー。
めまいとの闘いはこれからも続く!
そんな苦労の末に生まれたのがこれ!
吸引力の変わらない、ただひとつのサイクロン掃除機だー! わたしのサイズに合わせて、ハンドクリーナーにしてみました♪
はい、あっという間に部屋の埃は消滅、と。
んー、ワックスがけなんてしたら目立ちそうだから、絨毯でも敷いてお茶を濁しておくかな。
なんて言ったって、わたしは裁縫職人ってことになってるからね。絨毯の1つくらい作れてもおかしくないよね?
今日の気分はー、ハートとうさぎ柄にしよう♪ リフォームにはフィーリングとライブ感が大事! 部屋全体に絨毯を敷き詰めてー、ふっふーテンション上がるぅ♡
壁紙は水色をベースに雲が浮いてる感じにしようかな。なんか心も落ち着くし?
あとはベッドフレームとポケットコイルのマットレスを作ってー、と。
そうだ、絨毯にしたんだからやっぱり床に座りたいな。ローテーブルと座椅子も用意しよう。今あるイスはイケてないから分解しちゃお。ついでにこの古臭いベッドも処分! テーブル用の木材は……たしかアイテム収納ボックスの中にあった! 大量に仕入れておいたニセアカシア!
まあまあ家具は準備できてきたかな……。
んー、でもなんだかちょっと部屋が暗いな。
アレクサ、ライトつけて。
『すみませんどのデバイスですか』
いや、照明1個しかつけてないでしょ……。まあいいや。どうせ魔力蓄電式のライトだし、自分で充てんしよう。
とまあ、あれこれ3時間ほど格闘――。
なんということでしょう。
埃をかぶって物置同然だった空間が居心地の良い我が家に大変身しました♪
ぅ、ちょっとめまいが……しばらく寝よう……。
あ、忘れてた。
鍵つけなきゃ!
防犯は大事だよー。
鍵を壊して部屋に入ろうとしたら、レーザーで焼かれて体ごと塵になって消滅するようにしとこ♪
あとは窓ガラスも強化ガラスにしておけば大丈夫だよね。
最後のMPを振り絞って、がんばれわたし!
ああっ、もっと大事なこと忘れてたぁぁぁぁぁ!
ミィちゃんのための祭壇作ってないっ!
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